第150話 絶望へ

Side:御崎潤


 


襲撃発生から数十分、僕達は目の前の吸血鬼を屠り続けていた。


「聖剣術・聖王斬せいおうざん!」


 黄金の三日月が宙を走り、斬撃は数十体の吸血鬼を両断する。


 S級ダンジョンまではそんなに離れていないのに、次々と襲いくる吸血鬼で先に進めない。


「クリムゾンフレア!」

「スターレイン!」


 ミトの魔法と綾の範囲攻撃で、なんとか押し進んではいるが……二人の負担が大きい。


 僕の魔力も温存している場合では――っ ! ?


 その時、前方から強力な魔力を感知した。


 これは……上位種か ! ?


 敵には伯爵とかの階級があるらしいけど……この感じはおそらく最上位の魔力。


 敵の主力と思われる魔力が複数。

 最上位と思われる魔力が3つ……そしてそれよりも大きい魔力がもう1つ。


 いるんだな……真祖吸血鬼ネメアが。


 敵主力の魔力を感じ取った直後、最上位と思われる3つの魔力に動きがあった。


 3つの魔力は上空に飛び上がった瞬間、それぞれ別々の方角に高速で飛翔して行った。


「まずい……敵の主力が放たれた」


 奴らを追っている場合ではない。

 今飛び立った奴らよりも強力な、真祖ネメアと思われる魔力がまだ残っている。


 僕がネメアを倒すしかない……他の主力はそれぞれの現場に任せるしか――

 

 その時、横から声をかけられる。


 聞きなれないこの声は――

 

「勇者、お前達はこのまま進むつもりか?」


「ジン殿か!」


 彼は英人君の召喚した英霊と言う存在らしい。


「英人君はどれくらいでこっちに来られそうだい?」


 英人君の到着次第で、この戦況は大きく左右される。


「すまないがしばらく来られそうにない。向こうにも吸血鬼の襲撃があった様だ。絶賛取り込み中だ」


 それは……随分と悪い知らせだね。


「分かった。僕たちはこのまま、ネメアの討伐に向かう。奴をあの場で食い止めなければ――」


 僕の言葉をジン殿が遮る。


「ダンジョンの前に立っている奴のことを言っているのか? あれはネメアではないぞ。ネメアはまだ姿を見せていない」


「なっ ! ? じゃあこの魔力反応は……」


 思っていたよりも力の差は感じない。

 これなら僕だけでもなんとかなるかもしれない。


 そう思った僕は愚かだったようだ。

 

「奴の名はニア、爵位は公爵、真祖に最も近い吸血鬼だ。おそらく俺が加勢した状態でも、奴を足止めするのが精々だ。どうする? それでも行くのか? 逃げるなら今の内だが」


 ジン殿がいても足止めが精々か……正直言って逃げ出したいくらいだ。


 だけど僕は勇者だ。


 僕は逃げるわけにはいかないんだ。


「もちろん戦うさ……それが僕の使命だからね」


「そうか。ならば俺も――」


 ジン殿の言葉が止まった。


「どうしたんだ?」


「すまない……侯爵の一人に見つかった。すぐに東京一帯の分身を本体に戻す」


 っ ! ? ここでジン殿がいなくなるのは痛い。


 それにジン殿が分身を消して本気で挑まなければならない相手、それが侯爵だというわけか。


 それよりも強力なニアという吸血鬼に、僕は戦いを挑まなければならない。


 仕方がない……もう覚悟を決めるしかない。


「すまないな勇者。なんとか持ち堪えてくれ……武運を祈る」


「ああ。そっちもね」


 そうして、ジン殿の分身は姿を消した。


「ちょっと ! ? 一緒に戦ってくれるんじゃないの ! ?」


 僕も同じ気持ちだよ綾……


「僕たちだけでやるしかない。行くよみんな」


 こうして僕ら勇者パーティーは、敵将ニアの元へと向かった。




 魔力の温存を止め、僕たちはやっとの思いでS級ダンジョン前に辿り着いた。


「あれは ! ?」


 僕が驚いたのは、ニアという吸血鬼の姿にではない。


 ダンジョンの入り口にだ。


 普段目にしているダンジョンの入り口は、数人が並んで通れるくらいの大きさの黒い膜の様な物。


 だがその膜は今、大口を開けた様に巨大な穴と化している。


 全長10メートルほどまで広がったダンジョンの入り口、そこから今も尚大量の吸血鬼が飛び出してきている。


「予想より早かったな……勇者よ」


 入口の前に立つ男が、僕に向かってそう言った。


 あれがニア……


 真っ赤に染まった瞳、2本の赤い角、生気の感じられない青白い肌。

 両手を後ろに組み、静かに佇んでいる。


 これは……間違いなく格上。


 僕たちなら倒せるか?


 いや、綾達を逃して僕だけ残るべきか……


 敵は僕の思考を待ってはくれない。


「少しだけ遊んでやるとしよう……」


 ニアの魔力が僅かに動いた。

 

「全員気を抜くなよ!」


「当然よ!」

「おう!」

「はい!」

「ん!」


 僕は全員に喝をいれる。


 剛は少女の守護を優先させる。


 だから実質4対1だ……


「いい心構えだ。それでこそ前菜にふさわしい。血呪・血線ブラッドレイ


 こうして、想像を絶する死闘が幕を開けた。



***

あとがき

皆様、あけましておめでとうございます!


次回は1月4日更新予定です。

楽しみにしていただいている方には申し訳ないと思いますが、二日間だけのんびりとさせてください。


次回以降もよろしくお願いします!




 

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