第10話 魔物とは
次の日、俺は昇格試験のために池袋支部に来ていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ランクの更新をお願いします」
「かしこまりました。探索者証と攻略報酬の確認させていただきます」
俺は探索者証と二つのE級ダンジョンのボスドロップを渡した。
一つ目のゴブリンのE級ダンジョンのボスドロップは売る時に確認してもらったため、今回は二つで良かったりする。
「確認いたしました。昇格試験は1時間後の11時に行いますので、協会の隣に併設されている闘技場までお越しください」
「わかりました」
少し早いけど、することもないし闘技場に向かうか。
探索者協会の隣に併設されている闘技場にやってきた。
大きさは東京ドームの半分くらいで、毎日昇格試験やら探索者同士の賭け試合などが行われている。
自分の順番になるまで、他の探索者の昇格試験を見物することにしよう。
昇格試験の模擬戦は一般に公開されている。
パーティーメンバーの勧誘のために新人の昇格試験を見にきている者や、会社の将来的な広告塔を探しにきている大企業のスカウトマンなどもいる。
探索者同士の戦いを娯楽として観にきている物好きな一般人なんかも多い。
俺は空いている観覧席に座り、自分の番が来るまでしばらく観戦していた。
3人ほど試験の様子を見ていたが、特にこれといったことは起こらなかった。
しかし4人目の昇格試験の受験者が妙に印象的だった。
舞台の丁度真上に表示されているホログラムスクリーンには「アーサー」という名前と、「C級昇格試験」の文字が表示される。
中央に立つおそらく「剣士」であろう試験官の前に、金色の鎧と槍を装備した、20代くらいの金髪の男が舞台に上がった。
「僕はアーサー! 将来は英雄になる男さ。よろしく頼むよ」
アーサーと名乗る青年は、無駄に手入れされた金色の髪をかき上げる。
キラーンという効果音がぴったりな爽やかな笑顔を浮かべている。
「こりゃまた面白いやつが出てきたな!」
「英雄とは大きく出たもんだな」
「俺は好きだぜ! こういうやつ!」
観覧席からは様々な反応が上がっている。
そしてブザーが鳴り響き、昇格試験が開始される。
アーサーは開幕で「魔纏」を発動し、槍で攻撃を開始する。
そこからしばらくアーサーは槍での攻撃を繰り出していたが、試験官の方は涼しい顔で捌いていた。
さすがは試験官といったところで、高レベルの上級ジョブだと思われる。
アーサーもC級昇格試験を受けているだけあってそれなりの使い手だったようだが、俺の見た限りでは特筆した強さではないように思える。
しばらく攻防が続いた後、試験官が合格を言い渡した。
なんとか合格したようだ。
最初のインパクトは強かったけど、戦闘面は普通だったな。
「へっ、結局口だけかよ」
「期待させといてこれはねーわな」
「まっ、面白かったからいいけどな」
さんざんな言われ様だな……。
さて、次は俺の番か。
俺は受付を済ませて舞台に上がる。
今日は最初から大剣を背中に担いでいる。
何もないところからいきなり剣を出したら不自然だからね。
そういうマジックアイテムもあったりするが、俺のランクで持っていることはまずあり得ないほど高価だ。
昔父さんが使っていた、革製の大剣を背負うための鞘のようなベルトを使って背中に担いでいる。
「おっ、大剣使いか。最近はめっきり見ねーからなぁ」
「昔いた英雄と同じ名字だが偶然か?」
「そういえば居たな、なんとなく顔も似てねーか?」
父さんがS級として活動してた時は、爆発的に大剣がブームになっていた。
今は日本にいる唯一のユニークジョブ持ちである「勇者」の影響で、普通の両手剣が流行っていたりする。
「準備はいいか?」
「はい。お願いします」
ブザーが鳴り響き、試験が開始される。
今回は「龍剣術」などの特殊なスキルを使う予定はない。
俺の切り札の様なものだから、手の内を見せることは避けたい。
父さんのことについて隠蔽しようとしている奴らが見ているかもしれないからね。
まあ無難に戦っていればステータスが高いから試験は通るだろう。
「魔纏!」
魔闘術でステータスを上げ、開幕速攻で距離を詰める。
「!?」
試験官が驚いた表情を浮かべる。
俺の敏捷値はリトスのバフと合わせて2700まで上がっている。
これは下級ジョブのレベル70相当の数値だ。
当然、D級昇格試験を受けるレベルの速度を優に超えている。
俺は勢いをそのままに、大剣を袈裟斬りに放つ。
だがさすがは試験官、すぐに冷静さを取り戻して剣での防御を間に合わせる。
ガキン!
「な!?」
しかし剣の威力が予想外だったんだろう、思わぬ威力に少しだけ体制を崩す。
そこへ大剣を叩き込むが、間一髪で避けられてしまう。
くそ……今ので決められないとしたら、もう倒すのは厳しいか……。
一度距離を取って仕切り直そうとするが、試験官からストップがかかる。
「待て、合格だ。これ以上の戦闘は不要だ」
「ありがとうございました」
思った以上にあっさり終わってしまった。
これでD級探索者か……、ステータスを手に入れるまでは時間がかかったが、探索者になってからは割と順調にきている。
「おぉ!大剣のにいちゃんやるなあ!」
「さっきの金髪とは大違いだぜ!」
会場が少し盛り上がっているが、気にせず退場する。
俺は闘技場を後にし、探索者協会に戻ってきた。
「昇格おめでとうございます!こちら新しい探索者証になります」
俺は新しい銀製のシーカーリングを受け取る。
素早く同期を済ませ、古い方のシーカーリングを返却する。
現在の時刻は11時半ほど、少しだけD級ダンジョンに潜ることにした。
池袋周辺にあるD級ダンジョンは二つ、オークやホブゴブリンなどが出現するダンジョンと、ボアなどの獣型の魔物が出現するダンジョン。
今日はオークやホブゴブリンが出現するダンジョンに来た。
早速D級ダンジョンの第一層に降りる。
D級ダンジョンからは宝箱がボス部屋以外で出現する。
そのため他の探索者が多く、うまく狩りが進まない可能性がある。
さらには階層が一気に10階層まで増えるため、1日で攻略するのが難しくなる。
道中で転移魔法陣などはないため、攻略する時は野営をするのが一般的だ。
まあしばらくは上層でレベル上げが必要かな。
現在の俺のレベルは14、敵のレベルは20を超えてくるので、レベル20くらいまではすぐに上がるだろう。
経験値の計算は、レベル差のみで算出されていると思う。
俺はステータスの伸びが良いのと、リトスのバフがある。
そのためレベルは魔物の方が高いが、ステータスは俺の方が圧倒的に高いという普通ではあまりない状態だが、体感的に経験値が少ないという感覚は今のところない。
とりあえずレベル20になるまでは上層で狩りを続けるか。
第1層の平原を歩いていると、単独のオークに遭遇した。
オークはD級の魔物で、棍棒を持っている。
ステータスはHP、筋力、耐久が2000に近い数値だ。
上層では今のステータスで問題ないが、下層に行く場合や複数体と戦闘する場合は心もとない。
俺は大剣を構え、スキルなしで戦うことにする。
「ブモー!」
オークが棍棒を振り上げながら突っ込んでくる。
接近してきたオークは棍棒を力任せに振り下ろす。
俺は剣を斜めに構え、うまく軌道をそらした。
地面とオークの棍棒がぶつかりわずかに地面が揺れる。
直撃したら流石にやばそうだな……。
俺は隙だらけのオークに上段から剣を振り下ろし、棍棒を持つ腕を斬り飛ばす。
斬り飛ばされた腕は霧の様に雲散する。
傷口からは血が流れている様子はない。
「やっぱり生きてはいないのか?」
俺はすぐさま二撃目を放ち、オークは魔石を残して雲散する。
『ダンジョンの魔物は生物ではない』という見解が一般的だ。
倒すと霧の様に雲散するのもそうだが、何より感情的な行動をとることがない。
痛みを感じる素振りを見せないし、恐怖で逃げ出すこともしない。
ただ目の前の俺たち探索者に対して攻撃を仕掛けてくる。
故に動きが機械的で読みやすい。
俺たち探索者にとっては、相応のステータスやスキルがあれば討伐可能になるため喜ばれている。
だけどなおさら、父さんがダンジョンで死ぬとは考えにくい。
父さんは「狂戦士」のユニークジョブに加えて何かしらのユニークスキルを持っていたらしい。
ユニークスキルについては俺にも教えてくれなかったけど。
それでも当時は世界で唯一、ユニークスキルとユニークジョブを両方持つ人物だった。
もし、まだどこかで生きているなら、俺が必ず助け出す。
何があろうとも……
そしたら今度は一緒に……
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