《第一章》 第五話

アジト内 13時59分PM

壁際で縛られたままの二人

顔を下げ、表情の見えないゼファ

なにやらゴソゴソするシュナイザー


シュナイザー:

「よし…上手くいった

縄抜けなんて実践したこと無かったけど、

調べとくもんだね?役に立ったよ…」


ゼファ:

「…」


ゼファの縄を解くシュナイザー


シュナイザー:

「ほら、外れたよ?ゼファ…うっ」


シュナイザーの胸ぐらを掴み

立ち上がって声を荒げるゼファ


ゼファ:

「―――なんで…!

なんで止めたシュナイザぁああ!」


シュナイザー:

「…わかってるだろ

あの状況で使ってもリスクが―――」


ゼファ:

「逃げられたかもしれねぇ!

俺達で!どこか遠くに!!」


シュナイザー:

「メルちゃんの首には”あの装置”が付いてる

逃げ切れたとしても、同じ事の繰り返しだよ」


ゼファ:

「んなもんどっかでぶっ壊して…!」


シュナイザー:

「アイツが言ってたろ!壊せないんだ!

今の僕達じゃどうする事もできないよ!」


ゼファ:

「わかってる…わかってるけどよぉ…

なら、どうすりゃ良かったんだ…!俺は!!」


シュナイザー:

「ゼファ…」


ゼファ:

「メルの…あんな哀(かな)しい顔を、

俺は!俺は見たくなかった…!!」


涙が溢れそうなゼファ


シュナイザー:

「僕だって同じだよ…でもだからこそ、

我慢しなきゃいけない時もあるんだ…」


ゼファ:

「何だと…!?」


シュナイザー:

「まだ…きっと大丈夫だよ」


ゼファ:

「どうしてそう言える!こうしてる間にも、

メルが酷い目に遭ってるかもしれねんだぞ!」


シュナイザー:

「アイツは、メルちゃんを必要としてた

殺すつもりなら、とっくにやってるよ…

でも、しなかった…

いいや、できなかったんだ

つまり、北大陸に連れて行くまでは

生きているはずだよ」


震えるゼファの手に

自分の手を添えるシュナイザー


シュナイザー:

「それまでには、助け出そう?」


ゼファ:

「どうやって!?

手も足も出なかっただろうが!」


シュナイザー:

「それは…」


言い淀むシュナイザーから手を離し、

背を向けて歩き出すゼファ


ゼファ:

「此処で言い争ってても埒(らち)が明かねぇ

俺は行くぜ、一人でもな…」


シュナイザー:

「何処に居るのかも分からないのに…?」


ゼファ:

「片っ端から潰していく…

手当たり次第、徹底的に…

見つからなくても、必ず見つけ出す

お前と初めて会った時に言ったよな…

俺は諦めが悪いんだって」


シュナイザー:

「…覚えてるよ」


立ち止まってコラプサーを拾うゼファ


ゼファ:

「俺はなシュナイザー…言ったんだ

一緒に行こうって、メルに」


振り返り、シュナイザーを見つめる


ゼファ:

「俺は旅に出る理由をずっと探してた…

それが見つかるまでは、

お前の夢を一緒に追い駆けるのも

悪くねぇと思った…

でも見つけたんだ、俺の旅に出る理由…

メルなんだよ…シュナイザー」


その眼に宿るのは”覚悟”


シュナイザー:

「…僕も行くよ」


ゼファ:

「お前は来んな」


シュナイザー:

「仲間だろ?」


ゼファ:

「諦めるつもりかよ…?

お前の親父さん…

ダイン博士を捜すっていう夢を」


シュナイザー:

「諦める訳無いだろ!」


ゼファ:

「シュナイザー…」


徐にテーブルへと向かうシュナイザー


シュナイザー:

「父さんは”あの”アインスタインを継げる

数少ない一人だった…」


ゼファ:

「アインスタイン…

数百年前に活躍した伝説の発明家…」


テーブルに飾られた一枚の写真立て

それを手に取るシュナイザー


シュナイザー:

「全ての技術はアインスタインに通じる…

蒸気機械の生みの親にして偉大なる英雄

父さんは、彼の発明を参考に

精密な義肢装具を開発してた…」


その写真には一人の男性が写っている


ゼファ:

「でも、お前を置いて出て行った」


シュナイザー:

「違う!行方不明になったんだ!」


ゼファ:

「俺達が会うより前の話だ」


写真立てを置くシュナイザー


シュナイザー:

「僕はそれでも…諦めない

父さんは生きてる、絶対に…

その為に探求者になったんだ

僕達なら、きっとメルちゃんを救えるよ」


その眼にも感じる、確かな”覚悟”

暫く考え、そして口を開くゼファ


ゼファ:

「―――俺達でなら、か

…そうかもしれねぇな」


シュナイザー:

「ゼファ…?」


ゼファ:

「心強いぜ?シュナイザー

お前が居れば百人力だ」


シュナイザー:

「…てっきり殴られるかと思ったのに」


ゼファ:

「殴れるかよ、”親友”を…」


シュナイザー:

「ゼファ…ありがとう」


壁に凭れ掛かるゼファ


ゼファ:

「さて、ならどうする?

北大陸までこのまま突っ込むのか?」


シュナイザー:

「そうだね北大陸…ん?

ちょっと待って、変だ…」


ゼファ:

「どうした?」


シュナイザー:

「君が最初に乗り込んだ列車、覚えてる…?」


ゼファ:

「あぁ、あの”棺桶”か…それがなんだ」


シュナイザー:

「アレは確かに、帝國の物だった…」


ゼファ:

「…?何が変なんだよ」


シュナイザー:

「問題は線路さ…あの線路はね?

東西大陸の交流が今よりも盛んだった頃に

使われていた物なんだ…でも、

経済が悪化してからは閉鎖されていた…

北大陸には直接繋がってないはずなのに、

アイツ等はソレを使って

険しい山岳地帯を越えて来た…

一体…どうやって…」


親指を噛み、外を見るシュナイザー

窓の向こう側には複数の金属鳥

”メタルバード”が羽ばたいていた


シュナイザー:

「線路の先…そうか…」


ゼファ:

「…シュナイザー?」


シュナイザー:

「わかったよ、ゼファ…”空路”だ」


ゼファ:

「…空?」


シュナイザー:

「レッドバレーの破棄された運搬用施設…!

線路はそこに繋がってる!

確かあそこは飛空艇が着陸できるんだ…

それも超大型級の…

あの列車は多分ソレを使って持ってきたんだ!

アイツ等の狙いはメルちゃんを飛空艇に乗せて

北大陸まで連れて行く事なんだよ!」


ゼファ:

「今からでも追いつけるか!?」


シュナイザー:

「山岳地帯の先だから…うん、

直線で山を越えて行けばなんとか成るよ!

コラプサーの充填は?」


ゼファ:

「二つ…だが、これで十分だ」


シュナイザー:

「コラプサーは放熱後、六時間毎に

失ったエネルギーを一つチャージする

強力な切り札だけど…反面、

判断を誤れば危険すら伴(ともな)う

諸刃(もろは)の剣…扱えるのは、君だけだ」


ゼファ:

「任せろ…今度こそ

ヤツにどデカい風穴、空けてやるぜ!」


シュナイザー:

「行こう、ゼファ

メルちゃんを助けに!」


ゼファ:

「あぁ、行こうぜシュナイザー!

反撃開始だ…!」


熱く手を握り、そして目指す

赤い地の谷…”レッドバレー”へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る