第92話 無茶はダメ

 スインドさんのリバースは、小一時間くらい続いたのでした。



「…………浮かせられていたのではなく、いきなり……抱えられて」



 一角ひとつのグリズリーという、熊の魔物をクレハがヒョヒョイと倒したのまではまだ良いが。


 その後に……豪速でジェットコースター移動魔法を駆使されたので……まだまだ耐性のないスインドさんには、体が保たなかったのだとか。



「にゃー? スインドは柔やんなあ?」


「クレハ? 無茶はしないって注意したわよね?」


「……これ、無茶なん?」


「スインドさんに無茶させたでしょ!?」



 まったくもう……本気で無茶させたつもりじゃないって感じだから、強く怒れないのよね。


 とりあえず、スインドさんには回復出来るまで……椅子で横になるのは辛いから、私の寝室を使ってほしいと提案したんだけど。



「……いや、いい。座っていれば落ち着く」


「……本当に大丈夫ですか? 無理してません?」


「…………ああ」



 隠しているけど……好きな相手には、無茶をして欲しくない。


 あとちょっとで、チルットには帰ってしまうから……告白はせずとも、もっと一緒に居たい。


 矛盾した考えではあるけど……好きな人を大事にしたい気持ちは強いもの。


 クレハには敢えて相談してないが……多分、バレバレな気がする。あの子、自分のことについては鈍いけど、他人のことには聡いから。


 スインドさんは、カウンターの隅でグロッキーになったので……マルトのお茶をすぐに出して、休んでもらうことに。


 お店は今、雷の長老様しかお客様はいないので……クレハだけでも接客は大丈夫だ。



「しっかし、ネコマタの孫。こいつ、生はともかく……ヒロが調理するもんに出来んのか?」


「にゃー。おもろいと思ったんよ。あちきらが避けとった脂身多いし……なんか美味いもん出来ると思ってん」


「ほーん? ヒロ……どうだ?」


「……申し訳ないですが、解体を手伝っていただけないでしょうか」



 熊の解体だなんて、ほとんどしたことはないけど。猪や鹿、スッポンと違っても哺乳類形態に変わり無いから……大丈夫だと思う。


 思いっきり鋭い一本だけの角は、すぐにクレハが素材屋に卸すからと取ってくれたが。



「皮とかを剥げば、いいのか? それいらねぇなら貰いたいんだけど」


「特に問題はないですが……」


「布団代わりにいいんだよな。焔のが気に入りでよ」


「……なるほど」



 喧嘩はするが、仲の良い夫婦で何よりだ。歳の差婚だけど……見た目通り、焔の長老様の方が歳下らしく。お子さんは、既に自立されているとか。


 毛皮を剥いだら、長老様が魔法使い収納の中にささっと仕舞いました。


 その後は……たしかに脂身がすごく、解体し甲斐のある作業となったのだ。



「ヒロ〜、ヒロ〜、これで焼肉丼せぇへん?!」


「……焼肉かあ」



 たしかに……タレと相性が悪いわけではないようだけど。


 ここはひとつ……別の提案をしてみることにしたわ。


 ひき肉にして……メンチカツじゃなくて、ハンバーグを!!


 脂身も相まって、絶対美味しいと思うのよね!!

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