第472話 鉱石をお届け

 スレブに寄ったキリーは、勢いでヴォルグを説得するとルナを連れてブランへと向かう。思い立ったが吉日と言わんばかりのものすごい行動力である。さすがのルナも目を回す勢いだった。

 そんなわけで、あっという間にブランに到着してしまうキリーである。さすがのルナも、ちょっと目を回しているようだった。

「にいさん、着いたの?」

 ふらふらとしながらもキリーに確認するルナ。

「はい、着きましたよ」

 その体を支えつつ、しっかりと答えるキリーである。

「おや、先日来た嬢ちゃんじゃないか。また来たのかい?」

 キリーたちを見つけた門番が声を掛けてきた。

「はい。本日は妹を連れてきました」

「へえ、妹さんか。確かによく似ているな」

 2人は双子なので似ていてもおかしくはない。だけど、メイド服のキリーとお嬢様な格好のルナとではかなり印象は違って見えるのだ。さすがは人を見る門番である。

「それで、今日はどんな用事で来たんだい?」

「商業区画にある鍛冶工房に行く予定です」

「ああ、ハンマスのおっさんのところか。少々変わっているが、腕は確かだからな。ブランに来たらひいきにしてやってくれな」

 さすがは門番。キリーが鍛冶工房と返しただけで、どこの事かすぐ分かったようである。

「ええ、そうさせて頂きます」

 にこりと微笑むキリーである。

 よく分からないといった表情のルナを引き連れ、キリーはハンマスのところへとやって来た。

「ごめん下さいな」

 キリーは中へと呼び掛ける。

「この声は先日やって来たメイドか。何の用だ」

 奥からハンマスがのっそりと出てきた。

 そして、キリーを見るなり、隣と見比べて目を丸くしていた。

「なんだ、双子が居ったのか」

 やっぱり隣に立つルナに対して驚いているようだった。

「にいさん、この人変な魔力!」

「ん?? にいさんだと?!」

 ルナの言葉に混乱するハンマス。これに対してキリーは笑いながら、

「とりあえず、中に入っていいでしょうか……」

 困った顔をしてハンマスに尋ねたのだった。その顔を見たハンマスは、おとなしくキリーたちを中へと招き入れた。

「で、何の用だ」

 ドカッと椅子に座ったハンマスは、キリーに単刀直入に話し掛けてきた。なので、キリーの方もストレートに用件を伝える。

「地脈に触れた鉱石に覚えがあったので持ってきたんです。これでルナのために何か作れないかと思いましてね」

「……なんだと?」

 表情が険しくなるハンマスである。その表情にルナが少し強張っていた。

 キリーはルナの頭を撫でると、収納魔法を展開して件の地脈に触れた鉱石を取り出す。作業台の上にごろごろと大量に出てくる鉱石に、ハンマスは目を疑った。

「これは確かに……地脈の魔力だな。懐かしい魔力だ……」

 ハンマスは鉱石を触りながら、穏やかな表情で呟いている。

 そういえばノームは地脈を操る魔法が使えたのだ。それがゆえに地脈の魔力に反応しているのだろう。

「このくらいの魔力の含有量なら、お前さんたちの力に耐えうる装備が作れるだろう。……それにしても、これは一体どこで手に入れたんだ?」

 鉱石を確認したハンマスは、キリーに尋ねずにはいられなかった。それに対してキリーは素直に答える。

「僕の今住んでいる街、スランの南にある砂漠地帯です。あの辺りは地脈が乱れやすいようでして、その影響があちこちに出ているんですよ」

「地脈が乱れやすいとは、とんでもない場所だな……。という事は、地神ガイアの仕業というわけだな?」

「はい、実際そうみたいですよ。この世界の神様に怒られてましたからね」

 キリーの証言に、ハンマスはもう黙り込むしかなかった。なんと言ったらいいのか分からないのである。

「とりあえずです。この鉱石は全部差し上げますので、ルナのために装備を作ってくれませんか?」

 ずずいっとハンマスに詰め寄るキリー。その勢いに、いろいろ頭の痛い状態のハンマスはついつい押されてしまっていた。

「分かった、分かった。とりあえず、装備を作るとして、そっちの嬢ちゃんの戦闘スタイルを聞かせてくれ」

 ハンマスは慌てながらもキリーを落ち着かせようとしている。

「私は、この拳とかを使う。肉弾戦」

 以前のような片言に近い状態で答えるルナである。ちなみにその時にシュッシュと拳で殴る動作をしていた。

「やれやれ、ずいぶんと血の気の多い嬢ちゃんだな。という事は籠手とレッグガーダーでいいのかな」

 確認を取りながら、必要量の鉱石を選り分けるハンマスである。

「そうですね。これでもスレブという街の領主の子どもですので、何かあっては困りますからね」

「なんと、領主の娘さんかい。という事はお前さんもか」

「そうですね。一応、ルナの双子の兄になりますから」

「兄って……。どう見ても嬢ちゃんじゃないか」

「いろいろあったんですよ」

「そ、そうか……」

 キリーの表情を見て、いろいろ察したハンマスはもう何も聞かなかった。さっきも強引に話を切っていたので、触れない方がいいと判断したのである。

「とりあえず、そっちの嬢ちゃんの手足を見させてもらうぞ。装備を作るとなると、その体に合ったものを作らないといけないからな。合わないものはむしろ体を傷付けるんだ」

 そう言いながら、ルナの体の採寸を始めるハンマスである。

「ふむ、成長期も考慮して作るが、明日か明後日にはできるだろう。今日はもう宿を取って休むといいぞ」

「はい、お願いします」

 鉱石を全部ハンマスに預けたキリーは、ルナを連れて宿を取りに街へと出たのだった。

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