第31話 蠱毒ダンジョン2

 クリアフィの地に降り立った煉。周辺地域の許可を得て近くの空港から全力ダッシュでここまで来たので多少の疲労はあれど、ポーションをがぶ飲みし持ち直す。

 思い立ってからすぐに出発したため、言語や泊まる場所など心配事は多々あったが、そこは現地の探索者協会が何とかしてくれていた。ダンジョン直近には通訳と寝床が用意されていたのだ。


「ありがとう、日本の英雄よ、と言ってます」

「まだお礼を言われるようなことはやってませんが、まあいいか。自分への探索許可は出ていますか?」

「勿論です」

「なら、今から探索します。氾濫ってことでいいんですよね?」

「はい」

「どこが発生源か分かりますか?」

「分からない、でももしかしたら深層かもしれない、だそうです」


 深層での氾濫発生はモンスターがダンジョンを昇ってくるのに時間が掛かる反面、放っておけば取り返しのつかないことになる氾濫である。とはいえ通訳の話では氾濫が観測されたのが1週間以上前とのことなので、蠱毒ダンジョンであることが本当に幸運だったと言える。


「しかし氾濫で更に増えたモンスターたちから選抜されたモンスターがってなるとかなり強そうだ」


 しかしダンジョンブレイクまで秒読みであることに変わりはない。早速煉はダンジョン内に入っていくのだった。

 

 前回の氾濫、そしてここ最近のダンジョンクリアラッシュを経て煉の強さはかなり伸びていた。そのため蠱毒により洗練された深層級モンスターであろうとバッタバッタと切り伏せることが可能であった。

 ただ前回の氾濫と異なる点は、ダンジョン入口の防衛組は現地の探索者であり深層級モンスターと戦える実力は残念ながら持っていないため、適度にモンスターを間引きながら進まなければならなかった。そのためいつも以上に『魔力感知』の精度を高めて進んでいた。そのためダンジョン内の異変に気が付くことができた。


「モンスターの動きが変わった? 何かから逃げてる?」


 モンスターが煉などの格上の探索者から逃げるという現象は起こり得る。特にデーモン種などはそれが顕著だが、頭の良い種は比較的勝てない相手に戦いを挑むことは少ない。しかし今、モンスターたちが逃げているのは煉ではない。ダンジョンの奥から来る何かから逃げているようであった。

 

「モンスターがモンスターから逃げる。これも蠱毒ダンジョン特有の現象? それとも…」


 謎の現象に考えを巡らせていると、通訳から通信が入る。


【今、協会の観測班から連絡がありました。なんでもダンジョンの深層付近で大きな魔力が動いているのを観測したそうです】

「大きな魔力。それは1つだけですか?」

【そうみたいです。観測班的には守護者じゃないかとのことです】

「守護者が発生源を放って動くとは考えにくいんですが…ただ、『空間断裂』」


 迫り来るモンスターの群れを空間ごと消し去りながら煉は思案する。


「こいつらの逃げている相手はその大きな魔力で間違いなさそうですね。もし他にも動きがあればまた教えてください」

【分かりました】


 取り敢えず間引きをしつつ大きな魔力が来るのを待つことにした。


 ―――――――――――――――


 同胞を生み出す扉を守る役割を与えられた。しかし同胞を見ていれば見ているほどお腹が減ってくる。

 役割を果たさなければという思考を徐々に食欲が上回っていくことが実感できる。しかし止められない。


[アア、ソウダ。アノ扉ゴト食エバイインダ]


 役割は無くなり頭の中が食欲だけに支配されていくのがわかる。回りには多くの同胞がいる。


[コンナニタクサン、イタダキマス]

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