悪夢の残響編
第196話 糾弾
Side:天道レイナ
真祖吸血鬼ネメアの討伐から4日が経った。
「――今回の東京大侵攻における死者・行方不明者は、合わせて約700万人だと推定されます。その中には、総理大臣を含めた議員の方々、我々探索者協会の財前元会長も、映像による死亡が確認されています」
ここブレイバーズ本部にある会見場に集まったメディア、そしてカメラの向こうにいる日本国民に向けて、今回の吸血鬼の襲撃について説明しているのは、私の父「天道和久」だ。
父は殉職した財前会長に代わって、新しい日本探索者協会会長となった。
「そして……我が国の英雄である『勇者』御崎潤、そのパーティーメンバーである金田剛、そして水城絢の三名の死亡を、この場で発表させていただきます。三名は敵首領である推定SSS級の魔物によって討たれました」
隣に座る父が勇者の訃報を告げた瞬間、会場はざわつく。
「そんな馬鹿な……」
「SSS級の魔物だって?……」
「SSS級指定の魔物ですが、現在は『龍の絆』代表である天霧英人による討伐が確認されていますのでご安心ください。そして大侵攻によって確認された多数の魔物の残党についても、数日で殲滅が完了する見込みです――」
襲撃についての説明が終わると、今度は私や英人、今回の戦いで生き残った者達についての説明が始まる。
「クラン『ブレイバーズ』は真壁正義が代表となり、今後も我が国の最高戦力の一角として、この国を支えてもらいます」
御崎潤の死亡で、副代表である真壁さんが代表を引き継いだ。
「おじさんそろそろ引退を考えてたんだけどね〜、まあ頑張るよ」
真壁さんは、私が小さい頃から一線で活躍する凄腕の探索者よ。
今回の大侵攻でも、ブレイバーズの本部をほとんど一人で守り抜いてみせた。
「そして今回の東京大侵攻における多大な功績を認め、以下の者達を特別昇級とさせていただきます」
今から名前が上がる人達は、ほとんどが龍の絆のメンバーになる。
「まずはこちらにいる『龍の絆』副代表の天道レイナを、S級探索者に任命します」
会場は多数の称賛と、少しばかりの疑念の声が飛び交う。
「続いて『龍の絆』から、探索者リカ・村雨大地・アーサー、以上の三名をA級探索者として承認いたします――」
その後、元々A級であるセツナさんを除いた、クランのほとんどのメンバーが昇級を果たした。
ちなみに「リカ」と言うのは、我道さん(キンちゃん)の探索者名ね。
いろんな名前使っててややこしいわよね……あの人。
探索者の登録時の名前は、自由に決められるのよ。
アーサーもリカも、芸名みたいなものね。
「そして今回の大進行でSSS級指定魔物を討伐した功績によって、『龍の絆』代表である天霧英人を、特別指定S級探索者に任命いたします」
特別指定S級探索者とは、大侵攻を受けて新たに設定された階級。
有事の際、国家や協会に属する全ての人員は、特別指定S級探索者である英人の指揮下となる。
自衛軍も龍の絆以外のクランも、英人の指揮によって動くことを義務付けられる。
今回のような事態が発生した時、現状で対抗できる戦力が「龍の絆」、主に英人やミランダ師匠しかいないために、父が臨時の議会で反対を押し切って強引に決定された。
多方面からの批判は絶えないだろうけれど、総理も大臣も東京の協会支部の支部長もほとんどが不在の今、日本は国家存亡に関わる緊急事態。
この決定はこの国を守ためのものだと理解しているわ。
こうして、父が一通りの説明を終えると、続いて質疑応答に移る。
「それでは質疑応答に移ります。質問のある方は挙手をお願いします」
始まるわね……
一斉に記者達が手を挙げ、会見の進行を務める美澄さんが順番に質問者を指名していく。
「えー、週刊Dリーグ・関西支部の竹田です。今回の大進行で確認された魔物ですが、言葉を操る映像をいくつか見ましたよ……あれらは本当に魔物なんですか?」
いきなり突っ込んだ質問ね……
今回の大進行の様子を収めた、街頭の監視カメラや市民が撮影した映像が、既に多く出回っている。
「以前四国や東京周辺で確認された、異常個体の魔物と同様だと思われます。彼らはダンジョンの魔物と違い、意志や感情があります」
「ではその……以上個体の魔物? はどこから来たんでしょうか? ダンジョンが現れて50年、今まで確認された事は無かったはずですよね?」
「それは――」
父の回答を遮り、別の記者が質問を被せてくる。
いかにも性格の悪そうな男性記者が、嫌な笑みを浮かべて喋り始めた。
「聞くところによると……龍の絆でしたっけ? 天霧英人率いるクランが、魔物に乗って現れたとか? その魔物達も、言葉を話していたとか……あれぇ、変ですね? あぁ……もしかして、今回の大進行は……自作自演とか?」
やっぱり碌な記者じゃ無かったわね。
その記者の発言は、今日本中で囁かれている陰謀論だ。
会場がざわつき始める。
「総理や勇者を含む大勢の権力者が死んだ。そして自動的に会長となり探索者協会の権限を握った天道和久……そしてその娘が、何の功績かも疑わしいものでS級に昇格と……よくできた都合の良いシナリオですよねぇ?」
そして、堰を切ったように騒ぎ出した。
「説明をお願いします! 天道会長!」
「犠牲になった大勢の方達についてはどう思われますか!」
「天霧英人は魔物を使役しているという疑いもありますよ!」
「答えてください!」
「どう責任を取るおつもりだ!」
「ふざけるな! 息子を返してくれ!」
「私の家族も死んだのよ!」
強烈なフラッシュの嵐と共に、記者達が詰め寄ってくる。
厳しい質問の中には、罵詈雑言も混じっていた。
「静粛にお願いします! 静粛に――」
美澄さんが場を収めようとするも、会場の喧騒が収まる気配はない。
記者達に揉みくちゃにされる前に、私達は慌てて会見を中断し、会場から逃げる様に立ち去った。
はぁ……私は代表に向いてないのかしらね。
カメラの向こうで大勢の人間が、記者達と同じように思っているでしょうね。
これからずっと、あんな目を向けられるのかしら……
早く起きてきなさいよ……バカ英人……
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