第26話 謎の男
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
レベルアップのアナウンスを無視して、俺はアーサーさんの状態を確認する。
「アーサーさん! 大丈夫ですか !?」
「……」
俺は倒れているアーサーさんに近づき、脈を測る。
脈は弱いけど生きている。
気を失っているだけみたいだ。
俺はインベントリからあるだけの下級ポーションを取り出し、傷口にふりかける。
すぐに地上に連れて行った方がいいだろう。
俺は天道さんに連絡して、ダンジョンの入り口に救急車を呼んでもらった。
間に合ってよかった……この人も随分無茶をしたな。
俺はライカンの死体に目をやる。
こいつはライカンスロープなのか?
前回遭遇したものよりも体格が大きく、爪も鋭くなっているように感じる。
強さは大して変わらないように思えるけど……
データベースにはライカンスロープの上位種などは記載されていない。
生きている故の個体差というものだろうか?
こいつの死体は協会に引き渡すか。
研究者が現在進行形で、生きた魔物の研究を進めているらしい。
死体をインベントリに回収し、アーサーさんを抱きかかえてディーンに乗る。
「ディーン、ゆっくりでいいから出口を目指してくれ」
「ヒヒーン!」
そうしてダンジョンの入り口に戻ると、天道さんと救急隊員がダンジョンの中まで来てくれていた。
「やあ英人くん、今回はお手柄だよ。ところで……その馬?……は何かな?」
今回ばかりは仕方がない、天道さんには説明しておいた方がいいかもしれない。
「こいつについては後で説明します。それよりアーサーさんをお願いします」
「そうだな……救急隊の皆さん、彼を病院までお願いします」
「「了解しました」」
アーサーさんは担架に乗せられて、病院に搬送された。
俺と天道さんはそのまま池袋支部に向かった。
「それで、さっきの馬のような魔物は一体なんだ?」
「あれは俺の眷属で、魔物ではない……と思います」
彼らは魔物なのだろうか?
そもそもドラゴン系の魔物はダンジョンでは確認されていない。
唯一確認されているのが、アンデット系に出てくるドラゴンゾンビとかだろう。
死ぬ前の龍はダンジョンにはいない。
「ふむ、ユニークスキルなのかね? 召喚系のスキルは聞いたことがない」
「ユニークといったらユニークなのかもしれませんが、俺のステータスにはジョブもユニークスキルの表記もありません」
「うん? どういうことだい?」
「まあ、見てもらった方が早いかもしれません」
俺は天道さんにステータスを見せることにした。
お願いしたいこともあるし、天道さんの事は小さい頃から知っているから、悪いようにはならないだろう。
「いいのかね? 私に見せてしまっても」
「まあ、その代わりと言ってはなんですが、少しお願いを聞いてもらおうかなと」
「ふふっ、君も駆け引きの様な事をする年になったか。いいだろう、私にできる事であれば協力しよう」
俺は天道さんにステータスを見せた。
ちなみにリュートのビルドを作る時に手に入れたオーブは習得していない。
アーサーさんのところに向かってしまったからね、帰ってからやることにした。
「これは !? ジョブ専用スキル以外のスキルが全て……それにステータスもレベルにしては異常だ。何よりコアスキルとエクストラスキルは初めて目にする……いったいどういう事だ?」
「俺はスキルは使えても、なぜこんなスキルがあるのかについてはわかりません」
「ふむ……ステータスが18歳まで発現しなかったことに関係があるのかい?」
「それも今のところは謎です」
なるほど……そういう可能性もあるのかな?
複雑なステータスのシステムが、俺に馴染むのに時間がかかった的な?
「そうか……それで、この眷属召喚というスキルが、先ほどの馬の正体なのかね?」
「そうです。魔石で眷属を召喚する仕組みです」
まあ今は、リュートやリトスまで見せる必要はないだろう。
「そうか……これだけのスキルがあれば、君の攻略速度も頷ける。ユニークジョブとユニークスキルの両方持ちに匹敵するかもしれんな。それで、何か頼みがあるんだったね?」
「はい。実は最近、パーティー勧誘や企業の勧誘が多くて困っているんですよね。次から勧誘を断るときは協会に丸投げしようかなと」
C級に上がってから、と言うよりDリーグ特集で記事が載ってから、ダンジョンの入り口付近でパーティーや企業の勧誘が増えた。
それらを全て、「池袋支部で受付に伝えといてください」で済ませてしまおうという算段だ。
「ふむ、まあそれくらいなら構わないだろう」
「それと、僕のスキルについても秘密でお願いしますね」
「ああ、それはもちろんだが、少なくとも馬の眷属は隠しきれないと思うよ?」
「え?……どうしてです?」
どう言うことだ?
見られたのは救急隊員と天道さんだけのはず……
「アーサー君の配信は、君がダンジョンから出るまで続いていたからね。ディーンと呼んでいた馬はバッチリ映っていたぞ」
「あ……」
そうだった……俺も配信を見て救援に駆けつけたんだ。
確か俺が最後に見たときは、視聴者は1500人くらいだったはず。
これならDチューバーにしては少ない方だし、なんとかなるかな?
「アーサー君の配信は私も見ていたからね、最後に確認したときは20000人を超えていたよ」
「……」
増えすぎだろ……マジか……
いや、冷静になればどうってことはないか?
ディーンは主にサポートの側面が強いし、リュートが映るよりはマシだろう。
「そのために協会に勧誘の対応を頼んだのだと思っていたよ。君にも抜けているところがあって少しホッとしたよ。ハハハ」
まあ、いいか……なんとかなるさ。
「おっとそうだった、君にも伝えておかなければいけないことがあったんだ」
天道さんは何かを思い出したようにそう言った。
「最近、マジシャンのような格好をした不審な男が、高ランクの探索者に接触してきているようだ。特に戦闘になったようなことは聞いていないが、警戒はしておいた方がいいだろう」
「不審な男ですか? なぜ俺にそれを? 高ランクの探索者に接触してきているなら、俺には無害なんじゃ……」
「いや、そうとも言い切れない点がある。確かに男と接触したのは全員B級以上の者たちだが、一つだけ共通点がわかっている」
「共通点?」
「ああ、男と接触した探索者は皆、以前に生きた魔物を討伐した者だ。君のところにも現れる可能性がある」
「生きた魔物と不審な男、何か関係しているかもしれないということですか?」
「うむ、もしかすると無関係という線もあるが、一応警戒しておいた方がいいだろう」
どう関係しているかは謎だな……もし関係しているとして、男の目的はなんだ?
なんのために討伐した探索者に接触している?
「うーん、男の目的はなんでしょうか?」
「今のところ謎だ。突然現れ、少し話したところで忽然と姿を消すらしい。一応警戒だけはしておいた方がいいだろう」
マジシャンのような格好をした男か……
「そうですね。警戒だけはしておきます」
謎の男に、何者かからの刺客。
しばらくは気が抜けないな……
そうして俺は協会を後にして、いつもより早い時間に帰宅した。
***
Side:???
「何? 失敗しただと!?」
「申し訳ありません。どうやら彼は昇格してしまったようです」
「クソッ! 使えん奴らしかおらんのか!」
全く面倒な……今更、天霧の息子が探索者になるなんて……ステータスが発現していないんじゃなかったのか!?
「あの件が表に出るのはまずい……今度こそワシの責任が問われてしまう」
「どうなさいますか?」
「あの3人を呼べ! こうなったら始末するしかあるまい」
「よ、よろしいのですか? 彼らでは足がつく可能性が……」
「構わん! 隠蔽工作は暗部に任せていればいいだろう」
あの3人は手に負えないが、確実に始末してくれるのは間違いない。
後処理は暗部にやらせれば問題ない……
天霧大吾の件は、勇者が目立ってくれたおかげで下火になったというのに。
天霧英人……実に目障りだ。
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