四三話、廿の流転の門と、旅行二日目②
もはや、旅行ではなくなっているが、こればかりはしょうがない。
旅行にトラブルはつきものだ。
種族間の喧嘩には入るつもりは無いが、鴉羽としても、ドリィネやえるにーにゃの故郷が搾取されっぱなしなのも気分が悪かった。
その、雪兎とやらの本体に一発拳を入れたい。とはいえ、黒鬼が目立つ訳にはいかないので、ここは指示に従うことにした。
メインで回るのは、ドリィネ、えるにーにゃの二人だ。
……そういえば、白い兎がみたいなら、エルフの里に行けば見られるかもしれないのに、どうしてカリンはアシュビニャに頼んだのだろう。
あと、アシュビニャはどうして、雪兎を捕まえようとしたのだろう。月兎じゃ、ダメなのかな。
えるにーにゃに耳打ちすると、「月兎は、……有色よ」と返ってきた。ついでに一瞬だけ、えるにーにゃが月兎の姿になってくれた。
なんだかんだ言って、初めて見たかもしれない。もふもふではあるが、毛の色は灰色だ。純白とは程遠い。これでも可愛いのだが、カリンが「白い兎がいい」というから、アシュビニャは雪兎の侵攻を狙って、一匹攫ってこようと思ったのかもしれない。
雪兎は溶けない。かつ、生物ではない。だからエルフの里に持って行ける。普通の白うさぎが飼えなくてもこれなら大丈夫だろう、という判断なのかもしれない。
判断は、正しい。
が、そればかりに盲目になりすぎて、危なさを忘れていたのか。
あるいは、危ないとは知っていても─────。
「作戦はシンプルに行きましょう。三個にグループ分けよ。カリンちゃん、頑張って
結果、グループわけは下のようになった。
アケビナは館があるので、動けない。
カリン、ミズーリがアシュビニャ捜索。
ドリィネ、ぅと、えるにーにゃが薬草潭処理。
やえと鴉羽は雪兎撲滅。
これには誰も異論はなく、すぐに作戦ははじまった。みんなを二階に見送った(一階のドアはないので、大窓から出る)アケビナは胸の前で手を握り合わせ、しばらく祈りを捧げていた。
小さな女神像をカーペットに載せ、その前で正座をする。やえから、教えてもらったものだ。やえが出る前に、「もし心配なら、女神さまにでも申してみるといいですわ」と提案してくれたのだ。
確かに、藁をも掴む思いでいたので、この女神像の存在は、十分すぎるほどに精神安定剤になった。
言われた通りに、「祝福」を述べた。
すると、突然、脳裏に声が浮かんだ。神々しい、女性の声だった。
『……アナタガ、アケビナデスネ』
……はい。
『ヤエカラ、聞キマシタ……アノ子も、女神ノ扱イガ雑デスネ……マア、アノ子ダカラ許シテイルノデスガ』
……あの。
『エエ、ワカッテイマスヨ。心配ハイリマセン』
でも、アシュが……。
『彼ハイマスヨ。……昨夜ハヨク頑張リマシタ。キット救ワレルコトデショウ』
ありがとうございます……。
それでも、心配なのは変わらない。
それを察したのか、女神が微笑む。
『私カラ言ワセテモラエバ、アレハ過剰戦力トイウモノデス』
そうなんですか?
『彼女ラ一人デモイレバ十分デスヨ』
そ、そんなに……!?
『オソラクドリィネガ、協力作業デモヤラセテ、粋ナコトガシタカッタダケダト私ハ思ッテイマスヨ』
……。
その。
私は、何をすれば。
『……貢献ガシタイトイウノハ、殊勝ナ心意気デス。デスガ、力以上ニ行イヲシテ事ヲシ損ジルノハ褒メラレタコトデハアリマセン』
……。
『料理デドウデショウ。異郷ノ幸トイウモノハ五感ガ研ギ澄マサレルノデス』
……その通りにいたします。
……本当に有難う御座います。……その、この度の出会いは、女神さまがいらっしゃってこそのものと信じております。……なんて、お礼をすれば。
『……オ酒ノ類イガアッタデショウ。ソレデ十分デス』
……すぐに用意いたします。
顔をあげる。
「……アシュ……」
枯れかけた喉からは、上手く言葉が出ずにいた。
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