第130話 襲来

 御崎さんとの会合から翌日、別の用事でしばらく留守にしていたアーサーさんが戻ってきた。


「お帰りなさいアーサーさん。完成したんですか?」


「もちろんさ。僕達のクランに相応しい、最高の団旗が完成した!」


 そう言って、アーサーさんはマジックバッグから一本の旗を取り出した。


 アーサーさんは「龍の絆」の団旗を作るために、自らデザイナーのところに足を運んでいたのだ。


 団旗というのはクランのロゴマークが描かれた旗のことで、主に公式の場に出るときに必要になるものだ。

 団旗に描かれているクランの目印となるマークを、アーサーさんにお願いして作成してきてもらっていた。


「これが僕らのシンボルとなるロゴさ!」


 そう言って、畳まれていた団旗を執務机に大きく広げた。


「「「おお!」」」

「悪くないわね」


 執務室に集まっているレイナや大地達の面々が、ロゴマークを見て感嘆の声を漏らした。


 真ん中に大剣と思われる大きな剣が、柄を下にして縦に大きく描かれている。

 大剣をよく見ると、普段俺が使っているものにそっくりだった。

 柄と刀身の間に神玉と思われる玉があり、その中心には龍の頭がちゃんと描かれている。


 そして、ちょうど神玉の裏側から龍の翼が、大きく羽ばたくように広げられている。

 さらには爪痕のような3本の裂傷跡が、ロゴ全体を斜めに切り裂くように剣と翼の後ろの背景に入っている。


 まあ俺は絵画のセンスはないから分からないけど、なかなか良いんじゃないかな?


「どうだいミスター? とても素晴らしいものができたと僕は思っているよ」


「ええ、すごく良いと思います。特に反対意見がなければ、これで決まりで良いと思うんだけどどうかな?」

 

 全員に向けてそう聞くと、反対の声はあがらなかった。


 クランのマークが決まり、これでやっと一体感というか、チームという結束が強まった気がする。


 ちなみにこのマークは色んな場所で使うことになる。

 ロビーに立てる用の団旗に加えて、装備に刻印したり、公式に活動する場面ではこのマークの入ったマントを着用したりする。


 まあ、その辺の発注とかは美澄さんに任せるとしよう。


「じゃあこの団旗はロビーに置くことにしようか。記念すべき最初の一本だからね。早速飾りに行こ――っ ! ?」

 

 俺の言葉が終わる直前、強烈な殺気を伴った魔力の波動を感じた。


「なんだ ! ?」

「これは……」

「……」


 大地にワンさん、それにレイナも感じた様だ。


「みみなさんどうされましたか?」

「な、なんだよお前ら……怖い顔して」


 美澄さんと修二は何も感じていないみたいだ。

 おそらく探索者として活動してるかどうかの違いだろう。


 それにしてもこの感じ……間違いなく強者だ。

 それもタオさん以上のものを感じる。


 吸血鬼? それにしては何かおかしい……感じる魔力は一人分だ。

 それに奇襲を仕掛けるなら、わざわざ察知されるような事はしないはず。


 突然の反応に困惑していると、魔力の反応は一瞬にして消えた。

 

「みんなはここに、様子を見てきます」


 俺はそう言ったが、全員が俺の後についてきた。

 そして全員で魔力の反応があったクランハウスの正門へと向かった。


 


 ロビーから外に出ると、正門の向こうに誰かが立っていた。

 真っ白なパーカーに真っ白のパンツ、そしてフードを深く被っていて男か女かも分からない。


 その160センチ程の小柄な人物は、ゆっくりとフードを外す。


 フードが捲れ、その顔が認識できるかに思えた瞬間、男は凄まじい速度で動き出した。


 俺は瞬時に大剣を召喚する。


――キン!


 男の剣は俺の首を刎ねる前に止まった。


 おいおい……本当に殺す気だったぞこの人。


 念の為にと魔力巡纏を発動させておいて良かった。

 油断してたら死んでいたかもしれない。


「良いねぇ! 日本に来て正解じゃんこれ!」


「初対面でやりすぎじゃないですか?……剣聖様」


 突然の来訪者は現在世界最強の男、「剣聖」レオナルド・オルティリオその人だった。

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