第160話 孤高の獅子は天へと至る

SIDE:レオナルド・オルティリオ



 

「クハハ! 死ねい! 雷降山らいこうせん!」

 

 猛烈な稲光が走った瞬間、俺の目の前に誰かが割り込んだ。


 現れたのはユミレアだった。

  

 翡翠の髪を靡かせ、俺の前で大きく両手を前方へと掲げる。


「大地の精霊よ……我らに守護を! 霊銀創生!」


 雷斧が迫り来る直前、地面から白銀に輝く巨大な石の壁が出現した。


 目の前が白銀の石壁で覆われた直後、おそらく爺さんの斧が直撃した。


――ドカーン! バチバチバチ!


 雷が弾け、目を開けていられないほどの光量に包まれる。


「もう一人で突っ込むな。力を合わせなければ死ぬだけだ!」


 ふぅ……助けられちゃったか。


 俺もまだまだだよねぇ。


「お前一人では奴を倒せん。私とタオ・フェンと3人で奴を倒す」


 そう言われると一人でやりたくなっちゃうな……


 まあ助けられたわけだし、話だけでも聞いてやるか。


「そうは言うけど、策はあるの?」


「お前の因果の力と、私の精霊の力を合わせれば……或いはな」


『ふあぁ……ムニャムニャ』

 

 俺のユニークスキルねぇ……


「お前の因果の能力は『概念』だ。概念はお前次第でどこまでも広がる」


 ふーん……要するに、俺の力はこんなもんじゃないって話ね?


『スピー……スピー……』


「てかそんなことより、その肩でグースカ寝てる奴は何さ?」


 ユミレアの肩で、あくびをしたかと思えば、今度は寝息を立てている亀がいる。


 そう亀だ……甲羅から虫みたいな羽を生やしたね。


「この御方は『大地の精霊』様だ」


 精霊? まあよくわかんないけど……


「その精霊様は何ができるのさ? 力を合わせれば勝てるんだろう?」


「ああ……大地の精霊様が生み出す『霊銀』、これがおそらく奴に有効なはずだ」


 霊銀ねぇ、この壁のことかな?


 さっき目の前に出現した白銀の石壁、きっとこれのことだろうね。


 そんな会話をしていると、壁の向こうから爺さんの声が聞こえた。


「クハハ! エルフの娘……貴様レーネの秘術の使い手であったか!」


 壁の向こうからそんな高笑いが聞こえる。


「ならば面白いものを見せてやろう! 風の精霊! この壁を蹴散らせい!」


――パリーン!


 猛烈な突風が白銀の壁を一瞬で粉々に砕き、向こう側から爺さんが姿を現す。


 そして爺さんの隣には、妖精の様な小さな何かが浮遊していた。


「そんな……シルフ……様 ! ?」


 ユミレアの知り合いか? あのちっこい妖精。


「クハハ! これは昔、レーネの女王を殺して我輩のモノにした風の精霊だ!」


 シルフと呼ばれた風の精霊は、大地の精霊のように虫の羽を生やしている少女だ。


 ただその瞳はどす黒く染まり、白磁の肌は血の紋様が赤く輝いている。


『ユ……ミィ……たす……け――』


「シルフ様……私が必ず!」


 状況はわからんけど、精霊か……世の中にはまだまだ知らない力があるってことね。


「霊銀創生!」


『ほいさ〜』


 ユミレアがそう叫ぶと、亀の間抜けな返事が聞こえる。


 そして地面から、白銀に輝く剣が現れた。


「シルフ様を返してもらうぞ! ネルダー!」


 そう言って、ユミレアは白銀の剣で爺さんに斬りかかる。


「クハハ! そこな大地の精霊も我輩のコレクションに加えてやろうぞ! 暴風威!」


 爺さんが片手を払う様に振るうと、強烈な暴風が発生する。


 飛びかかったユミレアは、空中でその姿勢を崩される。


 だがユミレアは、無理やり剣を振り押そうとした。


「レオナルド! 私に因果を!」


 ああ……概念を広げるってそう言うことね。


 俺はユミレアが振り下ろした白銀の剣を「原因」の起点とし、「結果」を爺さんにつなげる。


 すると、爺さんの胸がわずかに裂けた。


「ぐあああ ! ? 貴様何をしたあ ! ?」


 あれ? 傷は大したことないのに、めっちゃ効いてるじゃん ! ?


 爺さんは胸を押さえながら、その場に膝をつく。


 まあ武器は良くても、火力が足りないから致命傷にはなってないね。

 

「霊銀は精霊様の魔力が潤沢に溶けたミスリルだ。お前達にはさぞ効くだろう? おっと、おしゃべりしている暇はないぞ?」


「極拳・神羅アル!」


 膝をつく爺さんに、タオが渾身の拳を叩き込む。


 拳は顔面を直撃し、爺さんの体はクランハウス外壁まで吹き飛ばされた。

 

――ドーン!


 タオの拳をよく見れば、いつもの愛用のガントレットが白銀に輝いていた。


 なるほど……「霊銀」とやらでタオの装備をコーティングしたわけね。


 ユミレア……やるじゃんよ。

 誰かとの共闘に慣れてるね。

 

 そしてユミレアの霊銀の剣は、爺さんに対して効果抜群だ。


 まずはそれを借りようか。


 一足でユミレアの隣に移動し、頼み事をする。


「その霊銀の剣ってやつ、俺にも作ってよ」


「お前何を考えている? まあいいだろう……霊銀創生」


 地面から生えた白銀の剣を手に取る。


 うん、すごくいい剣だ……すごく良く斬れそうだ。


 武器は手に入れた。


 あとは俺次第。


『概念はお前次第でどこまでも広がる』


 今までユニークスキルの力を、深く考えたことはほとんど無い。


 実力がある程度のラインに達した時点で、俺の前から敵はいなくなったからね。


 考える必要がなかっただけだ。


 でも今は……とんでも無く強大なボスがいる。


 それに立ち向かうユミレアとタオ。


 どんどん出てくるよ……アイデアが止まらない!


 ユミレアとタオに因果を付与するのもいいけどさぁ……


 それじゃあ俺がつまらないじゃないか。


 俺はゆっくりと、爺さんが吹っ飛んでいった方へと歩いていく。


「おい! 何を――」

 

「また一人で突っ込むきアルか ! ? 今度は死んでも助けてやらんネ!」


「いいからそこで見ててよ……」


 手にした霊銀の剣を、上段で構える。


「魔纏……それから聖王剣術――」


 自分の全てを次の一刀に乗せる。


「くっ……貴様らあ! もう手加減はせんぞ!」


 まだまだ元気じゃん!


 やっぱり倒しがいがあるボスだ!


 パーティー攻略も悪く無いけど……ソロ討伐してこそ世界最強だろ?


 爺さんが雄叫びを上げた瞬間、爺さんの上空に人影が現れる。


「俺たちのクランハウスをめちゃくちゃにしやがって……ネルダーはお前だな? 龍て――」

 

 現れたのは英人だった。

 

「手を出すな英人! そこで見とけ!」


 爺さんに攻撃を加えようとする英人を制止する。


 俺に置いてかれないでくれよ? 英人……


「俺は限界を超えるぞ!? 高みで待っているよ英人! アハハ! 終焉の太刀・『絶』!」 


 上段に構えた霊銀の剣を、渾身の力で振り下ろす。


「貴様の攻撃など我輩には――」


 霊銀の剣での一刀、まずはその「原因」を必中の「結果」へとつなげる。


「がああ!」


 爺さんの体が両断される。


「アハハ! まだまだこれからさ!」


 次に「因果必結」を重ねる。

 

 別に一つの「原因」から一つの「結果」を生み出す必要なんてなかったんだ。


 能力を新たに付与することで、最初の一刀からまた別の「結果」を生み出す。


 一刀が無数の斬撃となる。


「何を――がああ! おのれ小僧おおお!」


 俺のユニークスキルが使えなくなるまで、無数の結果で奴を斬り続ける。


 爺さんを再び細切れにする。


「アハハ!」


 最高だ!


 もう爺さんの悲鳴は聞こえない。


 頃合いだね。


 斬ったという「結果」を、新たに「原因」とする。


 そこから新しい「結果」を呼び起こす。


 霊銀によって発生する吸血鬼への特効。


 これにより、再生不可能という「結果」を結びつける。


 それをまた無数に連鎖させる。


 ちょっと頭が痛くなってきたね……


 鼻から血が垂れるのが分かった。


 だけどまだまだ!


 ここまでの全ての「結果」を「原因」とし、爺さんの死という「結果」を確定させる。


「因果は必ず結ばれる……俺の勝ちだ! 感謝するよ爺さん……俺の経験値になってくれてありがとう!」


 その後、爺さんが再び蘇ることはなかった。


「ハハ……ハハハ!」


 大地に仰向けに倒れると、夜空に大きな満月が輝いていた。


 静かな中庭に、自分の笑い声だけが響き渡っていた。

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