第228話 降臨
Sise:天霧 英人
『私はイヴァ。魂と輪廻の女神』
淡く輝く光のシルエットは、女神イヴァと名乗った。
この人がイヴァ……ユミレアさんや龍王様の言っていた神?
それにこの声は、レベルアップの度に流れるアナウンスの声だ。
神を名乗る光は、呆然とする俺に続けた。
『其方には三つの選択肢があります。輪廻の輪に戻り、再び生を受けるか。私の魂と力を受け継ぐか。はたまた、永劫の夢を見続けるのも良いでしょう。さあ、お選びなさい』
待て待て……いきなり過ぎる。
何がどうなっている? それにさっき試練が終わったと言っていたけど、そんなもの受けた記憶はないぞ。
『試練は、あなたの意志で始まった事では無いとだけ言っておきましょう。其方に神玉が宿ってから10年程、私は其方の行動を見守っていました。そしてレベルが100になった事で、試練が終了したのです』
当たり前の様に思考を読んだ上での回答をしてくる。
「10年?」
俺のステータスが発現し、戦えるようになったのはついこの前だ。
『それは何者かが地球に作り出した。ステータスなどという「理」の所為なのです。その何者かに見つからぬ様ステータスシステムに侵入し、其方に試練を課すのに10年程かかりました。本来であれば、魔王種との戦いの前には試練が完了しているはずだったのですが……予定通りには行かないものです』
理? なんだそれ……ステータスに関係している。それが今まで俺にステータスが発現しなかった理由なのか?
聞きたいことがまた増えたな。
「その『理』というのはなんなんですか? それからさっき、俺の意志で試練が始まったわけじゃないって言ったの――」
『今は其方に時間がありません。こうしている今も、外の世界では其方の仲間達が戦っているのです』
せっかくの機会に、なんでも知っていそうな女神に色々確認することにしたが、時間がないと遮られた。
「戦っている?」
まさか……魔神軍が地球に?
『魔神ゼラ配下の魔王種が一人、「鬼王アルバゼオン」が九州に現れたのです。そして間も無く、鬼王は儀式を完了させるでしょう』
イヴァ様はそう言って、俺の目の前に映像を映し出した。
宙空に現れたスクリーンには、上空からどこかの山の様な場所が映し出された。
カルデラの様な窪んだ大地に、黒い鬼と白い鬼の二体がいる。
黒い鬼は地面に仰向けになり、その横で白い鬼が杖の様なものを振っている。
そして鬼達の周りには、数えきれないほどの人間と思われる人々が膝をついている。
『黒い鬼が鬼王アルバゼオンです。彼は数百万人の人間の魂を捧げ、その身に地球の伝承を宿そうとしている様です』
数百万人の魂を捧げて、伝承を宿す……鬼の周りにいる人々全員を生贄にするってことか ! ?
バカな……俺が眠っている間にそんなことが……この映像に映る罪無き数百万の人達が死ぬ?
「今すぐ行かないと!」
見殺しには出来ない。
『残念ですが、彼らを救うことはできません。鬼王に印を付けられた彼らの魂は、既に贄として定められています。ですが其方が私の力と魂を受け継ぐのであれば、鬼王を討つ事はできましょう。これ以上の犠牲は出さずに済みます』
もう手遅れだって言うのか?
『今一度問います。輪廻の輪に戻り再び生を受けるか。私の魂と力を受け継ぐか。それとも永劫の夢を見続けるか?』
色々疑問はある……まずはそれを知りたい。
でも現実の世界は相当に切羽詰まってるらしい。
若干不服ではある……けど、今は素直にイヴァ様に従っておく方が良いかもしれない。
輪廻の輪に戻るか、力を引き継ぐか、夢を見続けるかね……
夢を見続けるって言うのは、さっきまで見ていた夢に戻るってことかな?
正直に言うと、それも悪くないと思ってる。
でもさっき、俺は戻ると決めたんだ。
こんなの一つしか有り得ないじゃないか……
「力と魂を受け継ぎます」
『よろしいのですか? 其方は既に、現実では死んでいます。今は肉体の滅びを食い止めているに過ぎません。そこで私と同化することで、其方は魂を司る存在となり、再び現世に降り立つことができます』
俺が死んだ? そうだよな……真っ二つにされて生きている方がおかしいもんな。
でも良い。
もう一度戦えるなら、なんだって。
『其方は肉体を捨て、
肉体が必要とする、睡眠や食事が不要になるってことか?
メリットに聞こえるけど……
今はイヴァ様の言う事はあまり分からないけど、受け入れてみせるさ。
「問題ありません」
『分かりました。では天霧英人よ……其方に託しましょう。これより同化を始めます……』
イヴァ様がそう言うと、俺の中へイヴァ様の光が流れ始めた。
光のシルエットは徐々に小さくなっていき、俺の方へと吸い込まれていく。
『其方が受け継ぐ力は魂の力――それはソウルと呼ばれる、四次元エネルギーの事です。詳しい事は、魂が教えてくれるでしょう』
力の扱い方も、同時に受け継ぐってことで良いのかな?
俺の考えを読んでいるイヴァ様は、何も言わずに頷いた。
そして崩れていくイヴァ様は、消え去る前に言葉を残した。
『其方の疑問のすべては、目覚めた後に「大賢者リビオン」から聞くといいでしょう。リビオンのソウルスキルが、其方の知りたい全てに答えることができます』
大賢者リビオンね……分かりました。
疑問でごちゃごちゃしている俺の頭の中は、鬼王アルバゼオンを倒した後に整理するとしよう。
龍王様やイヴァ様達に何があったのか。
それから父さんの事も……少しの間だけ、片隅に仕舞っておこう。
『最後に……私は神を名乗りましたが、その実は人間と変わりません。ただ、力を持っていただけなのです。あなた方と同じ様に悲しみ、笑い、怒る。私に神という役割は重過ぎました。あなたはどうか、壊れませんように……』
イヴァ様と同化しているからだろうか……無念、罪悪感、嘆き、多くの感情がダイレクトに伝わってくる。
そして今最も強い感情は、安堵や感謝だった。
『それから神とは、人間だけの神ではありません。魔族だけの神でもない。それをどうか、忘れないように――』
イヴァ様に何があったのか、今は分からないけど……俺は全力を尽くすだけだ。
目の前から、光が完全に消えた。
それと同時に、脳内にアナウンスが響く。
『「魂の権能」の継承が完了しました。全ての制限が解除されます』
『全てのソウルスキル、コアスキルが「魂の権能」に統合されました』
『複数の功績の達成を確認。「功績」より報酬が与えられます』
立て続けにアナウンスが響き、最後のアナウンスが流れた時だった。
俺の頭は、その言葉を理解する事を拒絶した。
『レベル100の到達を確認。ソウルスキル「――」が与えられ――』
「……」
俺が理解を拒絶していると、視界が暗転し体が引っ張られる様な感覚がした。
それから数秒、どこかへ引っ張られる感覚はすぐに治った。
そして今は、どこかに浮かんでいる様な感覚がしている。
多分現実の世界に戻った気がする……しかしながら体の感覚が無い。
視界も真っ暗だし、音も聞こえない。
どうにか体を動かそうと考えた時、頭にその方法が浮かんだ。
『ソウルで体を作る』
そうか……俺は死んだから、肉体は権能で時を止めている状態。
言うなれば死体だ……感覚が無いのも当然だな。
どうやら、ソウルを使えば感覚の一部に加えて、擬似的な肉体を再現できるらしい。
とりあえずやってみようか。
頭に浮かぶ……いや、魂から伝わる力の扱い方を実践する。
ソウルを、俺の残された上半身と左腕に流していく。
そして失われた右腕と下半身を、濃密なソウルで形成していく。
少しソウルのコツを掴むのは大変だったが、なんとか肉体を再現できた。
それから俺の魂と、ソウルで作った……ソウルボディとでも言えばいいか? それにリンクさせていく。
これでソウルボディに加わる外部からの影響を、魂で感じることができるみたいだ。
まず最初に視界が確保された。
ゆっくりと目を開けると、最近よく見る天井だった。
俺の部屋だ……
そこはクランハウスの自室だった。
寝室にもかかわらず、小さいけどひと目で高価だとわかるシャンデリアが暖色を灯している。
帰ってきたのか……
どうやら俺の体は、自室のベッドに寝かされているみたいだ。
そうこうしている内に、続いて聴覚が戻った。
「あぁ……英人……」
涙声で俺の名前を呼ぶのが聞こえた。
一発で、母さんだと分かった。
そして触覚が戻り、俺の手を誰かが握っている感覚と、胸の上に何かが乗っかっている感覚、そして左側からは風が吹いている。
辺りをぐるっと見回した。
風はディーンの荒げた鼻息で、胸の重みはリトス、手を握っているのは母さんだった。
「母さん……みんな……ただいま」
右手を強く握り返し、左手でリトスとディーンを撫でた。
リトスとディーンからは強烈な歓喜が伝わってきた。
「ヒッヒ〜ン!!! ブルル!!!」
「ピュイ〜!!! ピュイピュイ!!!」
そして何故か、母さんからは絶望や悲しみが強く伝わって来たのだった。
***
あとがき
投稿が滞っており申し訳なく思います。
ラストに向けて重要なエピソードが重なっている現状、一話仕上げるのに時間を要しています。
そして次話以降より各キャラのステータスが登場していきます。
もしかしすると数値の計算ミスだとか、これまでのエピソードとの食い違いなどがあるかもしれません。
そんな時は気軽にご指摘いただけると嬉しいです。
できるだけ間隔は空けずに、次話の更新を目指して努めてまいります。
それから先日、過去のエピソードの誤りのご指摘がいくつかありました。
数が多いので、章終わりにまとめて修正させていただきます。
ご指摘本当に助かります。
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