第50話 思考誘導と統率

 始めに獣太が軍隊蟻の前に立ち守護スキル『不動明王』を発動する。『不動明王』の存在感により獣太にヘイトを集める作戦である。とは言え体表ワックス偽装により多くの蟻は獣太を仲間だと判断し気にしない。

 しかし体表ワックスでの偽装を看破した統率蟻たちが獣太に周りの兵隊蟻に指示を出そうしている様子が確認できた。指示を出される前に、虎太郎はスキル『神槍グングニル』を発動し装備していた愛槍を投擲する。槍系スキルの中でも投擲用に開発された『神槍』は、虎太郎の槍に付与された『自動帰還』により、無限リロードが可能な壊れ技へと昇華されていた。


「統率蟻をやったわい!」

「此方も一匹!」

 

 槍に貫かれ絶命している統率蟻の死骸まで到達した煉は『王剣グラル』にその死骸を喰わせる。統率蟻がやられ死骸も消えたことで、周りの蟻たちが動揺している隙に『気配遮断』で気付かれないように離脱する。

 これを繰り返していたが、間に合わず統率蟻が指示を出し始めてしまう。しかし統率蟻の指示を受けた蟻たちが煉や獣太たちに向かい進軍しない。


「思考誘導に統率蟻の統率を重ねてみたが上手くいったか。良くやったグラル」


 煉の労いの言葉に呼応するようにグラルは煉から魔力を吸収する。統率蟻を喰らわせることで得た統率蟻が蟻たちに指示を出す能力は、まだ練度が足りないのでそれの補填として思考誘導を重ねることで統率蟻の指揮系統を混乱させることに成功するのだった。


 指揮系統をめちゃくちゃにしつつ、統率蟻を狙い打ちにする戦法は軍隊蟻に非常に有効であった。瞬く間に統率蟻を始末することが出来た。残されたのは指揮する者のいない烏合の軍隊である。


「で? こいつらを逆に指揮して同士討ちさせるのは出来ないのか?」

「はい。蟻言は分からないで複雑な命令は出せません。進め、止まれくらいです」

「ほう。それでもほとんどの蟻どもを無効化できるのは凄いの。じゃけん魔力消費は大丈夫か?」

「今のところは。でも消費は激しいので早めに進みましょう」


 蟻たちに効果は絶大な『統率』であるが、効果を広げる程にグラルから要求される魔力も多くなる。そのため獣太がヘイトを集め、虎太郎が狙い打ち、煉が喰らうという三段コンボでの戦術を続けつつ、局地的に『統率』を使うことで、驚異的な早さで深層を突破していくのであった。


 最下層に近づけば近づくほど、独自に判断し動く個体も増えていき、戦闘頻度は増えたがそれでも軍隊蟻を無効化できるのは強かった。最下層のボス部屋前に辿り着いた時、煉以外はほとんど消耗していない状態であった。


「さて行くか」

「体表ワックスは切れましたし、ここからは『統率』も使えないので総力戦ですね」

「まあここまでハイペースで来れたのは煉のお陰じゃけんの。これくらい働かないと帰ってからメンバーに怒られるわい」

「俺も美代に叱られちまう」

「そうですか? ならよろしくお願いします」


 統率蟻の『統率』よりも『蟲の女王』からの命令の方が優先度は高く設定されている。これは多くの種で共通である。そのため『蟲の女王』とその護衛の蟻たちで構成されているボス部屋では、先ほどまでの戦法は通じない。小細工なしのぶつかり合いが始まるのだった。

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