第49話 風変わりな食堂

 服を買ったヴァルラたちは、とりあえず収納魔法にしまって手ぶらとなった。そうしてやって来たのは腹ごしらえのための食堂である。お昼は基本的に外食をするヴァルラたちなのである。たまには自分たちもお金を使わないと経済が回らない。引きこもっていたとは言えど、ヴァルラもそういう感覚だけは普通に持っているのである。

「昔に比べると、だいぶ店も増えているから、私が食べた事のないような物もあるかも知れんな」

 地味にヴァルラは楽しみにしている。これまでにも何店舗か回ってみたものの、ヴァルラには珍しくもない物ばかりだった。200年も前に食べた物を覚えているのもすごいのだが、その間変わってないというのもすごい。

 というわけで、今日は商業ギルドにポーションを納品したついでに、職員から聞き出したお店へとやって来ていた。

 そのお店は大通りから一本入った場所にあった。場所としてはスランクロース服飾店からそう遠くない場所だ。というわけで、治安的にもそれほど悪くない場所である。

 ただ、人通りはそう多くはないし、店の雰囲気も賑わっているようには見えなかった。そこが気になったヴァルラだったが、商業ギルドの職員が薦めてきた店なので、とりあえず中に入る事にした。

 カランカラン。

 入口の扉には鈴が付いているようで、扉を開けるとそういう音が響いた。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 元気な声が響き渡る。

 声の主は、ちょっと変わった服装をしていた。メイドのような服だが、まずスカートが短い。基本的にメイド服はほとんど肌が露出しない。せいぜい暑い時期用に袖が短くなるくらいだ。足が見える事はまずないし、肩が見える事もない。だが、目の前の女性の服装は肩も足も露出していた。

「ふむ、変わった格好だな。とりあえず三人だ」

 目の前の女性の姿に少し感想を漏らしたヴァルラだったが、とりあえず何人か聞かれていたので答える。

「三名様ですね。では、席に案内致します」

 女性はそう言って、振り返ってヴァルラたちを席へと案内していた。この世界では珍しいシステムである。ほとんどの場合、勝手に入って、勝手に席に座って、適当に注文するものである。席に案内されるなど聞いた事がない。

 ヴァルラたちは案内された席に座る。窓際の席だったが、こういう飲食店での四角いテーブルも珍しい。居酒屋スタイルがメインで、カウンターと丸テーブルばかりで、席の間に仕切りがあるというのも初めて見る。

 ヴァルラたちを席に案内した女性は、一旦離れていくと水と何やら冊子を持って戻ってきた。

「こちらメニューの冊子でございます。こちらの水はサービスです。あと初めてだと分からないと思いますが、お会計は店を出る前に厨房前のカウンターで行いますのでよろしくお願いします」

「そういう仕組みの店なのか。ふむ、この冊子にメニューが載っているという事か。どれどれ……」

「お決まりになりましたら、お呼び下さい」

 ヴァルラが冊子をめくり始めると、女性はさっさと奥へと引っ込んでいった。

 冊子の中には、店のメニューが挿絵と説明付きで載っていた。値段も書いてある。それにしても、挿絵になっている料理はこれまでに見た事のない物も混ざっていた。なかなか独創的だとヴァルラは思った。

 確認できたところで、ヴァルラはキリーとホビィにもメニューを見せる。二人とも冊子に描かれた挿絵に興味を示しているようだった。これだけ細やかに描かれた挿絵というのは確かに珍しいものだし、世間に疎い二人が興味を強く示しても仕方のない事だろう。ヴァルラは錬金術を使う上で薬草の絵を描いたりしていたので、それほど珍しいとは思わなかっただけである。

「決まったかい?」

 ヴァルラが尋ねると、

「はい、決まりました」

「ホビィも決めました」

 二人とも元気に返事をした。無事に注文が決まった事で、

「ちょっとすまない」

 とヴァルラが厨房の前に立つ女性に声を掛けると、

「はい、すぐに伺います」

 女性がパタパタと駆け寄ってきた。女性に注文を伝えると、いそいそと手に持った板の上で何かを書いていた。

「それは何かな?」

「あ、はい。お客様からの注文をメモしているんです。これを厨房に渡す事で調理が始まりますので、出来上がりにはしばらくお時間を頂く事になりますのでご了承下さい」

「そうか、分かった」

 ヴァルラが納得すると、女性はメモを再開する。書き終えると注文の確認を取って、厨房の方へと走っていった。

 その姿を見送ったヴァルラは、キリーたちと話をしながら料理が運ばれてくるのを待った。

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