第63話 魂の中で

 妙な体の浮遊感で、俺の意識は目覚めた。


 そして目を開けると、知らない天井が見える。

 

 ここは……いったい……

 

 どこかの部屋か? 


 やけに天井が近いことから、先程までいたダンジョンのボス部屋ではないことは分かった。


 俺が起き上がろうとした瞬間、横から突然声が聞こえた。

 

「起きたみたいだね。いや〜しかし本当にそっくりだね〜、生写しみたいだ」


「っ!」


 声に驚き、そちらを向く。

 そこには小学生くらいの少年が一人、座布団に座ってこちらを見ていた。


 誰だ!? この子供は……ここはどこだ!?


 俺は確か……っ!?


 あれからどうなった……鈴は ! ?


 俺は飛び起きて、周囲を確認する。


 しかし周りに人の気配はなく、広い真っ白な空間だけが続いていた。


 どこまでも続く白い空間の中に、6畳ほどの畳と、子供と俺だけが存在しているようだ。

 

「ずいぶん混乱してるみたいだね。だけど安心しなよ、ここは安全だから」


「君は……」


 俺を見ている子供は、額から2本の小ぶりな角が生えている。


 リュート達に姿がよく似ている……龍人なのか?


「初めましてだね。僕は龍王さ……君の前のね」


 俺の……前の龍王?……


「いや〜まさか龍紋があんな風になるとは、僕も予想外だったよ。とんでもない力になっちゃったね〜」


 いったい何を言って……


「まあ、君はよくやっていると思うよ? 龍紋はちょっと君には早かっただけさ、そのうち制御できるようになるよ……多分」


――ズズズ


 龍王と名乗った子供は、湯呑みを啜って訳のわからないことを言っている。


「色々疑問はあると思うけど、そんなに時間もないからちょっと聞いてね。それで、君のこれまでの人生を見させてもらったんだけど、なんというかあれだね……猪突猛進って感じだね」


 俺の人生を見た?


 龍王と名乗る子供は話を続ける。


「まあ全然それでもいいんだけどさ。とりあえずジャドとルアンを倒したら、急いでレベル100を目指すんだ。もう時間はあまり無いと思うから」


 時間がない? 訳がわからない……


「それはどういう――」


 俺は聞き返そうとするが、龍王は遮って話を続けた。


「言ったろう? 君と話せる時間は少ない。とりあえず僕の話を聞いてくれよ」


 俺は仕方なく頷き、龍王の話を黙って聞いた。


「これから地球は戦渦に巻き込まれる、それは避けられない。ジャドなんかに苦戦してたら、一瞬で人間は滅びることになる。だから君には強くなってほしいんだよ。これがまず一つ目」


 地球が戦いに巻き込まれる?


 本当に訳がわからない……


「それで二つ目なんだけど……絶対に『魂の神玉しんぎょく』を奪われてはいけないよ……ああ、君の剣についているコアのことね。早い話、君が誰にも負けなければ良いだけだ。簡単だろう?」


 やっぱりコアのことは知っているのか。

 龍王に聞きたいことが山ほどある……だけど今は無理か。

 

 またこの空間に来ることができれば、その時に洗いざらい聞き出さないと……


「そして最後に……1人で戦わない事。君はもっと身近にいる仲間を頼った方がいい。敵は強大すぎるから、君1人ではまず勝ち目はないよ」


 1人では戦うなと……


 それに龍王は敵の全貌を知っているのか?


 それだけでも聞いておかないと。


「敵はいったい――」


 だがまたしても、俺の話は遮られた。


「もう時間みたいだね。疑問はたくさんあるだろうけど、僕の友人達がもうすぐ君の仲間になるはずだから、そっちに聞いてね」


 そう言われた瞬間、俺の体がどこかに引っ張られる様な感覚に襲われた。


 なんだ……この感覚。


「もう君の体が目覚めるみたいだね。僕の言った事は忘れないでね。あ……そうそう、目覚める前にこれを飲んで行きなよ」


 そう言って、龍王が俺に湯呑みを差し出してくる。


「これは?」


「それは僕の龍気だよ。君の龍気はもうないだろう? それ飲んでさっさとジャドを倒してくるんだ」


 龍気……


 俺は恐る恐る、差し出された湯呑みを飲み干した。


 味は普通のお茶だな……


 何か効果があったのかは実感できないが――


 その直後、体を引っ張られる感覚が強くなった。


 もう時間切れか……


「龍王様、絶対にまた来ますから。次は俺の質問に答えてくれますか?」


 俺がそう言うと、少し残念そうな表情を浮かべた。


「残念だけど、もう会うことはないよ……これで最後さ」


「え?……どうして――」


 もう目を覚ますんだろう、ついに俺の視界は歪み始めた。


 くそっ! まだ聞きたいことは山ほどあるのに、もう会えないのか……


「僕が紡いだ絆を君に託したんだ、どうか……大切にしてね」


『君の運命に、イヴァ様のご加護があらんことを……』


 最後に龍王様の言葉だけが聞こえ、俺の意識はまた暗闇へと戻った。



 

 感覚では体が引っ張られて意識が落ちた直後、俺の意識は再び覚醒した。


「ん……」


 また天井か……


 今度は天井まで距離がある。


 目を開けると、視界には俺の顔を覗き込むリトス、ディーン、ソラ、そしてルーシーさん達の顔が見えた。


「みんなどうしてここに……」


 俺は1人で戦っていたはず……しかもここはボス部屋だし、入ることはできないはず。


「ご無事で何よりです。王よ」


 俺の横でリュートが跪き、いつものようにそう言った。


 1人で戦うな……か。


 俺はゆっくりと体を起こし、自分の体を確認する。


 体が軽い……それに龍気が漲っている。


 あのお茶……本当に効果があったみたいだな。


 ステータスを確認すると、俺の龍気はものすごく増えていた。


 ______

 龍気:500000

 ______


 それにこの龍気……いつもと違って力強く、そしてとても澄んでいるように感じる。


 続けて、俺はサクヤ達を召喚する。


 サクヤは現れた瞬間、俺に向かってダイブしてきた。


「あるじざまぁ〜怖がっだのです〜うぅ〜」


「おい。どうしたんだ急に……」


 怖かったってなんだ?


 というか俺は、意識を失った後どうなった?


 全く思い出せない……


 最後の記憶は確か……っ ! ?


 鈴!


 俺はすぐに鈴の姿を探すと、なぜか俺のすぐ横で仰向けに倒れていた。


「鈴 ! ?」


 俺はすぐに鈴の体を抱き上げ呼びかけた。


「ん……おにい……ちゃん?」


「鈴! 怪我は ! ?」


「私が回復魔法をかけましたから、もう回復してると思いますよ」


 俺が鈴の状態を確認していると、ルーシーさんがそう言った。


「ありがとう……ございます。ルーシーさん」


 気がつけば俺は、力強く鈴の体を抱きしめていた。


「お兄ちゃん、私はもう大丈夫だから……泣かないで……」


「ごめん鈴……俺のせいだ……」


 自分の頬が、涙で濡れていくのがわかる。


 父さんが死んだと言われた時は泣かなかったのに……どうしてだろうな。


「もう大丈夫だから……痛いよお兄ちゃん、力強すぎ」


「ご、ごめん鈴」


 そう言って、すぐに抱きしめる力を弱めた。


 とにかく、鈴が無事で本当によかった……

 

「鈴……俺はもう間違えない。だからもう少し休んでいてくれ」


「うん」

 

 そう言って、鈴を寝かせて立ち上がる。


 袖で涙を拭い、今一度全員の顔をみる。


 いつの間にか、俺には仲間ができていたんだな。

 

「みんな……俺に力を貸してくれないか?」


 俺は全員にそう問いかける。


 龍王様が言っていた、敵は強大だと。


 俺はまだルアンとジャドにすら苦戦している。


 俺自身もみんなも、強くならないといけない。


「もちろんです王よ。私は王の盾であり矛ですから」

「主人様に逆らう奴は皆○しなのです!」

「みずくせえこと言うなよな。それが俺たち眷属の役目だろうが」

「もちろんですよ英人様!」


「ピュピュイ!」

「ヒッヒ〜ン!」

「グォアアア!」


 リトス達まで、俺の言葉に「もちろんだ」と反応してくれた。

 

「英人さん、私たちの仲です。それは今更でしょう」

「何があったか知らんが、言われずとも力を貸すぞ?」

 

 ルーシーさんとアンナさんも、当たり前だと言ってくれた。


「ようやく素直になったわね……英人! 早くあの化け物ぶっ飛ばして帰るわよ!」


 レイナも……ありがとう。


「みんなありがとう。レイナの言う通り、さっさとあいつらぶっ飛ばそうか」

 

「はっ!」

「おうよ!」

「◯るのです!」


 みんなの返事で指揮は高まった。


 そしてなぜか、一番張り切っていたのはリトスだった。

 

「ピュイ! ピュイ! ピュピュイ!」


 パタパタと俺の周りを飛び回り、小さな手を必死に動かして、おそらく殴るジェスチャーをしている。


 リトスも鈴が攫われたことに怒っていたのかな?


 何はともあれ、この戦いが終わったら、一度みんなと話す必要がありそうだな。


 そうして、ルアンとジャドとの戦いが始まろうとしていた。

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