第116話 歪みの正体

 歪みの問題は思った以上に面倒なものだった。1つを潰しても残りが拡大するという事が分かったからだ。だが、これが事前に分かっていたとしても、光魔法の使い手が足りずにどのみち詰まっていた。本当に意地の悪いものである。

 ただ、キリーとマオが1つを潰してくれた事で、街道の安全はそこそこ確保できるようになった。警戒する場所が街道の森側だけに減ったからだ。それと、歪みが大きくなった事で、臨界に達するまでの時間が短縮された可能性があるというのも分かった。

 その代わり、銀級冒険者でも命の危険が及ぶかもしれない状況になった可能性が否定できない。なにせ、歪みから感じる魔力が明らかに強くなっているからである。

 この歪みはなぜ発生して、どうして魔物を生み出すのか。その仕組みはまった>しい事が載っていなかった。とても書き記せる状況ではなかったのだろうな」

 ゴルベは両肘をついて頭を抱えていた。

「親父、ちょっといいか?」

「どうした、ビラロ」

「言われて調べてた中に気になる記述があったから持ってきた」

 ビラロの報告を聞いて、ゴルベはその記述を見せてもらう。マオも一緒に覗き込んだ。

「あら、これは……」

「マオ、何か分かったのか?」

 マオの反応にゴルベは問い掛ける。

「ええ、ヴァルラ様のところで似たような記述を見た覚えがありますわ」

 マオがそう言うと、気になったキリーもその記述を覗き込んだ。

「そうですね、確かに師匠の持つ書物の中に同じような記述がありました」

「本当か?!」

 キリーからも証言が得られた事で、ゴルベは叫んだ。

「はい、師匠はあらゆる魔法の研究をしていますから」

「そうか……。それで、どういう意味なんだ、これは」

 ゴルベには理解不能だった記述。その意味を知りたくて、ゴルベは2人を急かしてきた。

「お父様、今から説明しますから、落ち着いて下さい」

「おお、すまん……」

 マオに言われて、ゴルベはおとなしく腰を落ち着けた。

「キリーさん、これはやっぱり」

「そうですね、間違いありません」

「これでしたら、光と闇の魔法で打ち消せた理由に合点がいきますわね」

 キリーとマオが2人でなにやら納得している。

「どういう事なんだ、説明してくれ」

 ゴルベが急かす。

「結論から言うと、あの歪みは私たち悪魔を狙った神からの攻撃ですわ」

「なんだと?!」

 マオの言葉にゴルベとビラロが叫ぶ。

「呪術の一種ですね。対象のところに魔物を送り込んで襲わせるという陰湿な魔法です」

「悪魔は昔、神に逆らった種族とされています。ですから、神にとって憎むべき悪魔を葬り去る手段として、あの歪みが存在しているというわけですわ」

「多分、すぐに魔物を召喚しないで、歪みの状態を長く維持しているのは、その間に許しを乞わせるための猶予といったところでしょうね」

 キリーとマオが推論を述べていく。周りはそれを黙って聞いている。

「光と闇の魔法で消せるという点も、これなら納得がいくんです。悪魔は基本的に闇しか使えません。また光というのも使える存在は限られています」

 キリーのこの言葉で、ゴルベははっとする。

「……そうか、光魔法が使えるのは神官、それと天の申し子というわけか」

「そうですね。つまり悪魔と神の使いが力を合わせたという事です。だから、神からの許しを得たという形となって歪みが消せたんです」

 なんともな理由である。

 それにしても、1つ消すと残りが強力になるというのも、なんとも意地悪としか言いようのないものである。

 その一方で、この時期にこの歪みを出現させた理由が分からない。神はまだ悪魔を許していないという事なのだろうか。少なくともフェレスの悪魔は人間とは友好的である。まったく意図が汲み取れなかった。

「それにしても困りましたわ。歪みの正体が分かったとはいえ、それを消せる手段がないのですもの。闇の上級魔法の使い手はおりますのに、光魔法の使い手の数は足りませんもの。理不尽なものですわ」

 マオが愚痴を言うのも無理はない。光魔法の使い手ははっきりって少ない。ましてや悪魔とは敵対的な思考の持ち主が多いのだ。最初から悪魔を滅ぼす目的であると言っても過言ではない。

 だが、この理論から行けば、キリーは間違いなく天の申し子という事になる。なにせ神官ではないのだから。それ以上に不思議なのは、悪魔でありながら光魔法を使えるマオである。中級まで使えるのだから本当に不思議である。

 歪みの正体がおおよそ分かったところで、対策会議が再開する。歪みを消す事が不可能な以上、同時に歪みを広げ切って魔物を出現させる手が取られる事になった。どのような魔物が出てくるか分からない上、森の方にはもともと強力な魔物が存在する。主力は森の方へ集中させる案が採られる事となった。

「2人はどうするかね」

 ゴルベから尋ねられたキリーとマオは、

「僕(私)たちはコンビですから」

 と声を揃えて答えていた。一緒に行動するようである。

 こうして、フェレス近郊に現れた歪みへの対処作戦が始まった。キリーたちはフェレスの街の危機を無事に乗り越える事ができるのだろうか。


――


近況ノートにメイド姿のキリーの原案イラスト(シャーペン画)置いてます。いずれ他のキャラも描こうとは思ってますが、眠気のせいで執筆で精一杯ですので、あしからず。

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