第29話 敵の元へ
俺の読みはおそらく当たった。
「龍感覚」で、優男は強さが格段に増しているのが分かった。
反対に女の方からは、最初に感じていたほどの脅威を微塵も感じなかった。
おそらく貸すと言うのは、リカちゃんと呼ばれていた女のステータスを、一時的に優男に譲渡したと言うことだろう。
だけど二人分のステータスで説明するには、優男の筋力値は上がり過ぎていた。
もしかすると女のステータスだけの上昇値じゃないのかもしれない。
まあ、あとは女と隠密で隠れている奴らを倒せば良いだけだ。
ステータスを譲渡しているせいで、女は戦闘に参加できなかった。
女たちの会話から、おそらくユニークスキルは女が持っている。
だから女を先に倒せば、男の急激なステータスの上昇は解除されると踏んだ。
俺の読みは当たり、女に向けて放たれた攻撃を優男は無視できなかった。
仮に優男が女を無視してあのまま俺を攻撃したとしても、リュートの不意打ちで致命傷は避けられたはず。
結果的に優男は女を守る選択をした。
おかげで俺の想定通り、「龍剣術」は優男に直撃した。
「龍纏」の出力をできるだけ抑えて、優男が倒れている場所に向かう。
残りの龍気は50000程しかない。
奴らに近づくと、女の声が聞こえてくる。
「ちょっとアンタ! 早く起きなさいよ! ユニーク使ったらアタシ戦えないんだから! 誰があのバケモノ始末するのよ ! ?」
化け物って俺のことか?
こいつらにだけは言われたくない……
倒れている優男を、女が必死で起こそうとしている。
優男の方は両腕が千切れ飛んでおり、「
女の方は足が折れているように見える。
おそらくステータスが下がっているせいで、戦闘の余波に耐えきれなかったんだろう。
さて、まずは女を拘束した方が良いだろう。
ユニークスキルをまた使われたら厄介だ。
MPはギリギリ拘束系の魔法を使えるくらいはある。
自然回復でほんの少しだけ溜まったのと、「焔爆撃」を使って余ったMPを合わせればなんとか発動できる。
俺は倒れている優男のところに近づくと、女が俺に気付いた。
「ひっ !? ア、アンタ! 一体なんなのよ ! ? アタシの「
「死屍孫々? 参考までに、どう言うスキルだった――」
俺が女に質問しようとした時、背後から奇襲を受ける。
「っ ! ?」
最初に戦闘不能にしたゾンビ男が、俺の背後でナイフを振りかぶっていた。
こいつ! まだ動けるのか ! ?
「目ぇだぁまあああ!」
全身血まみれのまさしくゾンビ男が、俺に迫る。
まずい、「龍感覚」で探るべきだった。
完全に油断した、回避が間に合わない!
――キン!
気付けばゾンビ男のナイフは、影から飛び出したリュートに受け止められていた。
「我が名はリュート。王の盾であり剣」
「誰だぁあ ! ? お前ぇえ!」
リュートが作り出してくれた隙で、俺はゾンビ男に攻撃を仕掛ける。
「よくやったリュート!
拳に龍気を纏わせ、ゾンビ男の顔面に叩き込む。
「がはっ」
拳は左頬に直撃し、ゾンビ男を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたゾンビ男は、木に直撃し動かなくなる。
「リュート、ゾンビ男を拘束しておいてくれ」
「かしこまりました。ダークバインド」
リュートが闇魔法でゾンビ男を拘束し、俺は女を火魔法で拘束する。
「ファイアーバインド」
二人を拘束したところで、森の中から広場に出てくる反応がある。
今度はちゃんと「龍感覚」で、残りの隠密で隠れている者たちを捕捉しておいた。
そして黒尽くめの男たちが、森の茂みから姿を現す。
「動くな、こっちには人質がいる」
五人の黒尽くめの男達の間から、見覚えのある男が出てきた。
「や、やあミスター英人。この間は助けてくれてありがとう。申し訳ないね、また助けてもらえるだろうか?」
「アーサーさん ! ? どうしてここに……」
襲撃者は全部で九人いたはず。
三人は殺人鬼で、木の上からこちらを監視していたのが五人……そして三人とは別の方向から近づいてきていたのが一人。
いや、もしかして……昨日からいたお粗末な尾行はアーサーさんだったのか ! ?
一体なんのために……
いや、ひとまずアーサーさんを救出するのが先か。
アーサーさんはダークバインドで拘束され、ナイフを突き付けられている。
この黒尽くめの男達は、全員が斥候系のジョブか?
ユニークスキルを持っている可能性もあるな……注意しないと。
早くカタをつけないと、殺人鬼どもの拘束が解けてしまう。
殺人鬼どもよりは、かなり格下なのは分かっている。
悪いけどすぐに終わらせよう。
俺は龍気を5千ほどこめて「龍圧」を発動する。
「「「「「「っ!?」」」」」」
――ドサ
強めに発動した「龍圧」で、六人は恐慌を通り越して一斉に気絶した。
やべ……アーサーさんまで気絶しちゃった。
まあいいか……あとで起こしてあげよう。
「リュート、アーサーさんを頼む」
「お任せください」
俺はアーサーさんの保護をリュートに頼み、天道支部長に連絡した。
経緯を説明して、今いる第七層まで探索者を派遣してもらえることになった。
俺とリュートだけでは、この人数を地上まで運ぶことはできない。
派遣される探索者を待っている間に、情報を聞き出しておこう。
俺は殺人鬼を一箇所に集めて尋問を始めた。
男二人は瀕死の状態なので、女の方に聞くことにする。
女はユニークスキルの反動か、弱体化されたままなのを感じる。
危険感知の反応もしない、一旦スキルを解除してもよさそうだな。
「さて、あなた達が小森支部長という人に、俺の暗殺を依頼されたのは本当ですか?」
「言うわけないでしょ〜? お兄さんバカなの?」
こいつは分かってない……俺がどれだけ本気で父さんを探しているのかを。
「今すぐ死にたいですか?」
俺は「龍圧」を気絶しない程度に発動して、脅しをかける。
「ひっ!」
「俺があなた方を殺さないでいるのは、小森支部長という人物について知りたいからです。それ以外に、あなた方に価値などないですよ?」
「わ、わかったわよ! 話すから! 話しますから!」
最初から素直に話せばいいのに……
「小森支部長に依頼されたんですか?」
「そ、そうよ。あなたを殺してくれれば、死体は好きにしてい良いって依頼されたのよ」
「小森支部長はどこの支部に?」
「新宿よ。今も暗部の報告を待ってるはずよ。暗部っていうのはそこに倒れてる五人で、死体の後処理が仕事の奴らよ」
新宿支部の支部長か……
こいつらから聞ける情報はこれくらいか?
「他に知ってることはありますか? 俺を狙う理由とか」
「そんなの知らないわよ……アタシらは殺す以外に興味ないもん」
やっぱりな……まあ、あとは本人に直接聞くとしよう。
さて、アーサーさんを起こすか、何してたかも気になるし。
リュートの元へ行き、アーサーさんを起こす。
「起きてくださいアーサーさん」
俺が呼びかけると、ゆっくりと瞼が開き意識が戻った。
「ん……僕は……はっ ! ? い、生きてる……」
アーサーさんは目を覚ましてすぐに、自分の体を確認している。
「龍圧」が強すぎたか?
「ふう、さっきのは幻だったのか……ミスター英人、この間は助けてくれてありがとう。改めて僕はアーサー、将来は英雄になる男さっ」
「え、ええ……俺は天霧英人と言います」
ちゃんと話すのは初めてなので、自己紹介から始まった。
「君のことは知っているよ、退院した後すぐに調べたからね。それにしてもミスター英人、さっき龍になって僕を食べなかったかい? びっくりしたよ、急に巨大な龍の頭が出てきて」
ん? 何を言ってるんだ?
もしかして……龍圧のことかな?
あれはそんな風に見えてるのか……
「さっきのは俺のスキルです。ところで、アーサーさんは何してたんですか?」
俺はアーサーさんに、尾行の経緯を聞いた。
どうやら俺に、助けてもらったお礼が言いたかったらしい。
ダンジョン前では勧誘の集団のせいで近づけなくて、ダンジョンに入って俺の後を追ったけど、早くてついてこれなかったみたい。
だから昨日は途中で反応がなくなったのか……
しばらくアーサーさんと話したり、殺人鬼達の拘束を掛け直したりしていると、ようやく派遣された探索者がここまで辿り着いたようだ。
「池袋支部から派遣されてきました。クラン「
「救生の星」というクランは、主にダンジョン内で起こる不測の事態の救援のために作られたクランだ。
一線を退いた人達が後続の探索者のために、常に探索者協会に常駐しているというありがたい人達だ。
「ありがとうございます。この人たちのことはお任せしてもいいですか?」
「構いませんよ。地上に戻ってゆっくり休んでください」
うん、いい人たちだ。
もうしわけないが、殺人鬼どもはこの人たちに任せよう。
挨拶しないといけない人がいるからね。
俺は新宿支部に向かうために、後処理を「救生の星」の皆さんに任せて地上を目指した。
______
あとがき
戦いで登場したスキルの詳細は、2章終了後に投稿予定の「2章までの登場人物・ダンジョンデータベース」に記載予定です。
2章もあと数話で終了します。
ここまで読んでくれている読者の皆様、ハートや星を入れてくださった皆様、本当にありがとうございます。
これからも楽しんでいただければ幸いです。
ナガト
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