第181話 双極
Side:天霧 英人
周囲が赤い光で染まり、ネメアからドス黒い力の波動が溢れ出す。
「アタシはネメア……血の女王にして始まりの吸血鬼」
ニヤリと不敵に笑いながら、ネメアは両手を広げて尊大にそう言った。
それと同時に、俺の脳内にアナウンスが響いた。
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
『契約者二名の魂が覚醒しました』
『眷属二体の魂が覚醒しました』
レベルアップに覚醒……何が起こってるかわからないけど、気を取られている場合ではない。
もうアナウンスはしなくていい。
俺の意志がコアに伝わったかは分からないが、そこでアナウンスは止まった。
アナウンスの後、再びネメアが動きを見せる。
「ここまでよく頑張ったわぁ……ご褒美に、大人しくコアを渡せば苦しませず殺してあげるわ」
「断る。そもそもどうしてこれが欲しい?」
俺は大剣の柄に嵌る「魂の神玉」を指差して問う。
「坊やは本当に何も知らないのねぇ……フフッ」
そしてネメアが微笑んだ直後、いつの間にか耳元でネメアの声が聞こえた。
「教えてあげる」
「っ ! ?」
速い ! ?
右頬に衝撃が走る。
「ぐっ!」
顔面でネメアの拳をなんとか受け切り、負けじと反撃を試みる。
「はあ!」
左拳の龍気を増幅させ、放たれた拳打はネメアの腹に突き刺さる。
「んっ! 痛いわねえ!」
ネメアの背後から真っ赤な腕の様なものが4本、俺に向かって伸びてくる。
血液で作られた腕 ! なんでもありかよ ! ?
慌てて龍気障壁を複数枚展開するが、赤き触腕は展開された障壁を簡単に粉砕する。
――パパパーン!
触腕の連撃を浴びた俺は、勢い良くビルの壁面に叩きつけられる。
――ドーン!
なんてスピードとパワーだ……これが真祖か。
「世界を創造する二つの神玉は、二つ揃ってこそ意味があるのよ」
赤き月を背に、ネメアは神玉について語り出す。
「坊やが持つ『魂の神玉』はソウルを司る。そしてゼラ様が持つ『力の神玉』はマナを司る」
力の神玉、それを魔神ゼラが持っている?
そして語り出すネメアに、俺はそのままお喋りを促す。
「それで、二つ揃うとどうなるって言うんだ?」
「フフッ……死者の復活、新たな種の創造、世界の全てを思うがままにできる。どう? 興味が湧いてきちゃったかしら?」
なるほどね……それが本当なら、こいつらがここまで本気で奪いにくるのも頷ける。
「でも残念、神は一人で良い。それも坊やではなくゼラ様が相応しい。さあ、大人しく死んでちょうだいな」
なんとなく分かった。
この「魂の神玉」のせいで、ユミレアさん達は戦いに巻き込まれ死んだ。
他の大勢のイヴァの世界の人々が死んだ。
そして俺がこいつを持っているせいで、日本の罪なき人々が大勢死んだ。
俺の目的が増えた。
父さんを探す。
そしてついでに──
「神玉は渡さない。俺がお前達を殺し、この悪夢の連鎖を終わらせる」
この神玉の力のおかげで、俺は目的に向かって進むことが出来た。
だが同時に、この力を持った責任を果たさなければならない。
「大きく出たわねぇ……まだ神玉に認められてもいない坊やが」
認められる?
まだ100%の力を引き出せていないってことだろ?
それは分かっているさ。
「レベル100を目指せ」と、龍王様が言っていたのと関係あるんだろう。
でもやるしかない。
もう感情の抑制はいらない。
失った悲しみを、奪われた怒りを、何もできない悔しさを……
「狂龍臨天・オーバーソウル」
感情の水面が揺れ動き、潜んでいた狂龍が現れる。
力と共に、多くの感情が溢れてくる。
俺は溢れる力を大剣に乗せ、ネメアに斬りかかる。
――ズン!
目の前の空間が歪むほどのスピードで、ネメアの背後を取る。
「龍閃咆」
「っ ! ?」
驚く声がわずかに聞こえるが、ネメアの体はピクリとも動かない。
俺は大剣を振り抜き、ネメアの首を刎ねる。
――グォアア!
龍の咆哮と共に衝撃波が炸裂し、ネメアは跡形もなく消し飛んだ。
まだだ……
目の前で消し飛ばしたネメアの血肉が、上空に集まていく。
見上げるとそこには、先ほどネメアが打ち上げた真紅の月から無数の血の糸が伸びている。
そして徐々に、集まった血液は肉体を形成し始める。
瞬時にネメアの元まで飛翔し、再生が終わる前に攻撃を叩き込む。
「龍鳳波」
左拳に龍気を一瞬で充填し、ネメアの胴体に放つ。
――グォアア!
再びネメアを消し飛ばすが、またしても月から血の糸が伸び、再生を始める。
「何度でも消しとばす! 龍燕斬!」
龍気の斬撃を飛ばすが、今度は無抵抗では無かった。
月から血の触手が伸び、龍気の斬撃を迎撃し始める。
その後はイタチごっこが続いた。
消し飛ばす、再生する。
それの繰り返しだった。
流石にキリが無さすぎる……ん?
際限なく起こるネメアの再生に打開策を見つけようとしたところで、あることに気付いた。
月が……小さくなっている?
見間違いではない。
空を覆い隠す程の大きさだった真紅の月は、僅かに小さくなっている。
ネメアの再生は始まったばかり、行けるか?
俺はすぐにターゲットを月に変え、大剣を送喚して両手を向ける。
ネメアの再生が終わるまでの間に、できる限りの龍気を集める。
――ゴゴゴオ!
狂龍臨天のおかげか、龍気の流れが恐ろしく速い。
あっという間に、真紅の月に匹敵するほどの龍気の塊に成長した。
そして膨れ上がった龍気を炎に変える。
――ボウ!
激しく燃え上がり、薄暗い周囲が強烈な光に包まれる。
くっ! 熱量が凄まじい……
肌はヒリつき、両手は燃え上がる
これで十分だ。
俺は再生中のネメアを巻き込み、真紅の月に向けて龍魔法を発動した。
「龍炎魔法・龍極の
小さな太陽は、真紅の月めがけてゆっくりと突き進む。
猛烈な光と熱波を放ちながら、全てを燃やし尽くす。
そして再生が終わろうとしていたネメアを巻き込み、血の月と衝突した。
――ゴゴゴ!
太陽が触れた側から、月の血が蒸発していく。
俺は上空で起こるその様子を、しばらくの間眺めていた。
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