第56話 予兆
リュウキとリュウガを召喚してから1週間が経った。
この1週間はひたすらレベリングを続けていた。
リュートのレベルが70、サクヤが59、そしてリュウキとリュウガが40レベルに到達した。
そろそろB級の攻略が見えてきたな。
リュウキとリュウガは最初こそB級ダンジョンではステータスが低くて、なんとか着いてこれていたと言う具合だった。
だが今ではリュートとサクヤの援護もあり、前衛で戦えるほどにまで成長した。
そして今、B級ダンジョンで龍人の4人 VS キングボアの戦いを見物している。
『ブオーン!』
先手はキングボア。
咆哮を上げながら、山のような巨体が猛スピードで突進を仕掛ける。
「オイラに任せて! 挑発!」
リュウガが大盾を構え、キングボアの突進を正面から受け止める。
――ドーン!
激しい衝突音が鳴り響き、リュウガは数メートルほど押されたところで、キングボアの突進を受け止めることに成功した。
「リュートさん! サクヤさん! お願いします!」
リュウガの合図でリュートが飛び出し、キングボアの腹の下を駆け抜ける。
そして駆け抜けざまに、4本の脚全てを斬りつけていく。
ここでリュウキに攻撃させなかったのは中々いい判断だな。
キングボアは巨体故に動きが鈍いと思われがちだが、実際はそんなことはない。
B級指定されるだけはある魔物だ。
突進を止めて、そこに一撃を入れて討伐、とはならない。
巨体を支えているだけあってか、キングボアは脚力が一番発達している。
突進のスピードもさる事ながら、軽快にサイドステップで横に飛ぶこともできる。
そのため突進を受け止めただけだと、リュウキの様な大振りの一撃は簡単に避けられる。
そこで今回は、リュートの敏捷値を生かして四肢を斬りつけ、動きを完全に止める作戦のようだ。
「えい! なのです!」
そしてさらに、ワイバーンの龍装で飛翔したサクヤが、上空から矢を放つ。
矢はキングボアの両目に命中し、視界を奪った。
「リュウキ! トドメは任せたぞ!」
リュートが指示を飛ばし、満を持してリュウキの大斧がキングボアに迫る。
「おうよ! いっくぜぇ!
リュウキはジャンプでキングボアの真上に飛び上がり、魔力を込めた一撃を放つ。
リュウキが飛び上がった瞬間、リュートとリュウガは巻き添えを喰わないように退避する。
――ズドーン!
リュウガの斧はキングボアの背中に命中し、衝撃が大地を揺らす。
キングボアは背中から崩壊が始まり、やがて塵となって消えた。
簡単に討伐した様に見えるけど、多分あの斧じゃなかったらあと二発は攻撃が必要だっただろうな。
恐るべしS級の武器……
「いっちょ上がりだぜ! どうだ主人! すごいだろう!」
「さすが姉さん!」
天狗になったリュウキは未だ野放しになっているが、今回は良くやった。
「おいリュウキ! 王に対して無礼だと言っているだろう! 何度も言わせるな」
「たっくよ〜、おめえはなんつうかよ〜固すぎねえか?」
リュートとリュウキはいつもこんな感じで言い合っている。
最初に顔を合わせた時からこうだ……もうこれが日常になりかけている。
「主人様! サクヤご飯食べたいのです!」
俺も腹が減ってきたし、そろそろ引き上げるか。
そうして4人の戦闘を見届けた後、俺たちは地上へと帰還した。
そして帰宅した俺は、いつものように風呂を済ませて夕食を食べていた。
時刻は19時、少し前まではルーシーさんにアンナさん、レイナと鈴も一緒に夕食をとっていたんだが、ここ数日は俺と母さんだけだ。
ルーシーさん達の3人は、もうすぐキメラウイルスの治療が終わりそうだとかで、ここ数日は遅くまで頑張っているようだ。
鈴に関してはわからない。
すると母さんが、鈴について尋ねてきた。
「英人、最近鈴の帰りが遅いのよ。私が聞いても答えてくれないし、英人から聞いてみてくれないかしら?」
「学校で遅くまで頑張ってるんじゃないの?」
鈴は1週間ほど前に探索者高校に入学した。
今日は4月9日の日曜日だけど、探索者高校の生徒は休日も登校してダンジョンについて勉強している生徒が多いらしい。
俺も入学できていたら、毎日学校に行ってダンジョンについて調べていたかもしれない。
「そうだといいんだけど、朝も早くから出掛けてるし……ちょっと心配なのよ」
「まあ、帰ってきたら話してみるよ」
「お願いね」
そしてその夜、鈴が帰ってきたのは夜10時を過ぎた時間だった。
俺は鈴の部屋に行って、少し話してみることにした。
――コンコン
「鈴、ちょっといいか?」
鈴の部屋をノックして、声をかける。
するとドアが開き、鈴が顔を出す。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「最近帰りが遅いだろう? 母さんが心配してたぞ」
「そうなんだよねぇ、入学したばっかりだから忙しくて……」
やっぱり俺の予想通り、学校に行ってるだけみたいだな。
「母さんには俺から言っておくけど、ほどほどにな」
「それはお兄ちゃんだけには言われたくないな〜。でもありがとう。お母さんにはごめんなさいって言っといてくれる?」
まあ、それくらいならお安い御用だ。
「了解。それじゃあ、おやすみ」
そして俺は鈴の部屋を後にして、母さんを安心させた後、明日のために早めに眠りについた。
明日からはいよいよ、一つ目のB級ダンジョンを攻略する。
B級は30階層もあるため、野営が必須だ。
俺の敏捷値で駆け抜けると言う手もあるが、B級からはダンジョンの特性が少し変わるため難しい。
まあそれは、おいおい説明するとしよう。
そうして俺は、明日に備えて眠りについた。
***
Side:ルアン
私は今、ダンジョン協会支部というところに来ています。
多くの国の支部に行きましたが、この国は特に警備が甘いですねぇ。
私は早速、受付の女性に話しかけました。
「いらっしゃいませ。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「少し調べたいことがありましてねぇ。天霧英人という探索者の家族について調べてもらえますか?」
「申し訳ございません。それは個人情報となりますので、特別な許可がない限り一般の方にお教えするとはできません」
まあ、当然ですね。
仕方がありません、いつものことです。
「私の目を見てください」
そう言って私は、目深に被っていたハットを少し傾け、受付嬢と目を合わせます。
「はい? っ ! ? ……かしこまり、ました。今、お調べいたしま……す」
やはりこの国の人間は危機意識が低過ぎますねぇ。
そしてこの受付嬢から、天霧英人について調べてもらうことができました。
母と妹がいるのですか……どちらにしましょうかねぇ……ククク……
これで準備は整いましたから、そろそろ始めるとしましょうか。
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