第3話
門出の日というのは晴天が好まれるだろう。広く青い空の下出発出来れば旅路も安泰であろう。しかしながら、今日は嵐が近づく荒天だった。雨風は徐々に強さを増し、旅立つ僕らを拒んでいるようだ。出発の延期も検討したがこのまま出発をすることとなった。
「雨足、落ち着くといいな」
「土砂崩れも怖いしこのまま止んでくれたらいいんだけど」
馬車の中は、魔法石の力によって外の音は聞こえず、静かで快適な温度に保たれている。風の力と縁の深いラーラは調子が良いのか外を眺め機嫌が良さそうだ。
「中央に着いたらどうするつもりなんだ」
「王国軍の行動は全て記録されていて王立中央図書館で確認できるようになっているんだ。まずはそれを確認しようと思う」
「でも、ラーラの言ったような話は聞いたことがないんだろう?そんな公の文書に載っているのか」
「載っていない可能性の方が大きいだろうね。彼女の言うことが正しくても隠蔽されている可能性は十分ある」
「じゃあどうするんだよ」
「姉上に相談してみようかと思うんだ」
「げ、ユリア姉かよ」
美人な名家のお嬢様、ユリアは僕の6つ年上の姉だ。中央の魔法師団に属していて僕らよりも中央について詳しい。ただ、カズヒコは姉上のことが苦手なようであからさまに顔を顰めた。
「その姉上という人は、信頼できるのか」
ラーラは徐ろにこちらに振りむくと真剣な眼差しを僕らに向けた。
「勿論。姉上は優しくて純粋で心の清らかな人だから、君のことを吹聴したり疑ったりすることは無いよ」
「そうか、ならば良かった」
どこが優しいんだよ、とカズヒコから横槍が入るが聞こえなかったこととする。
「でもそんな、行き当たりばったりでいいのか?お前ならもっとすごい策を考えてるんだとばかり思ってたぜ」
「今回のことは情報が全くと言っていいほどない。とりあえずできることからやっていくしかないでしょ」
「ユーヴィンスは難しいことが出来るんだな、私一人では中央に行けるかどうかも怪しかった。礼を言う」
「そんな、まだ何もやってないのにお礼なんていいよ」
ラーラが頭を軽く下げた時だった。急に馬車が大きく傾くと中にいた僕らは天井に強く打ち付けられる。そのままどこかを転がるように回転し続ける馬車の中でいつしか僕らは気を失っていた。
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「おい、大丈夫か?返事をしろ」
頬への衝撃で僕の意識はゆっくりと浮上した。同時に身体中に軋むような痛みを感じる。
「ラーラ?」
「良かった、おいカズヒコ。ユーヴィンスが目を覚ましたぞ」
そこは、山の中のようだった。周囲には馬車の残骸が散らばっており、少し離れた木陰には馬が倒れているのも見える。土砂も混じっていることから土砂崩れに巻き込まれたと考えて良さそうだ。
「僕らよく平気だったね」
「魔法石のおかげだとカズヒコが言っていた」
「平気なわけあるか。馬車の運転手はダメだった。ユーヴィンスも目を覚まさないから俺はっ」
戻ってきたカズヒコは泣きそうな顔をしていた。カズヒコとは産まれてからの付き合いだが彼のこんな表情を見るのは初めてで僕は自分の状態を確認した。せっかくのオートクチュールはあちこちが破け赤黒い血が染み付いている。顔を触れば頭に鋭い痛みが走り手には血がべっとりとこびりついた。頭からの出血が激しかったようだ。ラーラも右腕に酷い怪我を負っているし、カズヒコも足を引き摺っている。
「僕が治癒魔法を」
「馬鹿、動くな。頭の怪我が酷いんだ誰か人を探そう」
「私が1番軽傷だ、それに私は飛べる。私が動こう」
ラーラは宿屋で見せてくれたように風の姿になると上空にふわりと浮かび上がった。幸い、風は落ち着いていて彼女は吹き飛ばされることなくゆっくりと上昇していくと森の奥の方へと消えていった。
「なんだよ、今の」
「ラーラの、エルフの本来の姿だよ」
「本当に、本当にエルフなんだな」
「だからこそ、僕は彼女の言う真実を明かしてみたいんだ。僕らの常識や固定観念の外にあるものを見てみたい」
「結局はお前のエゴじゃないか」
「そうだよ、それが僕だってカズヒコがよく知ってるでしょ」
「あぁ、それに付き合うのが俺だからな」
カズヒコとのゆったりとした会話は、満身創痍の体を眠くさせるのには十分で気づけば再び意識は深い場所へと落ちていった。
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