第93話

 国際カンファレンス中に起きた前代未聞のテロから数日がたち、カンファレンスに参加してい探索者や協会関係者、そして会場で逮捕された『天廻』などのテロリストたちの証言によって、今回の騒動の全貌が朧気ながら判明してきた。

 その結果、カンファレンスを主催していた各国の探索者協会が非難の的となる。色々と落ち度があるが、決定的なのがテロリストを職員に紛れ込まされた結果、危うく世界最高峰の探索者が一網打尽にされる寸前までいったことであった。


 そのため探索者協会としては表向き全面的に陳謝する他無かった。ここで下手に言い訳をすれば逆効果であると組織全体が理解していたためだった。ただどんなところにも例外はいるものであった。


「それでは虎太郎さんは今回の件で早々に倒された探索者に非はないとお考えなんてすね」

「ないじゃろうな」

「とのことですがどうでしょう、探索者評論家の家永さん」

「まあ仲間うちで擁護したい気持ちは分かりますがね、戦闘力で仕事してる探索者がテロリストに負けて非がないって言うのはねぇー」


 アメリカなど特に批判が多かった探索者協会が行った世論操作。早々に倒された探索者たちを巻き込むことで協会のダメージを減らそうとした結果、それは各方面に飛び火し日本にもそういった意見が少なからず反響することとなった。

 そうなれば組織の腐った一部が便乗し出す。その結果、何が目的かも分からないテレビ番組に『虎穴虎子』のクランリーダーである佐々木虎太郎が駆り出され、よく分からない評論家と討論する羽目になっていた。


「確かにメンツは丸つぶれじゃけん。じゃがテロが起こった責任は『天廻』の侵入を防げんくて、『聖域』の本当の性能も見抜けなんかった主催団体の探索者協会じゃろ。しかも煉やユラが今回の騒動の尻拭いしとるしの」

「そ、それこそ今回のテロについての取材に一切応じずにいる煉やユラは――」

「説明責任じゃろ? お前さんらは馬鹿の一つ覚えに説明責任じゃ、知る権利じゃと言うけどのぉ。公表すれば世の中パニックになるような秘密、抱えてる探索者はゴロゴロいるんじゃ。お前さんも探索者評論家なんて肩書き名乗るならそれくらい理解して物言え」

「な......」


 何も言えなくなる探索者評論家。そもそも世論操作を依頼され色々とやっている者たちもいるが、持っていきたい世論がそもそも無理筋なため、裏目になっている感があった。

 ただ1つ、煉とユラについては今も尚、物議が巻き起こっていた。多くの探索者を行動不能にした『聖域』を無効化した手法や今回のテロリストの黒幕など、彼らが語らない事が多すぎるためである。しかし物議が起こっているのは2人の行動に対する非難からではない。前まではそういった秘密主義的な行動をバッシングする報道は多く、それに釣られて世論もバッシングが起こっていた。

 しかし今回英雄的な活躍をしたこともあり、2人の行動は世論操作を実行した者の予想以上に受け入れられていた。そのため2人の行動を非難する報道がなされれば、それに対するバッシングが起こるほどであった。これは操作された世論というまやかしが世間にバレ始めている前兆のようであった。



 

 

 

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