第89話 撃墜ポイント
試合終了後に闘技場の武舞台へと転送された俺は、観客の大歓声に包まれた。
『雪嶋選手のリタイアによりここで試合終了です! 池袋支部の代表となったのは天霧英人選手だぁ! またしても圧倒的な実力を見せつけての勝利! 我々は今、伝説の始まりを目撃しているのかもしれません!』
「「「うおお!」」」
熱を帯びる周囲とは裏腹に、俺は猛烈な倦怠感に襲われていた。
うぅ……なんだか気分が悪いな。
体は問題ないんだが、精神的な疲労感が半端ではない。
これは「狂龍臨天」の反動だろうか?
限界まで力を引き出したらどうなってしまうんだ……
武舞台には先に転送された出場者が数多くいる。
悔しそうに俯いている者、知り合いと談笑する者、涙を流している者までいる。
そんな出場者達の間をすり抜け、協会職員が俺の元までやってきた。
「お疲れ様です天霧選手。特別控え室にて支部長がお待ちになられていますので、お連れいたします」
控え室か……丁度いい、水でも飲んで落ち着こう。
俺は職員の後について行き、武舞台を後にした。
控え室についてすぐに、水を飲んで多少は落ち着いた。
「余裕のある戦いに見えたんだが……そうでも無かったのかい?」
「ふぅ……まあそんなところですね」
結果的には勝利したけど、ソウルスキルがなければ危なかった。
「そうか、ひとまず第三ラウンド進出おめでとう。次の試合形式は聞いているかい?」
「ええ、去年と同じなら把握してます」
「それなら問題ないだろう。トーナメント表は明日の夕方に発表されると思うよ」
第三ラウンドは特殊なトーナメント形式になる。
特殊というのは、トーナメント対戦表の決定方式にある。
まず前提として、関東エリアの各支部の代表が今日で決まったはずだ。
その数丁度100人。
そして100個ある支部はランダムに半分に分けられる。
その後池袋支部と新宿支部にてそれぞれ50人のトーナメント戦が開催、そのトーナメントを制した者が決勝トーナメントに進出する。
決勝トーナメントの出場枠の8人の内、2枠がそれぞれ池袋支部、新宿支部で行われる第三ラウンドの勝者となるわけだ。
ちなみに去年優勝したレイナは、特別枠として決勝進出が決まっている。
そして50人のトーナメントにはシード枠が存在する。
スーパーシード2名、シード6名、準シード2名。
この「シード」は、第二ラウンドまでの成績で決まる。
これまで行われた2試合で、「どれだけ敵を倒したか」が重要になる。
そしてこれは「撃墜ポイント」と呼ばれている。
第一ラウンドは1人倒す毎に1ポイント。
第二ラウンドでは、自身が倒した選手の「第一ラウンドの撃墜ポイント」が自身に加算される。
わかりにくいだろうから俺の「撃墜ポイント」で説明しよう。
俺の第一ラウンドの撃墜ポイントは「99P」だった。
俺以外の98人を龍魔法で吹き飛ばし「98P」、アーサーさんとの一騎討ちで「1P」だ。
そして第二ラウンドで俺が倒した相手は6人。
「榊 光大」、「桜みちる」。「葛西鉄雄」、「雪嶋セツナ」の4人と、未来ちゃんを襲っていた2人の男。
この6人が第一ラウンドで獲得したポイントが、俺に加算されるというわけだな。
名前を知らない2人は置いておいて、他の4人はかなりの数を倒して第一ラウンドを突破したはずだ。
他の支部がどういう展開だったかはわからないけど、池袋支部のトップ勢を軒並み倒したんだ。
正直かなりの高ポイントではないかと期待している。
さて、トーナメント話に戻ろう。
この「撃墜ポイント」を元に、50人のランキングが発表される。
その上位10人が「シード」となる。
ここで「シード権」を取れるかどうかはかなり重要だ。
もし「シード」でない場合は、全部で7試合することになる。
7試合もするのは面倒なのもそうなんだが、個人的には試合数が減ることによって物理的な時間ができることの方が嬉しい。
1位と2位の「スーパーシード」であれば、第4試合からの参戦になるから、合計で3回勝利すれば決勝進出だ。
3位〜8位の「シード」であれば合計4試合、9位と10位の「準シード」であれば5試合、11位以下なら7試合という具合だ。
もし「スーパーシード」なら試合開始は4月26日からだから、丸々二日間は修行に時間が使える。
是非とも「スーパーシード」を勝ち取りたいところだ。
「撃墜ポイント」の行方が気になりすぎた俺は、丁度目の前に座る支部長に聞いてみた。
「天道さん、俺のポイントがどうなってるか教えてくれません?」
「気になるのはわかるが……私の口からは言えないし、それに他の支部の結果を知らないから答えられないよ」
俺と天道さんの仲なら教えてくれるかと思ったが無理だった。
「まあ、多分だがシード権は十分狙えると思うよ。英人君の第一ラウンドは歴代最高得点だし、セツナ君やみちる君なんかもかなりの高得点だからね」
天道さんが言うんだから、「シード」に関しては問題なさそうだな。
というか……
「歴代最高得点だったんですか?」
「ああそうだよ。『英雄杯』は大吾が始めた大会だからね。大吾自身はもちろん出場したことが無いし、それに海外の探索者も出場不可だから、そこまでの高記録は今まで出なかったんだ」
それはそうか……父さんの記録がないなら、俺が一番になってもおかしくないか。
俺が記録に納得していると、なぜか天道さんが帰り道の心配をしてくる。
「ところで、帰りはどうするんだい? 一応車を用意してるんだが」
「帰り? 車? 普通に歩いて帰ろうかと思ってましたけど……鈴と母さんも会場にいるので」
俺がそう言うと、天道さんは残念な子を見るような目を向けてくる。
「はぁ……君は歴代最高得点で第一ラウンド通過、第二ラウンドは同支部の猛者達を全員倒して勝利、そしてあの英雄の息子だよ? それに君が使うスキルやドラゴンは、今結構騒がれているんだよ?」
「はぁ……?」
確かに、言われてみればすごい経歴に聞こえるな。
ん? 経歴……
「さっき確認したんだが、去年のレイナの時以上だ。闘技場の周辺にはそれはそれは多くの報道陣が、君が出てくるのを今か今かと待っているよ。それに試合を見ていた観客も、君を一目見ようと闘技場周辺で列をなしているよ」
「……」
俄には信じ難いな。
本当に俺目当てなのか?
表情で伝わったのか、天道さんはタブレット端末を差し出してくる
『こちら池袋支部闘技場前です。ご覧ください! 観客たちは天霧選手を一目見ようと、闘技場周辺に集まっています! 我々も必ず、突撃インタビューを成功させて見せます。みなさん今しばらくチャンネルはそのままで!』
「……今すぐ車で帰ります」
「職員専用駐車場に車を待機させてある。ついでに美沙さんと鈴ちゃんも、既に車で待ってるよ」
「ありがとうございます……」
俺は天道さんに挨拶を済ませた後、職員専用駐車場から車に乗り込み、何事もなく帰宅できた。
無事に家に到着し、ささやかな祝いの食事を済ませた俺は、寝る前に鈴の部屋にやってきた。
「鈴、まだ起きてるか?」
扉越しに声をかけると、中からドタドタと扉に近づいてくる音が聞こえた。
――ガチャ
「どうしたのお兄ちゃん?」
鈴はパジャマ姿に、この前召喚したジュエルドラゴンのリンちゃんを抱いている。
ちなみに鈴がつけた名前はステータス表記上での名前は変わったが、レインボージュエルドラゴンへの進化はしていない。
「鈴は明日空いてるか? 空いてるなら俺とミトさんと一緒にトレーニングしてみないか?」
そう言うや否や、鈴は顔に花を咲かせて俺に抱きついてきた。
「本当 ! ? 絶対行く!」
「いいのか? ただの修行だぞ?」
「行くったら行くの! フフ」
その後鈴が離れるまでしばらくかかり、俺の寝る時間は少しだけいつもより遅くなった。
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