第222話 人の上で鬼は笑う

Side:村雨大地



 

「お前が弥愁未来だな? 悪いが始末させてもらうぞ。恨むなら、『勇者』のジョブを得た己の運命を恨むがいい」


 俺達の前に弓聖が現れ、そして直後に真壁さんからの通信が入る。


『すまないねぇ。まんまとしてやられたみたいだ』

 

 弓聖の足止めは失敗したか……


 未来視は遠い未来ほど不確定になるらしいからな、こればかりは仕方がない。


 弓聖が来てしまった以上、この場でなんとかするしかない。


 弓聖の攻撃射程は、さっきの攻撃からすると少なくとも200km。

 言うまでもなく、最強の後衛だ。


 だがその攻撃が弓である以上、槍の間合いに入れば俺でもなんとか……


 そうなるとやはり、転移のユニークスキルと思われるキノコ頭の男、あいつが邪魔だな。


 なんとか二人を分断できれば――


 弓聖の対処に頭をフル回転させていると、突然未来の影から何かが飛び出てきた。


「とう! ランジュはどこネ! ギタギタにしてやるネ!」


「タオさん ! ?」


 突然の登場に驚く未来の横で、タオさんはキョロキョロと弓聖を探しながら騒いでる。


 タオ・フェン……味方なのか、それとも敵か。


 タオさんが敵である可能性も考え、一応の警戒をしながら俺は成り行きを見守った。


「久しぶりだなタオよ。私はここだぞ?」


 弓聖とは逆方向を向いていたタオさんは、その声に瞬時に身を翻して反応する。


「ランジュ……よくもリーフェイを誑かしてくれたネ! 覚悟はいいアルな?」


「フッ……おとなしくダーリンの横でメソメソしていればよかったのにな? 丁度いい、ここで勇者と一緒にお前も始末してやるぞ」


「忘れたアルか? ランジュ、お前は一度もウチに勝ったことはないアルよ?」


 タオさんが拳を構え、臨戦態勢に入る。


 味方と考えて良いみたいだな。


「ハハハ! 笑わせるなタオよ。ここは闘技場でもなければ、一対一の真剣勝負でもない。ここは戦場だぞ?」

 

 そう言って弓聖は、背中の大弓を手に取った。


「自分で言うのも何だが、『弓聖』は戦場においてこそ真価を発揮するのだ」


 弓聖の背後で、再び空間が歪んだ。


「そうそう、言い忘れるところだった。タオ、お前のクランは既に解体され、メンバーは一人残らず拘束済みだ。お前にもう帰る場所は無い。この地で眠るといい」


 そう言い残し、弓聖とキノコ頭は空間の歪みへと消えた。


 その直後、遠くの空から大量の光が上がった。


 あれは……まずい!


 四方八方から、次々に光が打ち上がる。


 西側の山から光が上がったと思えば、次は反対の東側から打ち上がる。


 そう言うことか……転移で場所を転々としながら、長距離射程の魔力矢の攻撃。

 

 宛ら、転移する砲大ってところか。


 確かに、戦場での弓聖は厄介極まりない!


 打ち上がった光は天高く昇り、そしてこの場所めがけて落下を始める。

 

「攻撃がくるぞ!」


 俺がそう叫ぶと、キンちゃんが俺の前に立った。


「おまかせを……」


 キンちゃんの体は光に包まれ、筋骨隆々の巨漢から、小柄な少女のシルエットへと変わる。 


「リカちゃんさんじょ〜う! メイルシュトロームジェイル・ふるぱわー!」


「極知」の魔法強化モードとなったキンちゃんが、俺達全員を包む水流の結界を生成した。


 俺達を包んだ水の壁に、弓聖が放った無数の魔力矢が直撃する。

 

――ボン! ボン!


 魔力矢を受けた水の壁は、一撃で穴が開く。


 そして穴が空いた箇所に瞬く間に水が流れ込み、その穴を修復する。


――ボン! ボン! ボン!


 穴が空き、塞がり、それが四方八方で繰り返される。


 まずいな……ギリギリ何とかなっているだけで、そんなに長時間は耐えられない。


「うぅ〜、ちょっと魔力がキツいかも〜。誰かあいつ何とかしてぇ〜」


 魔法強化モードのキンちゃんでも、このまま壁を維持するのは無理か。


「な ! ? こいつ誰ネ ! ? ムキムキゴリラが幼女になったネ!」

 

 タオさんが騒ぎ始めると同時に、遠くから僅かに連続した爆音が聞こえてきた。


――ドン! ドン!


 何だ……これは、海岸の方角から聞こえる。


 すると、海岸で防衛線を敷いているクランからの通信が入る。

 

『クラン「闘神」の西郷だ。敵艦隊からの砲撃が始まった。砲撃による被害は軽微だが、龍の絆には早めに応援願いた――』


――ドーン!

 

 俺達への応援要請の途中で、通信の向こうから更なる爆音が響き渡った。

 

「どうした ! ?」


『……西郷だ! 内陸側から魔力矢の攻撃! 被害甚大……至急――』


 通信は途中で途切れてしまった。


 俺達と同時に、海岸側の部隊へも攻撃を仕掛けているのか ! ?


 少し弓聖や中国軍を甘く見ていたな。


 海岸の防衛線は被害状況が掴めず、俺達も身動きが取れない。


 こうして弓聖の参戦により、大分市の戦況は確実に悪化していた。





***

Side:鬼王アルバゼオン





 そろそろ頃合いだな……


 人間達への印の付与は、あと少しで完了する。


「ナルバ! こっちに来い」


 俺は我が妻であるナルバゼノンを呼んだ。


「お呼びでございますか? 旦那様」


「人間どもの動きはどうなっている?」


 印の準備が完了するまで、この九州という大地をナルバに監視させていた。

 

「この山の周辺に、人間達の軍勢が集まって来ております。ですが人間も一枚岩では無いようで、南と東で人間同士の衝突が起こっております」


 フハハ! どこの星でも変わらねぇな!


 人間は常に、人間同士で争っている。


 魔族と呼ばれる俺達とも戦争はするが、人間を最も多く殺したのは、やはり人間であろうな!


 お前達の愚かさに、今は感謝しねえとな?


「クハハ! 本当にバカで助かるぜぇ。残りの人間達に印を刻んだら儀式を始める。それまでの時間は適当に稼いでくれよな?」


「御意に……西側から軍が迫っております。そちらは人間同士の衝突が無く、直にこちらに辿り着いてしまうやも知れませぬ」


「ならあいつらを向かわせるか……アイとベニ! それからルジャクもだ! 来い」


 アイとベニの二人に加えて、人狼族のルジャクを呼んだ。


「父上、母上、ここに……」

「妾達の出番かえ?」


「これはこれは……鬼王妃ナルバゼノン様とお見受けします。私は人狼族族長、ルジャクと申します」 

 

 そういやルジャクのやつは、ナルバに会うのは初めてだったか。


 まあいい……


「西側から人間どもの軍が来てやがる。お前等で足止めしてこい」


「仰せのままに……」

「足止めと言わず、殲滅してきても構わんかえ?」


「アイ殿の言う通りだ。別に殺しても構わないんだろう?」


「ああ、ちょっと時間が欲しいだけだからな? 別に構わねえよ」


 こいつ等が意気揚々と向かう前に、ナルバが要注意人物を伝える。


「西側での脅威は、一番は白髪の女。次点で金髪の槍使いになるでしょう。南側にいるエルフと龍人の参戦に注意されたし」


「「御意に」」


 そうして、ベニとアイ、人狼族の群れは西側へと向かった。


 ようやくだぜ……ゼラの野郎にヘコヘコするのも終いだ。


 俺様が世界を支配してやるよ……鬼神アルバゼオン様がなあ!

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