第30話 世界の秘密
無事地上に戻り、そのまま探索者協会新宿支部までやってきた。
「ミスター英人、もしかしてだけど、ここに乗り込む気なのかい?」
なぜかアーサーさんがついてきてしまった。
「ええ、そうですけど。アーサーさんは帰っても大丈夫ですよ?」
別にいてもいいんだけど……なんでついてくるんだろう?
「僕たちの仲じゃないか、遠慮せず僕を頼ってくれたまえ。きっと僕が必要になるはずさ」
まあいいか……聞かれて困る話では無いし。
そうして新宿支部のエントランスを抜け、受付に向かった。
支部長室のある階へは許可がないと、階段でもエレベーターでも行くことはできない。
許可をもらった探索者か、認められた高ランクの探索者のシーカーリングをかざす事でのみ、支部長室がある階に立ち入ることができる。
面倒だけど、俺たちの場合は受付で許可をもらわないといけない。
「すみません、小森支部長に面会をお願いします」
「かしこまりました。事前にアポイントはされていますか?」
「いえ、アポはありません。支部長に天霧英人が来たと伝えてもらえますか? 許可は出るはずです」
殺しのターゲットが向こうから来たんだ、何かしらのアクションはあるだろう。
「申し訳ございません。支部長は忙しい方なので、事前にアポイントを取っていただかないと……」
まあ、当然か? 今回は何も考えずにここに来たからな。
「そこをなんとかできませんか?」
「そう言われましても……」
どうしようか……最悪警備を突破するか、それとも外からジャンプで支部長室に侵入するか……
そうして受付と少し揉めていると、俺たちに声をかけてくる集団がいた。
「やあ英人くん。事情は天道支部長から聞いたよ。僕が支部長室に案内しよう」
「ヤッホー、なんか変なことに巻き込まれてるみたいね?」
「漢なら、波瀾は付き物だ」
「ん……」
「ひ、久しぶり。ぼ、僕のこと覚えてる……かな?」
後ろを振り向くと、御崎さんたち勇者パーティーの面々がいた。
「御崎さん? が案内してくれるんですか?」
「ここはブレイバーズの拠点に一番近い支部だからね。ここでは支部長並みの権限があると言っても過言ではないよ。僕も君が命を狙われる理由を知りたいんだけど、一緒にいてもいいかい?」
「それは構いませんけど、どうして俺がここにいると?」
御崎さんがいてくれるなら、支部長室へは簡単に行けるかもしれない。
だけど、どうして俺がここにいるとわかったんだ?
「天道支部長が、君がその足で新宿支部に向かうだろうから、やらかす前に手助けしてやってくれってね」
そうだったのか……まあ、結果的にありがたいな、俺だけじゃ支部長室にいけそうもないし。
「なら、お願いします」
そして俺とアーサーさんと御崎さん達で、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの中で、弓使いのあやさんが俺に話しかけてくる。
「それにしても、よくあの殺人鬼三人を倒せたわね? あいつら結構裏社会では有名なのよ?」
「そうなんですか? 確かにユニークスキルは厄介でしたけど……」
「そうそう、バカみたいなステータスになるらしくて、指名手配されて数年経ってもなかなか捕まらなかったのよ。お手柄ね!」
指名手配されていたのか……まあ当然か。
そんな人間と繋がっているなんて、小森支部長という人は完全に真っ黒な人物なんだな。
「他の二人も同じく凶悪な指名手配犯だったから。本当によく無事だったね。それと……気になってたんだけど、君は英人くんの友達かい?」
御崎さんがアーサーさんに話しかけてしまった。
「僕はアーサー。将来はミスター英人に並ぶ英雄になる男さ! こんなところで勇者に会えるとは、流石にここでは、この僕の輝きも霞んでしまうね!」
「あ、アーサーくんか、よろしくね……」
「……」
「漢なら、目標は高くあるべきだな! いいぞ少年!」
「ん……」
「……」
実際に話して思うけど、動画配信で見ているよりクセがすごいな……
「聖騎士」の金田さんだけは、なぜかアーサーさんを気に入ったようだ。
話しているうちに、最上階に着いた。
最上階につき、御崎さんを先頭に小森支部長がいる支部長室へ向かって歩いて行く。
「小森支部長、御崎です。至急話したいことが」
支部長室の扉をノックすると、中から小森支部長と思われる人物が返事をする。
「入っていいぞ」
支部長室に入ると、奥のデスクに小太りの初老の男性が踏ん反りかえって坐っている。
あいつが小森支部長……
「勇者殿、至急の要件とは? 今私は忙しくてね、手短に頼むよ」
小森支部長は髭をいじりながら、面倒くさそうに話を急かす。
「彼があなたに話があるようでして」
「うん? 彼だと? いったい――っ !?」
勇者パーティーの後ろから、俺は姿を表し、自己紹介をする。
「どうも、天霧英人と言います。その表情だと、俺の顔は把握しているようですね?」
「き、貴様! どうしてここにおる ! ?」
俺が生きていることが大層不思議なようで、大量の脂汗を流して狼狽えている。
「三人の殺人鬼と五人の暗部は、もう捕らえて引き渡しています」
「なんだと……」
「そこで本題ですけど、俺の父について何を知っているんですか? あなたは何を隠してるんですか?」
ようやくここまできた。
時間はかかったけど、あとはこいつの口から聞くだけ。
「ふ、ふん! 一体なんの話かね? 殺人鬼? 暗部? さっきから何を言っているかわからんな。要件はそれだけかな? ならさっさと出ていけ! ここはお前のような下級探索者がいていい場所ではないわい!」
小森支部長は焦っている様子はあるものの、まだシラを切っている。
俺は大剣を召喚し、小森支部長の首に突きつける。
ついでに龍圧もそこそこ強めに発動している。
「もう一度聞きます、知ってることを話してください。これはお願いじゃありません」
「ひい ! ?」
俺は知るためにここにいる。
「英人くん! それ以上はいけないよ、君を犯罪者にはしたくない。小森支部長が暗殺者を使って君を襲った証拠はあるかい? 殺人鬼の三人は警察に連行されたが、何も喋らないそうだ。何か証拠がなければ、これ以上の追及は僕の立場上容認できない」
今までになく真剣な表情で、御崎さんは俺にそう言った。
証拠……ない……かもしれない。
こいつを脅して直接聞けばいいと軽く考えていた。
俺が沈黙していると、アーサーさんが突然笑いだした。
「フッフッフ……証拠ならあるよ。僕はDチューバーだからね! こんな事もあろうかと、ミスター英人が襲われるところから、襲撃を跳ね除けて暗殺者を尋問するところまで、全て記録済みさっ」
神か……この人は!……今初めてアーサーさんがかっこよく見えている。
最後のニヒルな笑みも、立てられた親指も全然気にならない。
アーサーさんの発言の直後、支部長室の入り口の方から、第三者の声が響く。
「なかなか愉快なことになっとる様じゃのう」
部屋の中にいる全員が、新たに登場した声の方を向く。
部屋の入り口には杖をついた仙人のような風貌のお爺ちゃんが、ニコニコとした笑みを浮かべている。
老人の姿を見て最初に声を上げたのは御崎さんだった。
「
勇者パーティーは一斉に、この老人に向けて頭を下げる。
財前会長って……もしかして……
協会の会長がなんでこんなところに……
「ホッホッホ、そんなに頭を下げんで良い。今日はそこの少年に話をしに来たのじゃ」
財前会長は俺を見てそう告げる。
俺に話?
「とりあえず、小森くんは今日で新宿支部長を解任じゃな。ほれ、小森くんを拘束しなさい」
財前会長が突然小森支部長の解任を言い渡すと、支部長室の外から複数の警備員が雪崩れ込んできてた。
「財前会長! これは横暴ですぞ! 私は何もやましいことはしていませんぞ!」
「お主は前々から調査しておったのじゃ。今回の件だけでなく、今まで犯してきた悪事の数々は既に証拠も集まっとる。諦めなさい」
連行される小森支部長を見て、俺は待ったをかける。
「待ってくだい! そいつには聞きたいことが!」
「焦るでない少年よ、わしが全て、君の疑問に応えよう」
「っ ! ?」
この人も何か知っているのか?……
俺は父さんのことが聞ければそれでいい。
会長さんが教えてくれるなら、それでも構わないけど……
そうこうしているうちに、小森支部長は連行され、部屋には俺とアーサーさんと御崎さん達、それから財前会長が残った。
一人がけのソファに財前会長が腰をかけ、少し考える素振りを見せたあと徐に語り始めた。
「わしは探索者教会の会長をしとる、財前一郎じゃ」
財前会長が俺に自己紹介をする。
「天霧英人です。よろしくお願いします」
「ほっほっほ、本当にあの悪ガキにそっくりじゃのう」
財前会長は俺を見てニコニコと微笑みながらそう言った。
「さてとな、話をする前に、これから話すことを口外しないよう契約を結ぶことになるが、それでも良いかのう? すまんが契約できぬ者はこの部屋の外に出ていてもらうことになる」
父さんのことが聞けるならなんでもいい、俺はすぐにシーカーリングで契約を結んだ。
他の面々も契約に承諾し、これから話すことの口外禁止を約束した。
「そうじゃのう、まずはどこから話したものか……」
「父さんは、天霧大吾はどこにいるんですか?」
俺は直球で質問をぶつけた。
「大剣の英雄……お主の父は死亡したと判断されているが、正確に言うと奴の死に様を見た者はおらん」
「どう言うことですか? 父さんは一体どこに行ったんですか ! ?」
いけない、つい声を上げてしまった。
だけど誰も死ぬところを見ていないのはどう言うことだ?
「天霧大吾について話す前に、まずは世界の秘密から説明せねばならん」
「世界の秘密?」
何を言っているかわからないが、とりあえず先を聞こう。
「そうじゃ、世界の国々が秘匿にしている、あるダンジョンの話をせねばならん。50年前のダンジョン出現の時、南極大陸の中心に一つのダンジョンが出現していたんじゃ」
南極大陸? そんなところにダンジョンがあるなんて……一度も聞いたことがない。
だけどそれと父さんとなんの関係が?……
「南極にダンジョン? 僕も初めて聞きますね」
勇者の御崎さんでも聞かされていないのか ! ?
「そのダンジョンの詳細は50年経った今でも一切不明じゃ。今まで各国が幾度となく調査に乗り出したんじゃが、そのダンジョンに入った者は二度とダンジョンから戻ることはなかった。そして天霧大吾も、そこから戻らなかった者の一人じゃ」
父さんはその南極のダンジョンに行ったのか……
そして戻らなかった。
なぜ戻らない……戻れない理由がある?
一度入ったら出ることはできないとか?
それとも、何かに……負けた……?
いや、まだわからない。
嘘であってほしい……父さんが負けるなんて、考えたくない。
いや、それも全て、そのダンジョンに行けば分かるのか?
「そのダンジョンから戻らなかったのは天霧大吾だけではない。この50年、何度も各国の調査が行われた。調査隊はS級探索者が基本じゃ。その中には当然ユニークジョブ持ちがおったが、全員が死亡しておる。ユニークジョブでさえ攻略できない、故に南極ダンジョンはランクEXに指定されておる。攻略不能ということじゃな」
うん? どうして死亡と断言できる?
中で何が起こったかわからないんじゃないか?
「どうして死亡したと言えるんですか?」
「身近なユニークジョブでいえば、御崎くんがおるのう。「勇者」は御崎君で3代目のはずじゃ」
っ ! ?
そう言うことか……ユニークジョブは確か……継承されるんだったか。
御崎さんの前の勇者は、その南極ダンジョンに潜って戻らなかった。
そして次の勇者が現れた。
それで死亡したと断言できるわけか……
「狂戦士のユニークジョブは、父さん以降現れていないんですよね?」
「そうじゃのう。ユニークジョブは国際協定で、各国で共有すると言う決まりがあってのう。いまだにどこの国からも、「狂戦士」の発現の報告は上がってきておらん。じゃから天霧大吾に関してだけは、死んでいるのか生きているのかわからんと言うのが正直なところじゃ」
なら、まだ僅かに希望はある。
俺がその南極のダンジョンを攻略してやる……
どうか無事でいてくれ、父さん……
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