第46話 龍魔法
俺の背中に龍の翼が現れる。
翼は蒼色の鱗に覆われており、どうやって飛んでいるのかイマイチ理解できないが、これがまた凄まじかった。
翼は重みを感じず、尚且つ俺の手足のように自由に動かせる。
最初はこの妙な感覚に慣れず、空を飛ぶのに苦戦した。
魔物が他の探索者に取られてなかなかレベリングは進まなかったが、こうしたスキルの練習をする時間はたっぷりあった。
俺の翼を見たルーシーさんとアンナさんは、驚きの声をあげる。
「なっ ! ? おい英人! なんだその翼は!」
アンナさんはいつの間にか俺を呼び捨てにするようになっている。
いつからかは覚えていないが、毎日朝は一緒に剣を振っているから意外と仲は深まっているのだろう。
「これは……」
二人とは結構長い期間一緒にいて、俺の戦闘も見せたりはするが、龍に関するスキルはほとんど見せていない。
そして俺は翼を羽ばたかせ飛翔する。
そして蚊の化け物と上空で相対した。
『ギシャア!』
化け物は凶悪な顎をガチガチと鳴らしながら、俺を威嚇する。
「空がお前だけのものじゃないことにイラついてるのか?」
俺の問いかけは当然、化け物らしく攻撃で帰ってきた。
――ブーン
化け物は前足の鎌を振り上げ、高速で俺に突っ込んでくる。
やつの鎌はノコギリのようにギザギザとしている。
俺の大剣より一回り以上大きいサイズの凶悪な鎌が迫る。
俺は大剣で鎌を受け止めた。
――ガキン!
「くっ ! ?」
想像以上の鎌の攻撃の重さに、俺は数メートルほど上空を吹き飛ばされる。
少しだけ舐めてたな……「魔纏」も「龍纏」も発動していないと、踏ん張れない空中だと受けきれない。
「龍纏!」
俺の体を淡い蒼のオーラが覆う。
「高速飛翔!」
続けて二つ目のソラのスキルを発動して、俺は化け物に斬りかかる。
敏捷値2万を超えたスピードに、蚊の化け物は反応できなかったようだ。
「おら!」
大剣でヤツの羽を狙う。
落としてしまえば後はただの的だ。
――ザシュ!
『ギシャァアア!』
鎌は堅そうだけど、羽はそうでもないみたいだな。
羽を斬られた化け物は、鳴き声の様なものを上げる。
俺も翼を得たから分かる。
あと2枚羽を落とせば、こいつは飛べなくなるはずだ。
魔法的な力で飛んでいるとは言え、そこに物理的なものが存在していないわけではない。
俺のこの龍の翼も、片方だけ動かしただけでは飛べなかった。
だとすると、俺から見て右側の残り2枚を斬り落とせばいいわけだ。
後はアンナさんと協力するなり、火魔法か龍剣術を当てれば討伐は容易だろう。
俺は残り2枚の羽を狙って再度化け物に斬りかかる。
大剣を上段から振り下ろすと、先程とは違って化け物は鎌で受けてくる。
――ガキン!
こいつ……俺が羽を狙っていることに気づいているのか……
こいつはライカンと同じように、ただの魔物じゃないってわけだな。
『ギギャア!』
奇声を発しながら、鎌で応戦してくる。
だがさっきとは違って俺は「龍纏」を発動している。
俺は振り下ろされる鎌に向けて、全力で下から打ち上げる。
――ガン!
今度は力負けせず、鎌を弾き返すことに成功した。
俺はその隙を逃さず、「龍剣術」で畳みかける。
鎌を弾かれてのけぞった化け物の、残り2枚の羽を狙って龍剣術を叩き込む。
「龍閃咆!」
化け物は反応することができずに直撃し。龍気の衝撃波によってそのまま地面に叩き落とした。
――ズドーン!
地面に激突した蚊の化け物を見ると二枚の羽はもちろん、半身ごと龍気で吹き飛んでいた。
地面に倒れ伏す化け物めがけて火魔法を発動する。
「焔爆撃!《エクスプロージョン》」
圧縮された炎の塊が、化け物に命中した。
凄まじい爆発が起こり、あたりは熱気と煙に包まれる。
そして煙が晴れた地点を見ると、蚊の化物は跡形もなくなっていた。
やったか……
龍感覚で反応を探り、化け物の討伐を確認した俺は、ルーシーさんとアンナさんがいる地点に着地した。
「お疲れ様です英人さん」
「おい英人! なぜ火魔法が使える ! ? それとその翼はなんなのだ!」
今回は仕方がない……二人は他国の人間だけど、二人になら説明しても問題ないだろう。
「この翼は――っ ! ?」
龍翼について説明しようとすると、「龍感覚」に反応が現れる。
俺は急いで剣を構え、先ほどの化け物がいた場所に振り向く。
すると壁際にある崩れた巣から、赤黒い液体が噴出する。
「なんだ ! ?」
空中に飛び出した液体は、弧を描きながら先ほど蚊の化け物が墜落した地点に伸びていく。
そして液体が集まって、徐々に大きな塊になる。
液体は次第に固体になり、そして先ほど跡形もなく吹き飛ばした筈の蚊の化け物が現れた。
「そんな……再生した?」
「あの状態から ! ? ありえないだろう!」
ルーシーさんとアンナさんは一様に驚きの声をあげる。
かくいう俺も同じ感想だ。
あの蚊の化け物は完全に吹き飛ばしたはず。
龍感覚でも見ていたから間違いない。
だとするとこいつは、「龍感覚」でも感知しきれないほどの極小の破片からでも再生できる。
もしくは最悪の場合、ゼロから復活することも可能?
いや、そんな馬鹿な……だけど実際に目の前でそれが起こっている。
『ギシャアー!』
今までで一番の威嚇、さっきのが相当頭にきてるんだろうな。
さて……どうすればいい?
巣から液体が伸びて、それをもとに再生した。
ということは、巣自体を跡形もなく消しとばすか?
何か弱点があるはずだ……
俺は今一度ヤツを観察する。
ん? 右半身が再生していない?
よく見ると、先ほど地面に叩き落とした時の攻撃で吹き飛ばした部分は再生していない。
「龍閃咆」で斬った2枚の羽と、衝撃波で吹き飛んだ周辺の肉体は再生しておらず、赤黒い塊で覆われている。
なぜ再生しない?
最初に斬ったと思われる羽は、ちゃんと再生している。
再生していない部分は「龍剣術」で斬ったもので、再生している部分は普通に斬っただけ。
これは龍剣術の特殊効果か?
それとも龍気そのものの性質だろうか?
いずれにせよ、活路が見えたかもしれない。
俺はソラの龍装を解除する。
「蒼翼の王鎧」が光となって俺から離れていく。
そして、美しい蒼色に輝く鱗を纏ったドラゴンが顕現する。
「グオァアーーー!」
現れたソラは蚊の化け物に向けて咆哮を上げる。
「っ ! ?」
「今度はなんだ ! ?」
混乱してるだろうが仕方がない、後で説明しよう。
俺はすぐにソラの背中に飛び乗る。
「ルーシーさんとアンナさんも早く乗ってください!」
「何をする気なんだ?」
「アンナ、今は英人さんに従いましょう。我々ではあの化け物を倒す算段がありませんし」
ルーシーさんとアンナさんをソラの背中に乗せ、上空に飛び上がる。
俺たち三人を乗せても、ソラは余裕で飛ぶことができた。
そして俺は蚊の化け物を見下ろす。
俺たちが飛行しても、化け物は復活した地点から動くことはなかった。
必死で羽を羽ばたかせているが、うまく飛べないでいる。
よし、まずはヤツが飛べないことが確認できた。
『ギシャア!』
頭を上げて、上空にいる俺たちに向かって吠える。
最初に考察した通り、羽を2枚失ったせいで飛べないでいるようだ。
あとは何かしらの方法でヤツを攻撃すればいい。
「龍閃咆」で吹き飛ばした部分が再生されていないところを見ると、理由はわからないが龍気の攻撃で受けた傷は再生できないらしい。
だとするとヤツを丸ごと消し飛ばす技を当てればいいわけだが、「龍剣術」なら可能な技がある。
だけどそうすると、巣が残ることが少しだけ気に掛かる。
先程は巣から赤黒い液体が化け物にまとわりついて、そこから再生した。
だから念の為に巣も同時に破壊したい。
やるしかないな……俺はステータス画面を開き、スキルオーブを使用する。
______
「龍魔法」:各基本属性魔法のレベルに応じて使用できる魔法が異なる。
・
火魔法Lv1:???
・
・
・
火魔法Lv7:サンバースト・ストリーム
→MP1に対して龍気100を使用。消費量は龍気10000〜1000000。
______
「龍魔法」は魔法職の龍人を召喚した時のためにとっておきたかったが、今回は仕方がない。
「龍魔法」は他のスキルに比べてかなり複雑になっている。
習得している魔法によって使用できる龍魔法が異なる。
俺の場合は火魔法がレベル10だから、「龍炎魔法」が一番使える魔法が多い。
他にも風属性魔法を習得していることで使える「
今回はどういう魔法かを検証する時間はない。
俺は火魔法Lv7で使える「サンバースト・ストリーム」を選んだ。
おそらく前方広範囲を攻撃できる魔法だろう。
ぶっつけ本番だがやるしかない。
俺の残りの龍気は20万と少し。
念の為10万の龍気を残して、龍炎魔法を発動する。
すると、前方に巨大な魔法陣が出現する。
魔法陣は赤く輝き、通常の魔法陣にもみられる幾何学模様に加えて、ドラゴンの模様が混ざっている。
目算で直径10メートルほどの魔法陣が現れたことで、俺の後ろが騒がしくなる。
「英人さん……これはいったい……」
「おい英人! なんなんだこれは ! ?」
俺は二人を無視して発動準備を続ける。
魔法陣が蚊の化け物と巣に向けられるように調整し、龍気とMPを込める。
これで終わってくれ……
俺はそう願いながら、龍魔法を発動する。
「サンバースト・ストリーム!」
魔法陣から直視できない程の炎の光と、一瞬で
「龍気障壁!」
あまりの余波に、思わず「龍気障壁」を発動した。
ソラを含めて背中にいる俺たちも守るように障壁を展開する。
身を焼くほどの熱風と、龍の咆哮のような破壊の轟音が続き、ダンジョン全体が龍の炎に包まれていた。
そしてしばらくして煙が晴れると、まるで別の場所にワープしたかのような錯覚に陥った。
障壁を消して、ソラの背中からダンジョンを見渡す。
「これは……英人さん、あなたは……」
「……」
二人の表情は見えないが、驚きを通り越して引いているのはわかった。
かくいう俺も、あまりの光景に絶句している。
元は木々が無数に茂った森林型のダンジョンだった筈だが、眼下には見渡す限りの焼け焦げた大地だけが広がっていた。
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