第100話 筋肉のツンデレは要らない?
キリーたちはスランへと戻ってきた。
すぐさま冒険者ギルドへと戻り、討伐の報告を行う。
「はい、アークコボルト1体と通常のコボルト41体ですね。群れの規模としては普通といったところでしょうか。銅級4名以上の依頼なんですけれど、さすがキリーちゃんですね」
カンナは普段通りの笑顔で受け答えをしている。ある意味絶対的な信頼があるようである。このやり取りには、マオとマスールが不思議そうな顔をして佇んでいた。
「あら、このくらいの依頼でしたらキリーちゃんなら一人で片付けてしまいますよ。多分金級の腕前はありますから」
謎のカンナによる評価である。だが、キリーの戦いを目の前で見た2人なら、実に納得のいく評価である。大げさだなんて笑えるのは、キリーを知らない人くらいだ。
襲い来るコボルトをメイド姿で、手に持った魔力生成の双剣で斬り倒していく姿。後から現れたアークコボルトも雑魚扱いで倒す始末。銀級ならソロ討伐は可能だが、あそこまで圧倒的なのだから、金級と評価されても不思議ではないのだ。まだ10代前半と思われるその姿。将来が楽しみでもあり、恐ろしくもあるのだ。
「というわけで査定が終わりました。キリーちゃんもすっかり解体に慣れちゃいましたね。とてもきれいにできていましたよ」
「えへへ、褒めてもらえて嬉しいですね」
べた褒めのカンナに、頭の後ろを撫でながら照れるキリー。普通なら微笑ましい光景だが、ここは冒険者ギルドである。むしろ異様な光景である。
「マオさんも討伐が認められましたのでね、これでめでたく鉄級を卒業して銅級になりましたね」
「ええ、もう上がってしまうんですの?」
カンナの評価に、マオは真顔で驚いている。
「はい、コボルトは群れの中の個体の数が多いので、これをこなせた時点で銅級と認定されます。マオさんが討伐した数だけでも10体確認できますので、認定として十分な数ですね」
カンナは昇級の理由をきちんと説明してくれた。
「あ、マスールさんは鉄級据え置きですよ? まだ制裁期間が終わってませんから」
「俺はダメなのか」
「はい、ダメですね。でも、積み重ねておけば、期間が終わった時に元の銀級まで上がる事は可能ですので、地道に頑張って下さい。ここで上がらないのは自業自得なんですから」
マスールは文句を付けたかったようだが、カンナの正当な理由返しにおとなしく黙ってしまった。さすがに過去のやらかしには耐えざるを得ないようである。
「マスールさんは実力はありますからね。きっと大丈夫ですよ、性格だけの問題ですから」
キリーは慰めるつもりで言うが、きっちり追い打ちを掛けていた。さすがキリーである。
「キリーさん、それとどめですわ……」
マオもドン引きである。悪魔にドン引きされるメイド、さすがキリーである。
「それはともかくとして、ちゃんと討伐達成報酬と素材の買取報酬は出ますのでご安心下さい」
目の前のやり取りをスルーして、カンナは通常の業務を淡々と進めていく。
「コボルトの数は一般的ですが、状態がよかったですからね。その分支払い金額が増えています。正直マスールさんがこれだけきれいな仕事をした事に驚きましたよ」
カンナはすまし顔で目の前のカルトンに金貨などの報酬を積み上げていく。
「全部で金貨22枚と銀貨25枚ですね。銅級の報酬としてはまずまずといったところでしょうか」
金額はこれでも盛られている方らしい。オーク11体の時の210枚が頭に残っているせいか、キリーにはちょっと少なく思えた。
「コボルトの皮は1体あたり銀貨8枚から12枚ですからね。出回る数自体も多いですし、庶民向けの汎用素材なので安くなってしまうんですよ。ちなみに報酬の内訳は依頼達成の金貨10枚、コボルトの皮が金貨4枚と銀貨92枚、アークコボルトの皮が金貨7枚と銀貨33枚です」
カンナは耳打ちするような近さで、キリーたちに報酬内容を伝えてきた。なるほど、合計は確かに合っている。キリーはそれの大体3分の1をマスールに渡す。金貨7枚と銀貨41枚で銀貨が2枚余る計算だが、面倒なので金貨8枚と端数の銀貨をそのまま渡したのだった。
「3分の1よりは多いですが、マオさんに対する授業料だと思って受け取って下さい」
キリーはにっこりとした笑顔で、マスールにそう言った。その笑顔は一瞬ドキッとしてしまいそうなものだったが、マスールには通じなかった。
「まぁ、そういう事なら受け取っておく。だが、俺はあまりお前たちと関わるつもりはないからな」
マスールは受け取って後ろを向くと、顔だけ振り向いてキリーに言い放つ。
「そうですか。それは残念ですね」
キリーは本気で残念そうに言っている。
「お前な、そういうお人好しなところはやめておけ。中にはそういうのを利用してくるきたねえ奴も居るんだ。少しは相手を見ろ!」
それに対してマスールは本気で怒鳴った。だが、その内容はめちゃくちゃ心配しているものだった。マスールがキリーにした事を本気で反省している事が窺える。
「そういうものなんですね。ありがとうございます、マスールさん」
「ふんっ」
キリーにお礼を言われたマスールは、そのままずかずかと冒険者ギルドを出ていった。
この日の事は瞬く間に街中へと伝わっていったが、まあいつもの事である。
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