第128話 キリーには敵わない
マオはキリーにお願いして、一緒にお米を見に行く事になった。キリーの使える収納魔法が便利だからである。マオも使えるが、容量がそこまで大きくないから仕方がない。
レリから聞いた場所はフェレスから南東に1日ほど進んだ場所である。スランからだとフェレスへ向かうのと距離はそう大して変わらないので、空を飛んで急いでも4日ほどは掛かる。ただ、空を飛べば地面の地形を無視できるのが大きいし、キリーの魔法は強力なのでマオも空を飛ぶ事に集中ができるのだ。それでも人ひとり分の荷重が増える分、マオの負担も増えるが仕方のない事なのだ。マオもキリーの事はとても信用しているし、キリーの方もマオを信用している。お互いの信用あってこそである。
今回のお出かけも、ヴァルラは快く送り出してくれた。ホビィも能天気に見送っていた。本当にいい家族である。その2人に報いるためにも、キリーとマオはお米の自生しているポイントへと向かった。
キリーとマオは飛ばしに飛ばして、4日で目的地にたどり着いた。マオはへとへとに疲れている。学習していない。
「おや、マオにキリーちゃん。君たちも来たのかね」
なんとゴルベ自らが、お米の調査に乗り出していた。それ以外にも街の人がちらほらと見える。護衛の冒険者と商業ギルドの人たちだろう。ちなみに、領主の仕事に関しては、ビラロにテストを兼ねて任せている。長兄なのだからある意味仕方がない。マオはこの通り自由だし、ガットはまだわがまますぎて仕事には向かない。長兄以外の理由でもビラロしか適任が居なかったのだった。その話を聞いたマオは、嫌々ながら引き受けているビラロの顔が思い浮かんだ。
さて、お米の調査だが、ルーペなどを使って稲の一本を隅々まで見ていたり、辺りの植生を調べたりしているようだった。
「キリーさん、鑑定魔法いけるかしら」
「そうですね、マオさん。やってみます」
マオの声に、キリーは稲に鑑定魔法を使ってみる。すると、いろいろな情報が出てくる出てくる。さすがは天の申し子の規格外の魔法である。育て方まで出てくるんだから半端ない。
「ふむふむ、水が肝心なようですね」
キリーは読み取った鑑定結果をメモに書き出していく。というか、どこにしまってたんですかね、そのペンとメモ。言わずと知れた収納魔法でしたね、はい。
キリーは続いて籾も見ていく。この籾の中身こそがお米である。外皮となる籾殻を取り除いて玄米。そこから糠を取り除いて白米となる。鑑定魔法はそういう事も全部教えてくれるのだ。本当に便利すぎるキリーの鑑定魔法である。
ちなみに、例の食堂で出てくる米も白米である。レリに確認した内容では、夢で見たお米が白かったし、作り方も夢がばっちり教えてくれたとの事である。ちなみに籾と糠は肥料にされた。
それにしても、このキリーの鑑定魔法をゴルベに伝えたら、目を見開いて驚かれた。ここまで頑張ってきた調査は一体何だったのかと言わんばかりの顔である。まあ仕方がない。ほとんど分からなかった事を、鑑定魔法一発で判明させられてしまったのだから。これでは悪魔にも立つ瀬はない。マオの方を見てみれば、ふるふると首を横に振っていた。考えちゃだめだ、諦めろという事である。その姿を見たゴルベは、それに従うしか選択肢はなかった。
とりあえず、ゴルベは考えた結果、米の栽培のための村をこの場所に作る事に決めた。自生している以上、この辺りの土地は栽培に適した環境にあると見たためである。キリーもマオも特に反対はしなかった。下手に環境をいじるよりは、今の環境を利用して整えた方がよいとの判断からだ。
ある程度話がついたところで、マオが大きなあくびをする。あれだけ急いで空を飛んできたのだから無理もない。よく今まで意識が保てたものだ。
ゴルベが部下に指示して天幕の設営を急がせる。それができ上るまでの間、マオはずっとキリーに寄り掛かって眠っていた。その寝顔を見て、キリーはくすっと微笑んでいた。
本当に、マオはキリーに対して完全に気を許している。天の申し子と分かってからもそれは変わらない。マオはキリーの事が好きなのだろう。この2人の様子を、ゴルベは少々複雑な気持ちで見守っている。
それにしても、娯楽都市として発展してきたフェレスにとって、これは実にいい機会だと思われる。人を呼び込む要素はいくらあっても足りないのだ。人が増えれば食糧事情は苦しくなっていく。それなりの量を輸入に頼るフェレスとしては、自力で食糧が調達できるようになるのは嬉しい限りなのだ。
それと同時に、スランの街をちょっとうらやましく思った。ただでさえヴァルラやキリーの存在だけでも羨ましいというのに、未知の食べ物を作る食堂の話を聞くとますますその気持ちは強くなっていく。
悪魔なのだし、そういうのは奪ってしまえと思ってしまうかも知れないが、大体キリー1人が居る時点で勝ち目はない。今はマオも住んでいるし、娘を思うからこそ、ゴルベは頭を横に振って邪念を払う。せっかく惜しげもなく情報をくれたのだから、それを利用すべきだ。ゴルベはなんとか自制心を保った。
「フェレスを子どもたちが自慢できる街にしなければな」
ゴルベはそう呟くと、早速村の整備計画を練り始めたのだった。
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