第28話 刺客との戦い
そして翌日、ダンジョン前の勧誘はほとんどなく、すんなりダンジョンに入ることができた。
第二層あたりから、昨日と同じお粗末な尾行に気付いたが、昨日と同じく様子見で泳がせていた。
そして進むペースを上げ、第七層にやってきた。
昨日はこの辺でついてこなくなったが、今日はまだ尾行されている。
そしてしばらく第七層の森の中を歩いていると、俺の気配感知に4人の反応があった。
一人と3人に分かれていて、お互いから離れた距離を保っているようだ。
「そろそろ仕掛けてくるかな?」
「どうされますか?」
リュートが影の中からそう聞いてくる。
「お前は俺の合図があるまで影の中で待機していてくれ」
「仰せのままに」
敵のレベルがどうかわからないが、リュートは不意を突くのがギリギリのはず。
いや、高レベルの感知スキルを持っていたらすぐにバレるだろう。
だけどそれでいい、いつ影から出てくるかと意識させるだけでも十分。
俺は少し開けた広場のような場所で立ち止まり、4人の反応がする方角に向き直る。
俺が立ち止まっても、4人はそのままこちらへ向かってくる。
そしてついに、刺客が広場へと侵入してきた。
俺の前に現れたのは3人、もう一人は少し離れた木の裏で息を潜めている。
「やあやあ、待っててくれたのかい? 僕達に殺されるためにそこまでするなんて! 嬉しいなぁ僕」
どこにでもいそうな、優男のような見た目の槍を持った男が、女性を口説くような甘ったるい声色でそう言った。
こいつは槍使いか……「槍豪」のジョブか?
続けて優男の隣にいる骸骨のような男が喋り出す。
「ああ〜眼ぇ、目玉は俺に食わせろよ〜?」
げっそりとした、骨と皮だけのゾンビのような男が、ナイフをいじりながら涎を垂らしている。
そして3人目の女性というか、俺とそう変わらない年齢の、大きな斧を担いだ小柄な女が二人の後ろからするりと出てくる。
「お兄さん結構イケメンじゃ〜ん。ちょっとタイプかも〜。グフフッ……今回は目玉はあげないよ〜? あのお顔はアタシが持って帰るんだから」
恍惚とした表情で物騒なことを言い出した。
「じゃあこういうのはどうかな? とどめを刺した人が、彼の死体を好きにできるというのは。僕だって彼で遊びたいんだからさ!」
「さんせ〜」
「あぁ〜早くやっちまおうぜ〜」
こいつら、暗殺者というよりはただの殺人鬼じゃないか……
どうりで気配を消してこないわけだ。
3人ともかなりの手練れに思える、「危険感知」が少し反応している。
俺はこっそり「龍感覚」を発動し、周囲を索敵する。
やっぱり……高レベルの隠密で姿を隠しているやつらがいる。
数は5人、俺を囲むように周囲の木の上でこちらを見ている。
隠れている奴らは目の前の三人ほどの強さではなさそうだが、この人数は厄介だな。
大人しく御崎さんたちに護衛を頼むべきだったか?
いや、このくらい乗り越えなくてどうする。
何年も毎日剣を振り続けてきたんだ……こいつらを倒せば、何かしら父さんのことが分かるはずだ。
このチャンスは逃せない……絶対に俺は生き残る。
俺を置いて喋っている三人に、ダメ元で質問をしてみる。
「みなさんは、誰に雇われてるんです?」
「うん? 誰にって、小森支部長だよ? 知らなかったんだ、あはは。まあ、知ったところでどうせ死ぬんだから意味ないと思うけどね?」
俺の問いに、優男があっさりと答えた。
隠す気もないのか!? いや、でもこいつの言う通り、生きて帰らなければなんの意味もない。
「もういいかな? 他に言い残すことはあるかい?」
「じゃあ……一つだけいいですか?」
「いいよいいよ〜お兄さんが聞いてあげるから、遠慮なく言ってくれ」
俺は挑発を入れつつ注意を促す。
「死なないように気を付けてください」
おそらく手加減できるような相手ではない。
殺す気で攻撃しなければ、有効打にすらならないだろう。
仮に殺してしまったとしても、どうでもいい。
俺が気にすることではない。
「ん?……プッ……ハハハ! 聞いたかい? 僕ら三人を相手に――」
「龍纏」
俺は静かに「龍纒」を毎秒2000ほどの龍気をこめて発動した。
まず狙うはゾンビ男、こいつはおそらく「暗殺者」のジョブ。
「短剣術」を習得できるのは斥候系のジョブのみだから、自然と斥候系最上位の「暗殺者」と推測できる。
こいつさえ落とせば、不意打ちは木の上の奴らを警戒するだけで良くなる。
「短剣術」のデバフ攻撃も厄介だし、先に戦闘不能にしておいた方がいいと判断した。
俺は音速並のスピードでゾンビ男に近づき、召喚した大剣でその首を狙う。
「っ!?」
ゾンビ男は寸前のところで反応し、頭を逸らして腕でガードしてくる。
やはり反応してくるか……だけどその腕は貰った!
ゾンビ男の右腕を斬り飛ばし、追撃に「龍闘術」を発動する。
「俺の腕がああぁあ!」
「
「龍纏」発動中は、龍気を貯める速度が格段に早まる。
龍気を纏った俺の回し蹴りが、ゾンビ男の腹に直撃する。
――ズン!
腹に直撃した蹴りは、そのまま龍気の衝撃波を解放する。
衝撃波は優男と女の二人も巻き込み、咆哮を轟かせる。
――ズドーン!
「がはっ!?」
「きやっ!」
「チッ!」
ゾンビ男は森の中に血を撒き散らしなが吹っ飛んでいき、優男と女の二人は難なく受け身をとって着地した。
これでまず一人、腕も切ったし、おそらく内臓もボロボロ。
まず戦闘には復帰できないだろう。
「やってくれたね。僕が話している途中だったのに……」
「あ〜あ〜目玉のおじさんやられちゃったよ〜? 聞いてたより強くな〜い? アタシらで勝てんの〜? これ」
この速度の攻撃を見ても余裕そうだな……
「そうだね、少し見くびっていたよ。リカちゃん、少し貸してもらえるかな?」
「そうなるよね〜。少しと言わず全部貸してあげるよ。さっさと殺っちゃってよ〜」
貸す? 一体何を……
様子を見ていると、優男の雰囲気が変わった。
「あぁやっぱりこれ最高だねぇ! 今までの殺しを思い出すよ!」
全身から禍々しい黒いオーラが噴き出し、目が赤く染まっている。
なんだ !?
龍感覚で探ると、やつの力が大幅に高まっているのがわかる。
なんのスキルだ !? まさか……ユニークスキルか !?
「おやおや、何かに気付いたかい? お察しの通りユニークだよ。仕組みは教えないけどね?」
まじか……これは考えていなかった。
龍纏は龍気の消費が激しい、早く決着をつけないと――
次の瞬間、優男が目の前に現れた。
「っ !? 召喚!」
咄嗟に大盾を召喚し、かろうじて優男の槍を受け止める。
が、盾は粉々に砕け散った。
嘘だろ !? ミスリル製の盾だぞ !?
「なんだい? 今のは……どこから出したのかな? まっ、いいか。どれだけ持つかな?」
優男は反応するのがギリギリの速度で槍の連続突きを放ってくる。
大剣を盾のようにしてガードし、捌ききれない攻撃は盾を召喚して受け流す。
――ガキン!
――バキバキ――パリン!
休みなく続く槍の攻撃に、俺は防戦一報になり、次第に攻撃が命中するようになる。
このままじゃまずい。
「さっきまでの威勢はどこに行ったんだい? 何か策を打たないと、体が穴だらけになるよ?」
「顔は傷付けないでよね〜」
「龍纏」は正確な数値は分からないが、かなりの強化がされている。
さらに俺にはリトスとディーンのバフもかかっているのに、優男の速度に追いつくので精一杯。
パワーも完全に負けている……
あのユニークスキルは厄介すぎるな……
どうすれば……龍纏の出力を上げるか?
だけどこいつを倒しても、まだあの斧使いの女がいる……
龍気を使い切ってしまうのは危険だ。
――キン!
攻撃は休むことなく続いている。
おそらく優男はまだ余力を残しているはずだ。
ニコニコとしながら、涼しい顔で槍を突いてくる。
このあり得ないステータスの上昇は厄介すぎる!
あの少女が貸すと言った途端に優男の様子が変わった。
っ !? まさか……さっきからあの斧使いが攻撃に参加しないのはそう言うことか?
試してみる価値はあるかもしれない……
優男が本気になる前に、奴らが想定できない攻撃で奇襲し、一気に畳み掛ける!
「龍圧!」
「っ !?」
よし! 少しだけやつの動きが止まった!
俺は優男が怯んだその一瞬で、火魔法を自爆覚悟で最大火力で発動する。
「
左手を優男に向けて、火魔法レベル9の「焔爆撃」を放つ。
「なっ!? 火魔――」
――ドーン!
圧縮された炎の塊が、超近距離で爆発し凄まじい熱量と爆音を放つ。
爆発を超近距離で受けて、俺と優男は別々の方向に吹き飛ばされる。
俺は吹き飛ばされながら、ディーンの龍装のスキルで足場を形成する。
足場をうまく利用して、空中で体勢を整えた俺は無事に着地することができた。
大剣を盾のようにして爆風を受け止めたが、全ては抑えきれなかった。
体中から煙が出ており、ひどい火傷を全身に負ってしまった……。
今のでMPは空になった。
龍気はまだ残ってるけど、体が限界に近い。
次で勝負を決める!
森が焼け、爆煙が立ち込める中、「龍感覚」を発動し、優男と少女の場所を特定する。
いた! 多少吹き飛ばされたようだが、女はほとんど元いた場所から動いていない……男の方もまだ生きてるみたいだ。
俺は龍感覚を頼りに、次の狙いを定める。
狙いは優男ではなく斧使いの女の方!
俺は大剣の
龍気が大剣に流れ込み、その鋒に集まり出す。
大剣は蒼のオーラに包まれ、やがて大気が振動し始める。
「っ !?」
優男が動き始めたか……だがもう遅い。
龍気はもう十分溜まった。
あとは女に向けて放つだけ……
何かに気づいた優男は、全力疾走でこちらに向かってくる。
俺は龍気を込めるのをやめ、大剣を両手で握り、鋒を女の方に向けて突き出す。
「
突き出された大剣の鋒から、蒼色の龍気が放たれる。
龍気は直径3メートルほどのレーザー状になり、凄まじい咆哮を上げながら地面を抉って進む。
優男は俺の狙いに気付き、向きを変えて女の方向に駆け出すのが見えた。
龍気の砲撃は優男と女を飲み込み、やがて消えた……
刺客たちの方を見ると、抉られた地面がダンジョンの壁まで続いていた。
「龍感覚」で優男と女を確認する。
どうやらまだ生きてるようだが、もう動ける状態ではなさそうだ。
俺はゆっくりと、女たちの元へ歩いて行った。
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