第17話 ターゲット候補の細分化

 少しだけアドバイスをしようか、という山田の提案に、真奈美は雨上がりの晴天のような表情で顔をあげた。

 山田は、おかしくて仕方がないらしく、笑いを抑えきれていない。


(もう、教えてくれるなら、最初からさらっと教えてくれてもいいじゃないのよ)


 真奈美はほっぺたを膨らませた。


「じゃあ、思いつく範囲で説明するね」

「はい、お願いします」

「まず、ターゲットの市場だけど、ざっくりしすぎだよね」


 先日の議論で、結局最優先は建設現場市場、次点は物流。となっていた。


「……ざっくり、してますか?」

「うん。市場としてはそれでいいかもしれないけど、誰が最終ユーザーなの?誰が資産保有者なの?だれがサービサーなの?我々メーカーは誰に売りたいの?」


 真奈美はハッとした。

 たしかに、建設現場への販路が欲しいというキーワードは定義できたけど、具体的に誰といわれると言葉に詰まる。


「つまりね、M&A実施方針はできたとはいえ、まだターゲット候補を絞るまでに定義ができていないということなんだ。これじゃ、銀行に質問しても良い回答は得られないよね?」


 その通りだ。

 真奈美は、専門書の表面的なタスクだけをこなしてきて、実際はまだまだ現場の本質には達していないことを実感し、赤面した。


「すみません、その通りです」

「いやいや、いいんだよ。それで。事業本部との会話だから、今はその程度のコンセプトが決まっているだけで十分。でもこの後は……」


 山田は、ホワイトボードにバリューチェーンについての仮説の殴り書きを始めた。


「本当に欲しい機能をもっと細分化するんだ。

 そのためには、市場のバリューチェーン分析が必要になる。

 今、みんなは何をどのような流れでものを作って売っているのか」


 山田は涼しい顔で続けた。


「施工者と言っても、大手ゼネコンが元請けするけど、

 実際には誰がこのような機械を使って建設工事をしているかな?

 その人に、どんなルートで提供したり、保守サービスしている?」


 真奈美は答えられず、赤面して俯いた。

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