第6話 決断
落合は、二度、真奈美が経営幹部にM&A報告をした場面に立ち会っていた。
—— 経営会議に呼び出されたときは、CEOの前でコンシューマ事業本部の成長のために宮津精密への出資が妥当だと訴えた。
——産業機械事業本部が、リスクが大きいCFOトップダウン案件を指示されたときは、買収案件の中止をCOOやCFOに対し提案した。
落合はこのときのことをよく覚えていた。
「事業本部と一緒になって買収候補先を探してみてほしい。頼まれてくれるね?」
真奈美は即答できずにいた。
今回の相談は、次期中期計画にダイレクトに織り込まれる非常に重大な取り組みになるから簡単な話ではない。
そして、真奈美自身、一から案件創出をした経験はない。
おそらく能力的な適任者なら他にいくらでもいるだろう。
鈴木部長、山田チーフ、他のMA推進部メンバー……
その時、心の中から声が聞こえてきた。
『他の人がどうとかより、やりたいの?』
(……私でいいのか分からない。私がやり切れる自信もない……)
『いいかどうか、できるかどうかじゃなくて……やりたいの?やりたくないの?』
(……)
真奈美は、ゆっくりと落合と視線を合わせた。
(そっか。私がどうしたいか……まずはそこなのね)
真奈美は自分の考えが頭の中で整理されていくのを感じた。
(落合CTOの期待に応えたい。そして、事業本部の将来に貢献したい)
真奈美は背筋を伸ばした。
そして目を閉じて大きく息を吸い深呼吸をする。
(私は、M&Aで事業に奇跡を起こしたい!)
大きな責任が生じる決断。
これまではこんな大事な決断の際には常に山田の助言を仰いでいた。
今回は、ここで、自分一人で決めなければいけない。
(ええい、ままよ!)
「はい、やらせていただきます!」
なんとか絞り出した声はびっくりするぐらいの裏声だったが、落合は満面の笑みを持って受け止めたのだった。
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