第154話 愚かな復讐心
Side:天霧 英人
:新宿での襲撃発生前
15時ごろから始めたパワーレベリングの依頼で、俺は依頼者の鎌瀬社長とその娘の桜ちゃんと共に、「龍の絆」で管理するA級ダンジョンに来ている。
依頼開始から数時間が経ち、鎌瀬さん達のレベリングはもう十分なところまで来た。
「天霧君は凄まじいね……この短時間でこれほどレベルが上がるとは、英雄杯を制しただけはあるね」
「お父様の言う通りです。天霧さんすごいです!」
後ろを歩く鎌瀬親子が、興奮気味にそう言ってくる。
「ありがとうございます。そろそろこの辺で切り上げますか?」
鎌瀬社長の方はレベル70を超え、初期レベルだった桜ちゃんはもうすぐ60レベルになるところだ。
これ以上はレベルアップが鈍化してくるから、できればこの辺で終わりたいな。
「そうですね。もう遅いですし、この辺で依頼完了にしましょう。桜のレベルも十分でしょう。あとは自分で頑張るんだよ?」
「はい! お父様!」
良かった……
10層で狩りをしてたから、俺のレベルは全く上がっていない。
それに少し飽きて来たところだ。
「じゃあ帰りましょうか。そうだ、クランハウスで夕食でも食べて行きませんか? ウチには腕のいいシェフがいるんですよ」
「そうかい? じゃあお言葉に甘えて頂いていこうかな。桜もいいかい?」
「もちろんです!」
桜ちゃんは最初の方は大分緊張していた様だけど、今ではこの通りだ。
「じゃあ帰りましょうか」
そうして俺たちは、地上を目指して階層を昇り始めた。
二人のペースに合わせてゆっくりと地上を目指し第6階層の森林地帯に入った頃、俺たちの前方に人影が現れた。
「止まって下さい」
右手を上げ、後ろの二人に合図を出す。
「どうしたんだい? うん? あれは……」
「他の探索者さんでしょうか?」
桜ちゃんはそう言うが、俺の警戒心は跳ね上がっていた。
なんだあいつ……
フードを深く被り、顔は見えない。
だが奴が羽織っているのは「ハイドローブ」だ。
それだけで、俺の中で「ただの不審者」から「襲撃者」へと格上げされる。
俺は大剣を召喚し、その鋒を向けて襲撃者に問う。
「このダンジョンは今、立ち入りが制限されているはずだ。何者だ?」
「会いたかったぜぇ……アマギリぃ」
俺の名を呼んだ襲撃者は、徐にフードを取った。
顕になった顔は、人間のそれではなかった。
白目は赤く染まり、犬歯が鋭く伸びている。
そしてニダスなどの本物の吸血鬼とは違って、鬼のツノは左側の一本だけ。
こいつはおそらく、吸血鬼に変えられた元人間。
そしてあのオカッパ頭……
「お前だな? 変死体事件の犯人は……」
「フハハ! だったらなんだって言うんだよ? ただ僕は食事をしたに過ぎない。君たちが牛や豚を食うのと同じことだよ……」
吸血鬼は真祖の嗜虐性や残虐性が受け継がれる。
だがこいつの場合、吸血鬼に変えられたからか? それとも元からそんな人間だったか?
まあいい……急いでこいつを倒して、地上に戻ろう。
「鎌瀬社長、桜ちゃん、俺の後ろに――」
そう指示を出したが、二人の様子がおかしかった。
「お前……まさか……そんな」
「お兄……様」
っ ! ?
俺はすぐに、視線を二人からオカッパに戻す。
鎌瀬……それに俺のことを知っている?
「お前は……だめだ、やっぱり思い出せない」
「っ ! ? この前の大会の時もそうだったなあ! てめえはその辺の虫を見るみたいに僕を見やがって……この前まで無能だったのに! そのまま無能でいれば良いものを……」
冗談なのに。
英雄杯の最初の予選の時、他の探索者と共闘して俺をリンチしようとしてた同級生の鎌瀬君だ。
まさかあの鎌瀬君とはね……それに鎌瀬社長の息子だったか。
「俺に成す術もなく負けたのが気に障ったのかな?」
「貴様……絶対殺してやるぞ! 僕が! お前を殺したら、次はお前のクランの奴らを皆殺しにしてやる!」
煽って時間を稼ぐのは良いけど、どうするべきか……
「この……バカ息子が! 何をやっているんだ!」
「お兄様が……そんな……」
鎌瀬君は探索者条項によれば、この場で処刑するのが望ましい。
被害者の数的に、どの道死刑は免れない。
だが……ここでは拘束して、桜ちゃんのいない場所でやるべきか?
そんなことを考えていると、鎌瀬君に動きがあった。
「血呪・
「「「ヴァアア!」」」
鎌瀬君が何かの術を発動すると、突然周囲からうめき声を上げながら何かが迫ってきた。
「なんだコイツら ! ?」
木の影から飛び出して来たのは人間だった。
吸血鬼の特徴はないが、健康な普通の状態でないことが分かる。
目は赤く染まり、焦点は合っておらず、涎を垂らしながらうめいている。
「チッ! あいつは元からクソ野郎だったわけだ! 魔纏!」
大剣を仕舞い、迫り来る人間達を殴り飛ばしていく。
――ドン!
「ガアアァ!」
よくわからない声を上げながら吹き飛び、近場の木にぶつかって動かなくなる。
一応殺してはないはず……この人達がまだ生きているかわからないけど、どの道やることは一つだ。
襲い来る操られた人間達を一通り殴り飛ばした俺は、その勢いで鎌瀬の野郎を叩きに行く。
「っ ! ?」
背後に回った俺に、コイツは反応できていない。
「吸血鬼になったのに、以前と変わらず大したことないな! 魔勁!」
拳に纏った魔力は、敵にヒットすると同時に体内へと流れ込む。
「がはっ ! ?」
体内に流された魔力が全身の内臓を揺らし、相手を行動不能にする。
木にもたれかかり、動けなくなった鎌瀬君に告げる。
「お前はどの道死刑だろうけど、妹の前では殺さないでやる」
「クククッ……何勝った気でいるんだよ。血呪・洗脳血操! 僕の為に働いてくれよ? 元家族達……」
「何を――」
その時、俺の横から迫る者達がいた。
「ヴァアア!」
「アガアア!」
今まさに俺の首元に飛びかかろうとしているのは、コイツの父親と妹だった。
「っ ! ? お前!」
本当に……コイツは元からどうしようもないクズだったわけだ。
鎌瀬社長……桜ちゃん……
「ごめん……」
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