第13話 い、いや、ちがくて、いやらしい意味とかではなく!②

「い、いや、ちがくて、いやらしい意味とかではなく! オレ一人暮らしだし、じゃない。女の子一人だと男に襲われたりするかも、ってオレも男か、えっと、えーっと……」


 やってしまった。

 思わず思ったことが口から出てしまった。

 同性の友達じゃないんだ。

 誘われても迷惑だろう。


 こういう時、ちゃんとした選択肢が選べるならボッチやってないんだよちくしょぉぉぉぉ!


「くすくす。分かってます。サグルさんがそういう人ではないってことは」

「ふう、よかった」


 京子が優しく微笑んでくれたのでオレは胸を撫で下ろす。

 どうやら、京子もうっかり俺が言っちゃっただけと気づいたようだ。


 通報されたりしたらめちゃくちゃ悲しいし、精神的なダメージは計り知れないところだった。


「じゃあ、案内してもらっていいですか?」

「え?」


 京子はイタズラっぽく笑う。

 一体俺はどこに案内したらいいんだ?


「サグルさんの家。連れて行ってくれるんですよね?」

「え? えぇぇぇぇぇぇ!!」


 渋谷の空に俺の絶叫がこだました。


***


「へー。ここがサグルさんの家ですか。結構スッキリしてますね」

「何もないだけだよ。まあ、座ってくれ」


 結局押し切られるように俺の家に京子を招くことになった。

 女の子が家に来るなんて、今までなかったから、どうしたらいいのかわからない。


 忙しすぎて、ミニマリストの部屋みたいになっていたが、それが結果的にオシャレっぽくなっていて良かった。

 変に男っぽい部屋だったら京子にいらない気遣いをさせたかもしれない。


 京子は一体どういうつもりで俺の家まで着いてきたんだろう?

 多分、俺は安全だと思ってくれたんだと思うが。

 そう思ってくれるなら、その期待には応えないと。


 うぅ。

 結構なプレッシャーだ。


(でも、あのまま放っておくよりは、連れて帰ってきた方が良かったよな)


 これで京子をネットカフェなんていう危ない場所に置いてこなくて済んだのだから。

 今までは大丈夫だったかもしれないが、これからもずっと大丈夫だとは限らない。

 やっぱり、早いうちに家に帰るように説得する方がいいだろう。

 京子のきている制服はこの近くの学校のものだ。

 あれがコスプレでないのなら、この近くに住んでいるんだと思うし。


「あの、お風呂借りてもいいですか?」

「ん? あぁ、いいぞ?」

「えーっと、湯船に湯を張っても?」

「大丈夫だ」

「やった。久しぶりのお風呂だ!」


 京子はスキップしそうな勢いで浴室へと向かっていく。

 リラックスしすぎじゃないですか? 京子さん。

 それだけ信頼されていると喜ぶべきか。

 男として見られていないと悲しむべきか。


 そして、しばらくしてから浴室からお湯の流れる音が聞こえてき出した。

 どうやら、湯船に湯を張り始めたらしい。


「確か、この辺に、あ、あった」


 クローゼットの中に、母さんが来た時に使ったエアーベッドが入っていた。

 電動で膨らむ結構いいやつだ。

 これで寝て貰えばいいだろう。


 母さんもシーツを被せれば普通のマットレスとして使えるって言ってたし。


 俺はエアーベッドを膨らませ始める。


 ……これ、結構うるさいな。

 壁薄いんだけど、壁ドンとかされないかな?


 まだ十時回ってないし、流石に大丈夫か?


「あれ、もう寝ちゃうんですか?」

「今日は結構長い間ダンジョンの中にいたからな。特に最後のEランクダンジョンがきつかった」

「確かに」


 風呂場から帰ってきた京子は寝る支度を始めた俺を不思議そうに見てきたが、俺の話を聞いて、納得したようだ。


 ダンジョンの中だと、十倍の時間が流れる。

 Fランクダンジョンに潜っていた時間とEランクダンジョンに潜っていた時間を足せば十時間は超える。

 朝起きてから、すでに二十四時間以上経っているのだ。

 そう考えると、疲れたと思っても変じゃないだろ?


「風呂が沸いたら京子が先に入っちゃえよ。寝る準備をしちゃうから」

「え、でも。サグルさんがこの家の家主だし」

「そんなこと気にしないで。京子が入った湯に俺が後から入るのが嫌なら、抜いてくれてもいいよ。いつもシャワーしか浴びてないから、俺はシャワーでもいいし」


 少々の押し問答の末、京子が先に入ることになった。

 俺は京子が風呂に入っているうちに、比較的綺麗なシャツをパジャマがわりに用意したり、毛布を用意したり、京子が寝る準備を調えた。

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