第158話 因果の支配者

Side:ユミレア。レーネベルト



 

「タオ・フェン、レオナルド……3人でこいつを仕留めるぞ」

 

「二人とも、ウチの足手まといにならない様に――」


「アハハ! こいつは俺の獲物だから! そこで見ててよ!」


 私の共闘の要請は、見事に跳ね除けられた。


――ドーン!


 止める暇もなく、一瞬でレオナルドはネルダーに肉薄する。


「アハハ! やっぱり日本は最高だなぁ!」


「小僧は強者との戦いに飢えているのだな? クハハ! おめでとう……我輩は正真正銘、貴様の求める強者だ。存分に楽しませてやるぞ? そして幸福の絶頂のまま逝かせてやろう!」


――キキキキキキン!


 ネルダーの血の剣とレオナルドの剣が、一瞬の内に幾度となく交差する。


 火花が散り、余波で建物が悲鳴を上げる。


「全く……思う様にはいかんな」


 私の愚痴に、タオ・フェンが反応する。


「ああなったら止められないアル。大人しく見ておく他ないネ」


「いや、そうも言っていられない。我々も参戦すべきだ」


 レオナルドのソウルスキルがどこまで通用するかが問題だが、一対一のままではおそらくネルダーは仕留めきれない。


 レオナルドも強者ではあるが……そのソウルスキルがなければ、ネルダーとまともに撃ち合うことも叶わないはずだ。


 それ程に、ネルダーの強さは侯爵という階級の中でも最上位に位置する。


「そうは言っても、あれに乱入したら邪魔じゃないアルか?」


 そうだな……私がレオナルドに合わせる分には問題ないが、タオ・フェンには少し荷が重いだろう。


 それにできることならレオナルドの方に、我々に合わせて欲しかったんだがな。


「奴のソウルスキルの影響を私とタオ・フェンにも与えてくれたら、3人で畳みかけることができたかもしれない」


「なるほどアル。でもレオがそんなことしてくれるとは思えないアル。そもそもあの能力が自分以外にも効果を付与できる事を知らない可能性があるネ」


 聞けばレオナルドと言う人物は、一匹狼の様な男だ。


 そんな男が、自身のソウルスキルの可能性と応用に気付いているとは思えない。


 だからこそ、戦う前に話しておきたかったんだがな……


 レオナルドのソウルスキルは「概念」系、「水」や「火」などの「根源」系とは正反対にあるものだ。


「概念」系に分類されるのは、「時」や「空間」、ジン殿の「並行世界の複写」もそうだ。


 使い手の理解と練度で、その力は大きく変わる。


 レオナルドは「因果」と言う概念をどこまで理解している?


 私はネルダーとレオナルドの戦いにいつでも参戦できるように、しばらく彼らを観察していた。





 ***

 Side:レオナルド・オルティリオ



 

 オルトスのジジイに見せられた英雄杯の試合の映像を見た時、俺は久々に高揚した。


 すぐに日本にやってきて、英人と戦った。


 あいつは最高だった。


 模擬戦を経るたびに、英人は強くなっていく。

 

 そして遂に、人生で二度目の敗北を味わった。


 そこから徐々に勝敗は五分五分になり始め、遂に先日勝ち越された。


 最高だよ。


 このクランには強いやつが3人もいる。

 ユミレアとか言う剣士、そして魔法使いのミランダ。

 二人の女も中々だけど、やっぱり一番は英人だ。


『どうしたんだ兄弟? 最近ぼーっとしてること増えたよな? 何かあったか?』


 ゲーム仲間のスティーブが、ボイスチャットでそう言ってくる。

 

「ごめんごめん。ちょっと最近リアルが楽しくなってきてね」

 

 リアルでもう一回、自分を鍛えるのもいいかもしれない。


 前はボス戦の前に、ボスが死んじゃったからね。

 リベンジすることも叶わず、スライドで俺が世界最強になった。

 

『珍しいこともあるもんだな! こりゃウチの母ちゃんを入れねえと、ギルドが危ういかもな!』


「日本にいる間はそうした方がいいかも――」


 その時、爆音と共に建物が揺れ、同時に強者の気配を感じた。


――ドーン! 


『なんだ? すげえ音したな。パーティーでもしてんのか?』


「ハハッ! そうみたいだね! 俺も参加してくるよ」


『ちょっ ! ? アタッカーのお前が抜けたら勝てねぇだ――』


 ゲームシステムをシャットダウンし、そのまま気配のする中庭に向かった。




 中庭に出ると、タオとユミレアが誰かと戦っていた。

 

「ちょっとさ〜、俺を放っておいて何楽しそうなことしてんの? 俺も混ぜてよ……」

 

 あの真っ赤な服の爺さん……超強いね!


 見ただけで分かる。

 

 全身に鳥肌が立ち、口角が自然と吊り上がってしまう。


「タオ・フェン、レオナルド……3人でこいつを仕留めるぞ」


 馬鹿言うなよ……


「アハハ! こいつは俺の獲物だから! そこで見ててよ!」


 ロングソードをアイテムリングから取り出し、赤服の爺さんに斬りかかる。


――ドーン!


 振り下ろした剣は、赤い板によって受け止められる。


 何この赤いヤツ! 初めて見た!


 確か英人が言ってた気がするなあ……血の呪いとかなんとか、てことはこれは爺さんの血だな?


「アハハ! やっぱり日本は最高だなぁ!」


 剣に力を込めても、血の板はびくともしない。

 

「小僧は強者との戦いに飢えているのだな? クハハ! おめでとう……我輩は正真正銘、貴様の求める強者だ。存分に楽しませてやるぞ? そして幸福の絶頂のまま逝かせてやろう!」


 なんて粋な爺さんなんだ……俺感動しちゃったよ。


「爺さん簡単に死んじゃダメだよ? ちゃんと俺を楽しませてくれ!」


 爺さんに向かって無数の剣撃を叩きつける。


――キキキキキキン!


 さっきまで血の板だった物が剣の形となり、俺の剣は全て防がれた。


 だけど防いでも意味ないんだな……

 

――ザシュ!


 爺さんの赤服が裂け、腕、脚、頬と、体中に裂傷が走る。


「むっ ! ?」


 身体中の傷から血が噴き出す。

 

「今の攻撃で斬れちゃうのか……残念、爺さんもっと体鍛えた方がいいよ?」


 英人なら、こんな攻撃では傷ひとつつかない。


「クハハ! 小僧は面白い術を使いおる。だが我輩はヴァンパイア・ノーブル! その程度の攻撃など意味がないのだ!」


 すると、爺さんの裂傷は瞬く間に再生した。


 へえ……高速再生ね。


 ダンジョンのレッサー・ヴァンパイアとかの魔物も再生するけど、ここまでの速さじゃない。


 面白いなぁ……


 ハハハ! じゃあ少し強めに斬っても大丈夫そうだね!


「細切れになっても再生するのかなぁ ! ? 聖王剣術・神速無双連剣!」


 魔力を乗せた剣は、神速の斬撃を放つ。


「むっ ! ? それは剣聖の――」


 爺さんは血液の板を球体状に展開し、その中に隠れてしまった。


 無駄だって言ってんのに……

 

 剣聖のジョブスキルに、俺のユニークスキル・「因果必結」を合わせれば……


――キン!

 

 剣は球体に展開された血に阻まれるが、俺の攻撃そのものは爺さんに命中する。

 

「がはっ ! ? なぜ攻撃が ! ?」


「アハハ! いつまで耐えられるかなぁ ! ?」


――キン! キン! 


 俺は剣を止めない。


 神速の連撃が、血の防御を襲い続ける。


――キキキキキキン!

 

「ぐああぁああ!」


 そして血の防御が維持できなくなったのか、球状に展開されていた血の防御は崩れていく。


 もう剣は防がれないけど、そのまま虚空に斬撃を放ち続ける。


 剣は空を切っているけど、ユニークスキルのおかげで必ず爺さんに当たる。

 

 剣を振り続けている内に、やがて爺さんの悲鳴は聞こえなくなった。

 

 まあ見ればわかる。


 爺さんはもう細切れだから、叫ぶ体がないんだ。


 俺はそこで、ようやく攻撃を止めた。

 

 爺さんの肉片と血が、中庭に落下していく。


 これで終わりなんて言わないでくれ……


 頼む……その状態から再生してくれ! 一生のお願いだ!

 

 両手で神に祈りながら、俺は爺さんだった肉片にエールを送るのだった。

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