第9話 もしかして、俺の体、改造されちゃってる?③
「じゃあ、このままダンジョンを脱出するか?」
「えっとそれなんですけど」
京子は言いにくそうに口ごもる。
俺は京子が話し始めるのをゆっくりと待った。
「サグルさん。しばらくの間、一緒にダンジョンの中にいてもらえませんか?」
「え?」
ダンジョンから出た時、他の探索者から見えないように保護されているそうだが、ダンジョン突入時やダンジョンの中で一度でもパーティを組んでいればその保護が適用されないらしい。
ダンジョン内でパーティを解散すると位置情報の共有なんかは解除されるのに。
そんな仕様のため、今、京子がダンジョンの外にでればケンタ達と鉢合わせてしまう。
そうなれば、何をされるかわかったものじゃない。
かといって、ダンジョン内で長い時間を過ごすのも危険だ。
このダンジョンは京子にとってかなり危険な場所だし、京子は『見習い僧侶』らしいので、戦闘向きではない。
他のジョブは育てていないらしく、ジョブの変更もできないらしい。
そもそも、『ダンジョンGo!』もケンタに一週間前に声をかけられて、そこで初めてインストールしたそうだ。
情報収集もケンタに任せきりだったため、一人になるとどうしたらいいかわからないのだ。
「えっと。すぐにでは無理かもしれませんが、お金も払います! だから」
「わかった」
「本当ですか!!」
俺が断ると思っていたのだろう。
俺がOKすると、花が咲いたように微笑んだ。
美人の笑顔は破壊力が高い。
この笑顔を見れただけでも十分な報酬な気がする。
それに、乗りかかった船だ。
最後まで面倒を見てもいいだろう。
母さんも『女の子には優しくしなさい』って言ってたし。
「じゃあ、とりあえず、パーティを組むか」
「え? いいんですか?」
「いいって何が?」
「パーティを組むと、報酬や経験値が均等割されるので」
「そうなのか? まあ、いいだろ」
報酬はもう十分得ているし、経験値に至っては、まだ入った実感があまりない。
Eランクダンジョンにきてからセカンドジョブの『見習い魔法使い』が『V』まで成長したが、『忍者』の方はまだレベルが上がる気配を見せない。
いや、『一閃』のスキルが増えたんだったか。
でも、これは今までの経験値のおかげか、一刀でモンスターを倒してきたおかげかわからないんだよな。
それに、京子が今日稼げなかったのは多分俺のせいだ。
少し考えれば避けることはできたと思うが、原因の一端は俺にある。
その分を補填するためにも、パーティを組むのはちょうどいいだろう。
え? 男二人?
男のことは知らんよ。
「それで、パーティってどうやって組むんだ?」
「え? 知らないんですか?」
「あぁ。実は、『ダンジョンGo!』は昨日始めたばかりでな」
「えぇぇぇぇぇぇ!」
ダンジョン内に京子の叫び声がこだました。
***
「サグルさん、ずるいです」
「そんなこと言われてもな……」
俺のこれまでの探索について、京子に少しだけ教えた。
初めて入ったダンジョンが偶然Fランク以下のダンジョンで、簡単に攻略できてしまったこと、そこで称号を得られて、『忍者』のジョブを得られたことなんかだ。
ユニーク称号や、『無敵の人』なんかについては教えていないが、それでもずるいと言われてしまった。
ついでに、京子が今日はあまり稼げなかったのも俺のせいかもしれないと一緒に伝えたが、そっちについてはあまり気にしていないようだった。
「称号なんて、Cランクに潜る探索者でも片手で数えられるほどしか持ってないんですよ? それを初めての探索で取得するなんて」
「え? そうなの?」
「はい。ケンタが今日、自慢げにそう言ってました。あいつも称号は持ってなかったんですけど」
どうやら、俺が思っていたより称号というのはレアなもののようだ。
「まあ、ラッキーだったってことで、京子もこれから称号が得られるかもしれないし」
「そうかもですけど……」
京子は俺のことをサグルさんとよび、俺は京子のことを京子と呼ぶようになった。
俺からの呼び名は京子さんとか京子ちゃんとか、矢内さんとか色々話し合ったのだが、さん付けはちょっと距離が遠いし、ちゃん付けをしたらすごい顔をされてしまった。
確かに、ちゃん付ってどこか見下してる感が出るよな。
対等な相手と思っていないというか。
結局、『京子』と呼び捨てることになった。
苗字で呼ぼうとしたのだが、それは全力で拒否された。
……もしかしたら、家庭はあまりいい状況じゃないのかもしれない。
「じゃあ、さっさとダンジョンを攻略しますか」
「はい!」
俺は京子と一緒にダンジョンの奥へと向かって進んでいった。
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