第52話 これから
ニダスが灰となて消えた直後、夜の帳が晴れて血の様な真っ赤な月が姿を消した。
ダンジョンが生み出す暖かさの無い擬似太陽が周囲を照らす。
俺の魔法で焦土と化していた大地はいつの間にか木が生え始め、元の姿に戻り始めていた。
もう復活しないみたいだな……
ニダスの討伐を確認していると、立て続けにレベルアップのアナウンスが流れた。
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
・
・
・
『レベルが上昇しました』
『レベル60到達を確認、「魂の契約」が解放されます』
ニダスが灰となて消えた直後、立て続けにレベルアップのアナウンスが流れた。
俺のレベルが幾つになったかわからないが、この分なら眷属のみんなのレベルもかなり上がっているだろう。
そしてレベル60になったことで、「魂の契約」というものが解放された。
今すぐ確認したいところだが、今は後処理を優先しよう。
俺が灰になったニダスの横でアナウンスを聞いていると、他のみんなが集まってきた。
「英人さん、お疲れ様です」
「お前達3人の連携は凄まじいものだったな! 久しぶりに他人の戦いを見て興奮してしまったぞ」
本当に疲れた……
蚊の化け物に吸血鬼が3人、ものすごく長い間戦っていたような気がする。
「王よ、ご無事で何よりです」
「主人様〜お腹が空いたのです〜」
今回ばかりはサクヤに同意だ。
いつも以上に腹が減っている感覚がある。
しかし……リュートとサクヤには本当に助けられた。
C級のドラゴニュートはもっと数を増やすべきだな。
魔石に余裕があれば、「部隊編成」の上限までパーティーメンバーを揃えたいところだ。
「二人とも、今日はよくやってくれた」
俺が二人に労いの言葉をかけると、二人は同時に胸に手を当てて跪いた。
「もったいなきお言葉……今後は王にお怪我を負わせることが無いよう精進いたします」
「サクヤは主人様のためならなんでもするのです!」
俺たちの異様なやりとりを見て、アンナさんが堪らず口を挟んでくる。
「おい英人! この二人は一体なんなのだ? ずっと気になっていたんだ」
「2本の角と尻尾……このお二人はひょっとして、人間ではないのですか?」
まあこうなっては仕方がない……二人には説明しておくか。
そして俺は、この二人が龍人という種族である事、俺のスキルで召喚したことなどを一通り説明した。
「そうだったのですね……そのようなスキルは聞いたことがありません」
「龍人族か……さっきの男達は吸血鬼を名乗っていた。こうも立て続けに新たな発見があるとは……しかも日本という国の中だけで……何かの前兆なのか?」
確かに……アンナさんの言うことも一理ある。
龍人に吸血鬼、そしてライカンスロープや蚊の化け物。
これまで発見されてこなかった未知の生物が、ここ数ヶ月間で次々と現れている。
俺のコアを狙う奴らは、コアを奪って何をする気なんだろうか?
このコアには、まだまだ俺が知らない力がある。
レベルアップで出来ることが増えていくし、強力なものが多い。
何か目的があって、そのために俺が持っているコアが必要になるとかかな?
まあ、敵に直接聞かないとその辺は考えてもしょうがないか……
だけどそもそも、ずっと不思議だったんだが、このコアは元々誰が持っていたんだ?
俺は当然ながら誰かから奪ったりとか、どこかのタイミングで拾ったとか、そういった記憶は一切ない。
俺の感覚では、気づいたら持っていたと言う感じだ。
俺が思考の海に浸っていると、ルーシーさんの呼びかける声で我に返る。
「ひとまず、天道支部長に今回の調査の件を報告しましょう」
その後俺たちはダンジョンを後にして、池袋支部へと向かった。
池袋支部にて、俺たちは天道さんに今回の調査で起こったことを報告した。
感染源と思われる蚊の化け物の討伐。
そして蚊の化け物の討伐後に現れた、吸血鬼を名乗る3人の男との戦闘を報告した。
「蚊の化け物か……ひとまず感染源と思われる個体の討伐、3人ともよくやってくれた。これで感染者が減ればいいんだが、そちらはしばらく様子を見る他あるまい」
「そうですね。これで新たな感染者が出なければ、後は私が残りの感染者を治癒して仕舞えば、キメラウイルスの件はひとまず収束と見ていいでしょう」
蚊の化け物は確かに討伐したが、あの化け物が他にもいないとは限らない。
もちろんこれで終わればいいが、用心しておいた方がいいだろう。
キメラウイルスの件については1週間ほど再調査を行うことが決定し、蚊の存在をもう一度確かめるようだ。
その間、ルーシーさんは病院での治療を続けていくと言うことで決まった。
再調査で蚊が確認されず、ルーシーさんが感染者の治療を終えたら、晴れて今回の依頼は終了となる。
これで明日から一応、元の生活に戻れるな。
そろそろB級の攻略を進めたいし、蚊はもう現れないことを願おう。
「それで蚊の化け物の討伐後、吸血鬼を名乗る3人組の男が現れたと……」
吸血鬼については俺が説明した方がよさそうだな。
「吸血鬼の狙いは俺のコアでした。そしてキメラウイルスの件もライカンの件も、背後に吸血鬼が絡んでいると思われます」
それぞれの件が吸血鬼と繋がりがあるのが、今回の戦闘で分かった。
何が起こっているのか? その全容はまだはっきりとは掴めないが、これからも今回のようなことは起こると言うことだ。
ニダスが死に際に言っていた。
『貴様達の絶望は始まったばかりだ』と、何か大きなものが動き出しているのは間違いないだろう。
「君たちの話を聞くに、その可能性が高いだろうな……」
「それと、ルアンという男もまだ姿を見せていません。もしかすると、ルアンも吸血鬼かもしれないですね」
ルアンとニダス達3人の見た目は少し違う。
ルアンに関しては目が赤いだけで、容姿はほとんど人間に近かった。
だけどニダス達3人は、青白い肌に尖った耳と、明らかに人間とは思えなかった。
もしかすると、ルアンは吸血鬼とは関係ない可能性もあるが、現状はその線は薄い。
ニダス達は俺の名前を知り、コアを持っていることを知っていた。
最初にルアンに遭遇した時、俺のコアを見て見つけたと言っていた。
俺のコアをルアンが発見し、それを何処かに報告。
そしてニダス達が、その情報をもとに俺を誘い出すために蚊の化け物を仕掛けていた。
今回の件の流れは大体こんな感じだろう。
すると、天道支部長は少し疲れた様子でぼやき始めた。
「そうだな……はぁ、全く……次から次へと、一体何が起こっているんだ?」
それはまだ、誰にもわからない。
少なくとも、俺が巻き込まれることは確定している。
明日からは普通にダンジョン探索ができるし、今回の戦いで自分の弱さも実感した。
今のままでは、とてもではないがEXダンジョンで通用するとは思えない。
もっと強くならいと……このままじゃだめだ。
俺は更なる修練を心に誓った。
そして天道支部長への報告はしばらく続き、俺たちが家に帰る頃には夜の8時を回っていた。
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