第53話 姉と弟

 吸血鬼との戦闘から4日が経った。

 この4日でダンジョンの再調査が行われ、全てのダンジョンで蚊の存在は確認されなかった。

 新たな感染者が出ることもなく、一応の終息となった。

 後はルーシーさんが今いる患者を治療するのみだ。


 感染の拡大は阻止することができたが、まだ完全にこの件が終わったわけではない。

 蚊の化け物には吸血鬼達が関わっていると思われるし、また蚊の化け物をダンジョンに放つ可能性が十分にある。


 だから感染者の治療が終わってもしばらくの間、ルーシーさん達は日本に滞在することが決まっている。


 そして全国のライカンスロープを討伐して回っている御崎さん達「ブレイバーズ」の方も、順調に討伐を進めているそうだ。


 吸血鬼のニダスは100に迫る数のライカンスロープを従えていた。

 このことから、ライカンスロープも吸血鬼によってダンジョンに放たれていると思われる。


 奴らの目的が全て分かっているわけではない。

 コアが欲しいだけなら、ライカンも蚊の化け物も、ダンジョンに放つ意味はそこまでない気もする。


 一番手っ取り早いのは、吸血鬼の親玉を叩く事だけど、残念ながら奴らがどこを拠点としているのかも分かっていない。

 おそらくはEXダンジョンじゃないかと思うけど、まだ今の俺にEXダンジョンは早いことが今回の戦闘で分かった。


 そしてキメラウイルスの感染源を討伐したことで、俺がルーシーさん達とダンジョンに行く必要は無くなった。

 おかげでこの数日間は、今までのようにダンジョンでの魔石集めを再開することができた。

 

 よし、今日もB級ダンジョンで魔石を集めるか。

 

 そろそろドラゴニュートを増やせるくらいには溜まってきたし、レベルも上がったことでB級の攻略が見えてきた。


 俺がダンジョンへ向かうために庭で装備のチェックをしていると、レイナが声をかけてきた。


「今日もダンジョン? 結構吸血鬼にやられたんでしょ? 少しは休んだらどうなのよ」


「おはようレイナ。ルーシーさんの回復魔法があったからかな、むしろ以前より調子がいい気がするんだ」


 俺は吸血鬼の戦闘の次の日から、ダンジョンの探索を再開した。


 みんなには休めと言われたが、もっと強くならないといけない。

 1日でも無駄にはしたくない。


「相変わらずね……」


「それじゃあ行ってくる」


 そうして俺はダンジョンへと向かった。




 ダンジョンにやってきた俺は、まずは入り口から離れた場所に移動して、結界石で安全地帯を作った。


 今日は溜まっている魔石で、C級のドラゴニュートを二人召喚する予定だ。


 この間の戦いで痛感したが、ここ最近はスキルに頼りすぎていた気がする。

 龍気を使ったスキルは強力だが、その分龍気の消費も激しい。

 俺の龍気が無くなった時、俺自身の剣の技術とリュート達眷属でなんとかするしかない。

 

 ニダスは伯爵で、ナキアとナベルは子爵を名乗っていた。

 貴族の階級にはまだ上があるはずだし、ニダスと同等の力を持った吸血鬼がまだ他にもいる可能性は高い。

 それにまだルアンも姿を見せていないし、しっかり備えておかないとな。


 俺はステータスを開いて、眷属召喚を実行する。


 今回はC級のドラゴニュートを2体増やすことにした。

 これで「部隊編成」の指揮官の枠が全て埋まる。

 

 ______

 インベントリ

 魔石

 ・F級:7698

 ・E級;675

 ・D級:978

 ・C級:876

 ・B級:327

 ______


 C級魔石を20個消費して、2体のドラゴニュートを召喚する。

 

 魔法陣が二つ横並びに現れ、中から2体のドラゴニュートが姿を見せる。


 お? なんだか体が大きいな……

 

 現れた2体のドラゴニュートは、男女一人ずつだった。

 2体とも俺よりも身長も体格も大きい。

 

 そして召喚された2体は、辺りをキョロキョロと見回し始める。


 すると2体のドラゴニュートは互いに目が合うと、見つめ合ったまま固まってしまった。


 そして数秒見つめ合った後……男の方が声を上げながら、もう片方の女のドラゴニュートに抱きついた。

 

「姉さん?……姉さん! うぅ……」


 男の方が声を上げながら、もう片方の女のドラゴニュートに抱きついた。


 そして姉さんと呼ばれたドラゴニュートは、子供をあやすように頭を撫でながら喋りかけた。

 

「たく……お前は変わんねえな。図体ばかりデカくなりやがって」


 なんだ?……二人は姉弟なのか?

 それに互いに姉弟だったという記憶があるということか。

 

「おい……もういいだろう? そろそろ俺らの主人に挨拶しねえとな」

「うぅ……」


 そして2体のドラゴニュートが俺に向き直り、いつも通りの挨拶をする。 

 2体は跪き、心臓付近に手を当て、もう片方の手は地面につける。


「主人よ、俺たち姉弟をよろしく頼むぜ」

「よ、よろしくお願いします」


 姉の方は大柄な見た目通り、気が強そうなオレっ娘……いや、オレ姉さんか?

 そして弟は姉よりも大柄だけど、弱気な雰囲気が感じられる。


 面白い姉弟だな……

 

「二人ともよろしく頼むよ。俺は英人だ、好きに呼んでくれ。それから名前をつけるけど、何か希望はあるか?」


「名前か……俺は特にないな。主人が決めてくれ」

「オイラも……英人様につけて欲しいです」

 

 二人は特に希望はないみたいみたいなので、俺が考えることにした。

 弟の方はオイラか……

 

 それから少しの間二人の名前を考え、俺は二人にネームドを実行した。


「じゃあ君の名前はリュウキ、そして弟くんはリュウガだ」


 ネームドを実行すると二人の体は光に包まれ、龍人へと進化した。

 

 姉の方がリュウキで、弟の方はリュウガと名付けた

 ちなみに漢字にすると「龍姫」と「龍牙」だ。

 ステータス上はカタカナ表記だから、漢字を充てる意味はないけどね。

 

「リュウキか、悪くない」


「リュウガ……オイラは今日からリュウガ。ありがとうございます! 英人様!」


 よし、次はビルドだな。

 

 そうして、新たな姉弟の龍人が俺のパーティーに加わった。

 

 

 

 ***

 Side:ルアン



 

 こちらに来て数週間が経ちました。


 今だにコアを奪う目的は果たせていません。

 

 ジャドさんは人間を苦しめる遊びに夢中ですし、ニダス様達は勝手に行動してしまっていてどこにいるのやら……

 

 本当に、物事は思い通りにいかないものです。


 私が内心ため息をついていると、ジャドさんが突然悲報を知らせてきました。

 

「ルアンさん、ニダスさん達が敗れたようですよ、ええ」


「っ ! ?……それは本当ですか?」


 ニダス様がやられた? そんな馬鹿なことが……


「ええ、ええ……特にナキアさんとナベルさんはコテンパンでしたねえ!」


 子爵のお二人はともかく、伯爵であるニダス様までやられてしまうとは……

 思ったより彼の成長が早いようです。

 

 これは急いだほうがいいかもしれませんねえ。


「ジャドさん、そろそろ遊びは終わりでもいいでしょうか?」


「ええ、ええ、そうですねえ。仕方がありません……私の可愛い分体も焼かれてしまいましたし、お返しをしなければいけないですねえ! ええ!」


 ジャドさんの分体……あの虫もやられたのですか。


 ふーむ……面倒ですが、一応保険をかけておいた方がいいかもしれませんねえ。


 家族や恋人が目の前で殺されたら……彼はどんな表情を見せてくれるでしょうか?


 ククク……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る