第10話「偏愛初心者」前編

 ある昼の出来事。




[加藤 右宏]

 「おっ。お疲れさーんフタリとも!」



[如月 凛]

 「お疲れ様なのです!」



[卯月 神]

 「お疲れ様です」




 ミギヒロとアリリオ、卯月と凛がそれぞれ合流する。




[アリリオ]

 「お疲れ」




 また人気ひとけの無い所に集まるこの4人。




[アリリオ]

 「それで?なんか君の彼女、全然働いてくれないんだって?」




 話を切り出して大空をニートのように表現するアリリオ。




[卯月 神]

 「はい……朝蔵さん、それはもうたくさんの男性にアプローチされてると言うのに、全くなびかないんです。あの人……」



[アリリオ]

 「良い事じゃん」




 そりゃあ付き合ってる人がいるんだから靡かないのが普通だろと言うツッコミは今はナンセンスです。



 ちなみに今カッコがいで喋っている人間はナレーターだと思っといて下さい。




[加藤 右宏]

 「ナーンにも良くないンだぞ!おかげでお話がゆっくりにしか動かナイ!!いつ親父にバレるか気が気じゃないンだぞ!!」



[アリリオ]

 「確かにね……ソラ様男子ーズにも、もっと彼女を巡って争ってもらわないといけないのに、何気に普通に仲良くなっちゃってるし。しかもこの前、皆んなで焼肉行ってなかった?」



[卯月 神]

 「は、はい、まあ……」




 卯月が気まずそうに答える。




[加藤 右宏]

 「ナニ!?なんでオレ様を誘わないんだゾ!?」



[卯月 神]

 「あの時は……って、その前に貴方は1年生でしょう?あの時集まってたのは2年ですから1年の貴方がいきなり入るのは空気的に無理ですよ」



[卯月 神]

 「ソンナノ!『一つ下の学年に友達いるからそいつも誘って良い?』的な感じデ上手く言えヨ!」




 食い意地の悪いミギヒロは卯月に無茶振りをする。




[卯月 神]

 「そんな余裕ありませんでしたよ……」



[アリリオ]

 「大変だったんだね」




 アリリオが卯月の肩を持つ。




[如月 凛]

 「ですから!私達もずっとここには居られません……もしこれが、大神様にバレたら……」




 凛が怯えるように胸を抑える。




[卯月 神]

 「凛の言う通りです。焼肉の話はもう良いです。のんびりしている暇はありません」



[アリリオ]

 「うーん、なんか出来る事ある?」



[如月 凛]

 「なんか、お得意のおまじないでちゃちゃーっと!やっちゃって下さいよ!アリリオ様!」



[加藤 右宏]

 「あはは!アリリオはソウ言うたぐいの魔法にけてるからナ!」




 何故だか変なテンションになっているミギヒロと凛。




[アリリオ]

 「うーんそうだなぁ……」



[如月 凛]

 「……?」




 アリリオが案を出そうと考えている横で凛が、ある存在を見つける。




[如月 凛]

 「あれっ?あれ、ソラ様じゃないですかー?」




 凛が道を歩く大空の事を見つける。




[卯月 神]

 「あー」



[加藤 右宏]

 「あぁ、あの卑屈そうな後ろ姿は大空ダ」




 4人が大空の後ろ姿を捉える。



 大空の方は4人には気付かずに本屋にひとりで入って行ってしまう。




[如月 凛]

 「本屋さんの方に入って行かれましたね?」



[加藤 右宏]

 「あいつ漫画大好きだからナ〜」



[アリリオ]

 「本……閃いた!」




 アリリオの頭上に豆電球のマークが飛び出す。




[卯月 神]

 「……?な、何か思い付きました?」



[アリリオ]

 「まずは『何も書かれてない本』を用意します」




 いつの間にかアリリオの手に真っ白な本が一つ。




[卯月 神]

 「待って下さいアリリオさん、そんな物当たり前にどこから……?」



[アリリオ]

 「あぁ、朝蔵大空は恋愛をしたくなーるしたくなーる……」




 アリリオが謎の呪文を唱えだす。




[卯月 神]

 「??」




 アリリオ以外の3人はアリリオの作業が終わるまで待っている。




[アリリオ]

 「出来たよ、彼女が恋愛したくなる本。名付けて『恋愛経験の無い女は将来絶対失敗する!』と言う書物」



[加藤 右宏]

 「おーなんかスゲーじゃん!デカしたアリリオ!オレらからあいつへのバースデープレゼントだな!」




 アリリオが持っている本に手を伸ばして喜ぶミギヒロ。




[アリリオ]

 「もちろんタダで売るつもりは無いよ」



[加藤 右宏]

 「あぁ……」




 アリリオにかわされたミギヒロはよろめいてしまう。




[如月 凛]

 「おっと……」




 足元がふらついたミギヒロを凛がそっと抱きとめる。




[卯月 神]

 「彼女からお金を取るんですか……?」



[アリリオ]

 「うん、この世界の本の相場ってどんな感じなの?いくらが良いかな、大天使リン様?」




 アリリオが凛の方に話を振る。




[如月 凛]

 「あっ!そう言えば私思い出しました!ニッポンは昔……千円札、五千円札、一万円札の他に二千円札があったって!2000円!2000円にしましょう!!」




 凛がピースサインをしてそう答える。




[アリリオ]

 「じゃあ2000で手を打とうか」



[卯月 神]

 「……高い」




 ……。




[朝蔵 大空]

 「今日は良いやぁ……」




 私はひとりで本屋に来ていた。



 でも特に面白そうな漫画は無かったので何も買わずに店を出た。



 他に寄りたい店も無いし、今日はもう家に帰ろう。




[変装したアリリオ]

 「寄ってらっしゃい見てらっしゃーい」



[朝蔵 大空]

 「……?」




 こ、こんな所で出店やってる……。



 怪しい、けどちょっと見てみよっかな?




[朝蔵 大空]

 「おぉ……」




 たくさん並んだ雑貨の中に、一つ気になるタイトルの本があった。




[朝蔵 大空]

 「……『恋愛経験の無い女は将来絶対失敗する!』……?」




 私はそのタイトルの本をとりあえず手に取ってみる。




[変装したアリリオ]

 「あ!それ2000円です」



[朝蔵 大空]

 「あ、はい」




 結構高い……でもなんか凄く気になる。



 こう言う"自己啓発じこけいはつ"系の本って普段絶対買わないのにな……。




[変装したアリリオ]

 「それ、買わないと"損"だよ〜」



[朝蔵 大空]

 「……」



[変装したアリリオ]

 「もう残り一つしか無い一品ものだよ〜」




 買おう。




[朝蔵 大空]

 「すみませんこれ下さい」




 私はお財布の紐を開ける。



 チャリーン☆




[加藤 右宏]

 「おーオイオイ!買った!買った!アイツ買った!!」



[卯月 神]

 「さすが悪魔、悪びれる事も無く売り付けましたね」



[如月 凛]

 「恐れ多いです、元敵種族……」




 ……。




[刹那 五木]

 「……何、君達」




 ざわざわと賑やかなの教室。




[刹那 五木]

 「人の教室に大勢でやって来て……」




[嫉束&笹妬&狂沢&巣桜&木之本&文島]

 「「「「…………」」」」




 自分の席に座る刹那の前に並んで立つこの6人。




[刹那 五木]

 「え、で何?黙ってられちゃ怖いんだけど?」




 本気で焦りだす刹那。




[狂沢 蛯斗]

 「貴方は何も焦らないですか?」



「刹那 五木」

 「いや……だから焦ってるよ?皆んなで来られて困ってるよ?今おれは……君達に恐怖を感じている!」



[嫉束 界魔]

 「それよりさ!刹那くん、あの1年やっつけてよ!!」




 嫉束が真剣な眼差しで刹那にそう訴え掛ける。




[刹那 五木]

 「ん!?何?」



[狂沢 蛯斗]

 「原地くんの事です」



[刹那 五木]

 「あぁ……その子の事なら、おれらの教室でも結構話題にはなってるよ」




 刹那はそう言いながら後ろ頭を掻く。




[文島 秋]

 「彼なかなか手強てごわいよね〜。メンタル強いって言うかー、超積極的で、超肉食系?木之本も見習えば良いのに」



[木之本 夏樹]

 「おい」




 木之本が怒って文島を黙らそうとする。




[巣桜 司]

 「ぼくあの人苦手です!怖い!!」



[笹妬 吉鬼]

 「俺もちょっと関わるのは遠慮したいかな……面倒くさそうだし」




 この問題に消極的な笹妬と巣桜。




[狂沢 蛯斗]

 「あの人と話してるともー!ほんとイライラします!」



[嫉束 界魔]

 「分かる!!……もう頼れるのが君しか居ないんだよ!」



[刹那 五木]

 「そう言われてもー、おれも正直勝てる自信無いよ〜」



[狂沢 蛯斗]

 「なんですか、肝心な時に役に立たないですね」



[嫉束 界魔]

 「この陽キャ!サッカー部!」




 狂沢と嫉束が刹那を罵倒する。




[刹那 五木]

 「それは悪口になってないと思う……分かったよ、ちょっと行って来る」




 仕方無いと言わんばかりに、刹那が席から立ち上がる。




[木之本 夏樹]

 「おー!見直したぞ刹那!」



[文島 秋]

 「うんうん、やっぱりこう言う時に頼りになるよね」



[巣桜 司]

 「凄いです!刹那くん……!」



[笹妬 吉鬼]

 「やってくれ刹那」




 次々と刹那の事を褒めだすその他。




[刹那 五木]

 「もーう、本当にしょうがないんだから君達……」




 褒め言葉に嬉しそうに笑う刹那。




[狂沢 蛯斗]

 「分かったなら早く行って下さい」



[嫉束 界魔]

 「早くして!!」



[刹那 五木]

 「は、はいはい」




 刹那は小走りで教室から出て行く。



 ……。




[刹那 五木]

 (とりあえず1年の教室に来てみたけど、あの子の教室どこだ?それも知らずに来ちまった……)



[原地 洋助]

 「……」



[刹那 五木]

 「居たっ!」



[原地 洋助]

 「……?」




 刹那が廊下を歩いていた原地に近付いて行く。




[刹那 五木]

 「原地くんだよね?突然ごめん、ちょっと話があるんだけど、一緒に来てくれるかな?」



[原地 洋助]

 「は?嫌ですけど?」




 いつもより低い声できっぱりと断っていく原地。




[刹那 五木]

 「!?」



[刹那 五木]

 (うわほんとにクソガキじゃん……)



[原地 洋助]

 「どうせ、大空先輩に近付くなとかそんなんでしょう?」



[刹那 五木]

 「いや、そうとは言わないけどさ……」




 原地に対してタジタジの刹那。




[刹那 五木]

 (こ、怖ぇ〜……この子も目的の為なら手段は選ばないんだろうなー)



[原地 洋助]

 「って言うか、他の先輩方も自分が勇気無くてアタック出来ないからっておれを妬むのやめて下さいよ。負け犬は大人しく黙ってて下さい」



[刹那 五木]

 「……」




 今の原地の言葉が、刹那の地雷を踏んだ。




[刹那 五木]

 「……お前、どうせ大空の事なんも知らないんだろ?」




 次の瞬間、刹那の声もワントーン低くなる。




[原地 洋助]

 「なんですかいきなり、怖いんですけど」




 刹那に対して割とまともにビビってしまう原地。




[刹那 五木]

 「君も行動改めないと、いつか取り返しのつかない事になるよ。それだけは覚えといた方が良い」



[原地 洋助]

 「はぁ?ボクの何を改めろって言うんですか?」




 負けずに反抗しようとする原地。




[刹那 五木]

 「全部だよ、君の全部。まずその軽率すぎる思考を治した方が良いね。でないと……」



[原地 洋助]

 「ば、馬鹿にしてますか?」



[刹那 五木]

 「って言ってんの、分かんない?」



[原地 洋助]

 「っ……」




 刹那の圧に、言葉を詰まらせてしまう原地。




[刹那 五木]

 「今回はそれだけ、それじゃ」




 刹那は冷たい表情のまま原地の元から帰って行った。




[原地 洋助]

 「チッ」




 刹那の背中を見ながら小さく舌打ちをする原地。




 ……。




[朝蔵 大空]

 「〜♪」




 席で読書をしている大空。




[永瀬 里沙]

 「何読んでのー?」




 そこに里沙が前から話し掛ける。




[朝蔵 大空]

 「あっ……」



[永瀬 里沙]

 「なんの本?それ」



[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん」



[永瀬 里沙]

 「んぁ?」



[朝蔵 大空]

 「ダブルデートしよう!」




 大空は瞳を輝かせて宣言する。






 つづく……。

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