第14話 デートはどうなるの?
少し落ち着いてきたなー……あー、やってしまった。初デートでこれはさすがに恥ずかしい……!
まあ、そんなに上手く行くとは思ってなかったけど、ここまで失敗してしまうなんて……。
愛想つかされたらどうしよう……あんまり覚えてないけどなんか変な事も言っちゃったみたいだし、き、嫌われたりはしない……よね?
不安と凹みと体調の悪さで気を失いそうになっていると、小走りで戻ってくるなつみさんの姿が目に入った。
走り方まで可憐なのね……弱点が無さすぎる!
「ごめん、ちょっとだけ何買うか迷っちゃった」
余裕の笑顔を見せるなつみさん。
凄いなぁ、どんな状況でも私みたいに変にテンパッたりしないんだろうなぁ。
「ああ、ごめんなさい……なんかこんな……わざわざ買いに行って貰っちゃって……」
「良いのよ、困った時はお互い様、でしょ?……それで、あの……こんな感じでどうかしら?」
なぜか若干緊張してる様子で、そっとコンビニの袋を手渡してくれるなつみさん。
「いやいやそんな、ありがとう」
中を開けると―――――……茶色い小瓶の栄養ドリンク2本と、一本で満足出来るバーが入っていた。
予想外過ぎる内容に、たぶん一瞬頭上に
「!?」
っていうマークが出たと思う。
「えっとね、何が良いか色々悩んだんだけど、栄養はやっぱり補給した方が良いかな、と思って栄養ドリンク、飲んだことないんだけど、小さいから1本じゃ足りないかもと思って2本、あとは、栄養もあって手軽に食べられるバー。どうかしら?そんなに悪くないチョイスじゃないかしら?」
……うん、いや……うん?
なつみさん?
私、おにぎりとかで良かったんだよ……?
いやでも、きっと私が急に倒れたりしたから心配してくれたんだよね。間違ってない、なつみさんは何も間違ってない。
「あ、あの、ダメだったかしら?アタシなにか間違えたかしら?」
私の戸惑いが伝わってしまったのか、なつみさんの表情が不安で曇る。
いけない、そもそも私が迷惑かけて、買ってきてもらったのにこんな不安を与えて来いけないわ!
「そんなことないです!丁度栄養ドリンクだったら良いな、って思ってました!」
さすがに嘘っぽい気がすると思ったけれど、心底安心した笑顔で
「本当に?良かったー!」
と笑うなつみさんの笑顔がとても眩しかったので、この笑顔を本当にしてあげたい、という願いと共に栄養ドリンクをグイっと飲んだ。
……あれ、もしかして栄養ドリンク飲むのって人生初では……?
ちょっと苦いような、薬みたいな味がするけど、意外と甘味も感じてそこまで悪くない。
後味はちょっとクセがあるけど……けっこう嫌いじゃないかも。
勢いのままもう一本も飲んでみる。
二本飲んでも平気なのかな?と一瞬思ったけど、身体が栄養を欲しているので止まらない。
こっちはジュースみたいな甘さがある。果汁が入っているみたい。飲める。
そのままの勢いでバーも食べる。
なるほど意外と食べ応えがあるから小腹が空いた時には良さそう。
気付くと買ってきてもらったものを全部たいらげて、何なら本当に少し元気出た。
栄養ドリンク……名前に栄養と入ってるのは伊達じゃないのね。
「ふぁー、ありがとうなつみさん。少し落ち着いた。本当にごめんね迷惑かけて」
「いいのいいの、アタシもなんかちょっと楽しかったし」
「……楽しかったって……何が?」
迷惑しかかけてないのに?
と思っていると、なつみさんは少しだけいたずらっぽい笑顔を見せて、
「なんていうか……アタシの買ってきたものを夢中で食べてるなぎさちゃん見てたら……ちょっと、餌付けしてるみたいって思っちゃった」
「ええっ!?」
「ふふふっ、冗談よ冗談。でも、食べてる姿が可愛かったのは本当。さっすが私の――――彼氏だねっ」
最後の一言を耳元で囁かれて、ちょっとゾワっとしてしまった。
はっ、これがアレなのね、ASMRとかいうヤツなのね……!
私はそういうのあまり好きじゃないと思ってたけど……なるほど、これは好きな人が居るのもわかるわ……と一瞬で理解させられてしまった……!
本当にこのなつみさんという人は……魅力がありすぎるのよね!!
その後、少し話しながらさっき貰った水を一本飲み切ったところで、体調の回復を確信できた。
やっぱり食べて飲んでしたのが良かったみたい。
食事、大事。
時計を見ると、もうAM11時近い。
待ち合わせが10時だったから、一時間以上も無駄にしてしまった。
そこで私は今日の目的を明確に思い出す。
「ごめんなさい!デート行かなきゃだよね」
これはデートであると同時に、動画の撮影という仕事なんだ。
スケジュール通りに撮影しないと、週3回の動画配信のストックがすぐに尽きてしまう。
配信者というのは思っていた以上に大変だと、実際にやる側に回って初めて分かった。
定期的に動画を出したり配信したりしないとすぐに登録者数は減ってしまうし、かといって出せばいいというものでもなく、一定以上のクオリティは保ち続けないといけない。
プロならともかく、素人がそれをやり続けるのは想像以上に困難だ。
学校含めて普段の生活もあるし、ちゃんとした動画以外にショート動画を撮影したり、SNSの更新、そこに乗せるための写真の撮影……やることが……やることが多い……!
私はそれに乗っかっているだけなのだけど、実際に計画を立てて企画を考えて準備して撮影して編集して……本当に尊敬してしまう。
そんななつみさんのプロ意識を間近に見ておきながら、比較的気楽なはずのデートVlogでこのていたらくの私……!!
申し訳なさすぎる……!
なので、すぐにでもデートを始めようと思ったのだけれど……なつみさんは少し考え込んでいる。
「……どうしたの?早くデート行かないと時間無くなっちゃうよ」
「うん、そうなんだけどね……」
あ、クセが出てる。
最近気づいたなつみさんのクセ。
考え込んでいる時に、両手で髪の毛の少し高い位置を掴んでちょっとツインテールっぽくするんだよね。
頭を抱えてぐしゃぐしゃっとやる人はよく見るけど、そのぐしゃぐしゃの代わりに髪の毛を掴むことで、自然とツインテールっぽくなってしまうのです。
本人は無意識みたいだけど、これがだいぶかわいい。
普段はツインテールとか甘めの髪型はしないタイプなので、悩んでいるとき限定で見られるこれが私は密かに好きなのです。
その可愛さをしばらく眺めていると、ふっ……とツインテールが解かれた。
何か思いついたみたい。
「よし、今日のデートは延期にしましょう!」
「……えっ!?」
思いもよらないその言葉に、外なのにちょっと大きい声が出てしまって少し左右を見回す私。
ああ良かった、そこまで注目されてない。
通りすがる人達はみんななつみさんをチラ見していくのはいつものことだけど。
可愛いから仕方ないよね。
私だってこんな子が居たら絶対見ちゃうもん。
って、それどころじゃない。
デート延期!?
「ちょっ、ちょっと待ってなつみさん。確かにその、体調崩しちゃった私が悪いんだけど、でもその中止にするほどじゃないっていうか……それはあまりにも申し訳ないし、何よりちゃんと撮影しないと動画のストックが……」
しかし私のそんな言葉にも、なつみさんは口角をニーっと上げて笑って見せる。
「大丈夫、そういうの全部大丈夫だから、ついてきて!」
言うやいなや、私の手を掴んで引っ張って歩き始めるなつみさん。
掴まれた手首からは、ハッキリとした強い意志を感じた。
「ちょっと、どこに行くの?」
「いーからいーから!アタシについてきて!」
その背中には全く迷いが無くて、この背中についていけば全てが何とかなるんじゃないかと思ってしまう。
けど……いったいどうするつもりなの、なつみさん?
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