第101話 闇あれば光もある

 それからも、キリーとホビィの二人でマオにしっかりと稽古をつけていく。時にはヴァルラも交えて本格的にである。キリーとホビィはどうしても感覚的な教え方になるので、マオのような初心者には理解できない部分が多いのだ。そういった時こそ、ヴァルラの出番なのである。

 キリーたちによって大雑把に教えられた事を、ヴァルラがかみ砕いて教えていく。そうする事によって、マオの習熟度は格段に上がっていった。

 マオの魔法も闇の「シャ」以外にも風の「エアレ」、火の「フアレ」、水の「アクエ」、光の「リヒテ」と、土以外のすべての属性に及ぶものとなっていた。

「こうなってくると、上位の「ジ」や「ト」も覚えられるかも知れんな」

 ヴァルラはそう評している。

 ちなみに「ジ」は中級、「ト」は上級を意味する。キリーもマオも無印である初級魔法でかなりの威力を持っているので、「ト」にいたっては災害級にもなりうるので心配である。これで最上位の「マ」を教えたら、生命滅亡の危険性すら出そうだ。まぁ、ヴァルラですら「マ」は一つも使えないのだが。

「ジ・シャ・ソルデ!」

 試しにヴァルラはマオに闇の中級魔法の練習をさせてみる。「シャ・ソルデ」を強化した「ジ・シャ・ソルデ」である。「シャ・ソルデ」の時点では闇の剣は通常の剣だったが、「ジ・シャ・ソルデ」の場合、闇の剣はサーベルのような細身の剣へと姿を変えている。そして、それが若干追尾するような2連撃へと魔法の性能が変化していた。なるほど、相手を確実に仕留めようとする闇魔法の特性が強化されたような感じである。

 マオの魔法を見ているだけでも、ヴァルラにとっては嬉しい限りである。闇と光の魔法の使い手はそう多くないのが現状なのだ。光魔法もキリーが適性を示しているが、それほど得意なわけではない。天の申し子というのなら、もっと適性が強くてもいいはず。キリーに尋ねてみても「よく分かりませんね」というだけなのだ。光魔法は明かりと治癒と浄化くらいしか知られておらず、あまりにも謎が多い。

「マオは光魔法については何か知っているのかな?」

「いえ、あまり知らないですわ。悪魔にとって光魔法は苦手なものですから。私が使える時点でおかしな話なのですわ」

 一応あまり詳しくないとの話らしいが、

「ですが、闇の魔法でできる事の反対の事は大体できるというような話は聞いた事がありますわよ」

 光は闇の対局の属性という事で、闇の魔法が引き起こす事象の反対の事ができるらしい。

「という事は、理論上は闇魔法を反転させれば光魔法になり得るという事か」

「不可能とは言い切れませんわね」

 ヴァルラの推論に、マオも同調する。

「ですが、その理論でいけば、光魔法を反転させればまた闇魔法にもなり得るという事ですわね」

「うーむ、そういう事になるな」

 マオの推論に、ヴァルラは険しい表情をする。

 つまり光魔法が使えるキリーも、状況次第では闇魔法の使い手になる可能性があるというわけだ。

「ヴァルラ様がお考えの事は、私も懸念致しますわ。キリーさんは純粋すぎますもの」

 ヴァルラとマオが、ホビィと戯れているキリーを見る。そしたらば、キリーは無邪気にホビィと戯れていた(実際は近接戦闘の練習中)。

「まぁ、キリーが今の様子なら、そう心配しなくてもいいだろうが」

「ええ、今後どうなるかはまったく分かりませんもの。私もそうですが、キリーさんにもその辺りのコントロールを身に付けてもらう必要はありますわね」

「そうだな」

 ヴァルラとマオは、今後の方針を確かめ合った。

 2人がこういう懸念を出すのも無理はない話だ。キリーの精神を大きく揺るがす事件が起きたばかりだからだ。それがあのシュトレー渓谷の一件である。あの時のキリーはすさまじく怒っていた。あの時は逃げるだけで精一杯だったと、兄であるビラロも話していた。つまり、キリーが本気で怒れば、世界滅亡だって起こりうるという事である。

「とりあえず、ちょっと試してもよろしいですかしら」

「何をするつもりかな?」

 突然のマオの要求に、ヴァルラは不思議そうな顔をする。

「闇魔法のシャ・ソルデを、光魔法で再現できないか試してみたいのですわ」

「ふむ、それは試してみてもいいかも知れんな」

 ヴァルラの了承を取ると、マオは早速の練習用の人形に魔法を放ってみる。

「リヒテ・ソルデ!」

 単純な話、闇に当たる「シャ」の部分を光の「リヒテ」に置き換えただけである。

 だが、予想外な事に、人形に向かって光の剣が飛んでいき、突き刺さったのである。2人が話していた理論上の事ができてしまったのである。

「……これは驚いたな」

 ヴァルラも想像していなかった事である。

「マオよ、もう一つ頼んでいいか?」

「何でしょうか、ヴァルラ様」

「シャ・ソルデとリヒテ・ソルデを同時に撃つ事は可能か?」

「うーん、初めて使いましたので分からないですけれど、やってみます」

 ヴァルラの言葉に、マオはイメージしながら魔力を込めていく。

「シャ・ソルデ!」

 まずは得意な闇の剣を生み出し、

「リヒテ・ソルデ!」

 ほぼ間を置かずに正反対の光の剣を生み出す。すると、それはほぼ同時に人形へと突き刺さった。刺さり具合を見ても、しっかりと同威力の魔法が放てていた。

「はあはあ、正反対の属性の同時発射は、さすがにきついですわ。まだ完全無詠唱ができませんもの……」

 この一発だけでマオの疲労は明らかだった。

「うーむ、これだけ疲労をするとなると連発は無理だし、なによりマオの体が心配だな。うん、状況を見ながら単発でやめておこう」

 と、ここでキリーたちにも声を掛けて休憩を入れる事になった。

 この日、光と闇の魔法にも様々な可能性がある事が分かったのは大きな収穫である。

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