第156話 盤上

 鎌瀬達の死体は、ニダス達の様に灰となって消える事はなかった。

 5人ほどドラゴニュートを召喚し、手分けをしてマジックバッグに遺体を収納した。


 その後眷属達と共に、拘束している鎌瀬社長と桜ちゃんの元へ向かった。




「どいいうことだ……」


「ウウッ! ガガッ!」

「アアァア!」


 二人は正気を取り戻しておらず、水魔法のロープに拘束されたままもがき苦しんでいた。


「エクストラヒール」


 回復魔法をかけ、さらには状態異常に効くポーションを使って様子を見たが、二人の血の呪いは解けかった。

 

 術者の死後も、掛けられた呪いは解けない……これが血の呪いか。


 鎌瀬社長達を治せる可能性があるとしたら、ルーシーさんの神聖魔法か?


 ルーシーさんは既に帰国したし、それ以外で治せる手段は……龍気か?


 俺は鎌瀬社長の体に、少しだけ龍気を流してみる。


 龍気を流し始めた途端、鎌瀬社長はさらに苦しみ出してしまった。


「ガァアアア!」


「っ ! ?」


 すぐに手を離し、龍気を流し込むのを止めた。


 クソッ……ルーシーさんを呼ぶのが確実か。


 だが直ぐには無理だ。

 そもそもフランス政府の許可がないと無理だし、どれくらい時間がかかるかもわからない。


 今は二人をこのまま、安全な場所で拘束しておくしか無い。


「この二人をクランハウスの医務室まで運んでくれ、拘束は忘れるな。それと容態が悪化したら直ぐに回復魔法を使え」


「かしこまりました」


 ドラゴニュート達にそう指示を出した時、美澄さんから連絡が入った。


『代表、緊急事態です』


「襲撃があったんですよね? ジンに聞きました。詳しい状況を聞かせてください」


『はい。現在新宿のS級ダンジョンから、大量の吸血鬼が湧き出ている様です。新宿を起点に吸血鬼達は四方に飛び去り、市民、探索者を問わず襲い続けている様です。池袋一帯を除いて、吸血鬼の進行は東京全体まで波及しています。被害は甚大です……吸血鬼の数も時間を追うごとに増え続けています』


 現場にいた探索者達では、吸血鬼達の侵攻は止められていないということか。


 池袋周辺が無事なのはミランダさんのおかげだろう。

 

『御崎様が敵首領の討伐に向かわれたそうですが、その後の状況は不明です』


 急がないとまずい。


『それと天道支部長からの報告ですが……財前会長が亡くなられたそうです』


「っ ! ? 」

 

 財前会長が……


 財前会長の訃報を聞いた俺は、ディーンの龍装を解除する。


「ディーン」


「ヒッヒーン!」


「悪いが先に行く。お前達は二人を安全にクランハウスまで運べ。ゆっくりでいい、道中の魔物は片付けておく」


「はっ! 仰せのままに」

 

 ドラゴニュート達に指示を出し、ディーンの背に跨る。


 背に跨った俺は、「龍脈接続」を発動した。

 

 空気中の魔素を変換し、龍気を蓄えるスキルだ。


 これのおかげで、龍スキルの鍛錬が遥かに進んだ。


 ______

 龍気:7,068,654

 ______

 

 少しでも龍気を貯めよう。


「ディーン……地上まで止まるな」


「ヒヒーン!」

 

 俺はディーンの背に乗りながらスキルで龍気を蓄え、全速力で地上を目指した。 


 その間、美澄さん以外にもミランダさんや天道さんと連絡を取り、最後に潤さんに魂話を繋げた。


「潤さん……生きてますよね?」


『ああ、無事だよ。今の所、敵は何故か僕を殺す気がない様に見えるけど……できるだけ早く来てくれると嬉しいな』


「わかりました。急ぎます」



 

 ***

 Side:???

 


「ふむ……まあそうなるよね」

 

 私がヴァンパイアに変えた人間達は、天霧英人に瞬殺されてしまった。


「分かりませんね……なぜあの者達を? 大して役に立たないことはわかっていたでしょう?」

 

 隣にいる実験体が、私に声をかけてきた。

 

「ただの実験だよ……」

 

 まあ実験としてはとりあえず成功かな?


 ヴァンパイアの再生力は微妙なところだけど、「血呪」はちゃんと使えたみたいだし、そんなに悪い結果ばかりじゃない。


「そんなことより……そろそろ現場入りするかい?」


「少し早いのではないですか?」


「そんなことはないさ……勝負は一瞬だ。チャンスを逃したくないだろう? なら現場を近くでよく見ておかないとね」


「それもそうですかねぇ……まあいいでしょう」


「安心したまえ。君の隠密と私の魔道具があれば、そうそう気取られる事はないからね」


「それもそうですねぇ……クククッ……少し楽しみになってきましたよ」


 彼はローブを羽織り、意気揚々と部屋を出ていった。


 果たしてどうなるかな?


 彼には私の為に頑張ってもらいたいところだ。

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