第48話 忘れていたお買い物
翌日、ヴァルラはキリーとホビィを連れて、スランクロース服飾店を訪れていた。というのも、ホビィの服を購入するためである。せっかくなじみの店があるのでお世話にならない手はないのだ。
「やぁ、ちょっといいかい?」
「あら、こんにちは、ヴァルラさん」
出迎えたのは、店のオーナーの娘のララだった。なじみになっているからなのか、”様”付けだったのが”さん”に変わっている。
「うわぁ、何ですか、そっちのもこもこは!」
ララはキリーの横に立つ、もこもこのウサギであるホビィにすぐに興味を示す。目立つとはいえ、用件の前に突っかかっていくあたり、ララの興味を引きすぎたようである。だが、ホビィにぐいぐいと近寄ろうとするララの前に、キリーが立ちふさがった。
「あの、ホビィの服を買いに来たんです」
両手を広げてララの前に立ったキリーは、キッと引き締まった顔をして用件を伝える。すると、ララは正気に戻って、
「あ、そうだったの。ごめんごめん、ふわふわのもこもこ、すごく好きだからつい」
謝りながら頭を自分でこつんと叩いて、てへぺろをやってのけていた。あざとい。
「このうさちゃん、ホビィって名前なのね。って、もしかして、キリーちゃんの頭に乗ってたうさちゃん?」
ララは何かに気が付いたようだ。名前とウサギという共通点から、すぐにキリーの頭に乗っていたホップラビットが浮かんだようである。
「実はそうなんだ。キリーの魔力を吸収して、このような姿になったようなんだ。それで、昨日は混乱してたから、改めて服を買いに来たというわけなんだ」
ララが首を傾げながら推理していたので、ヴァルラが答え合わせと用件をまとめて話す。それを聞いたララは、再び目を輝かせ始めた。どうやら、ララのスイッチが入ってしまったようである。
「よーし、なら任せて下さい。ホビィちゃんに似合う服を見立てて差し上げますわ」
胸に手を当て、ドヤ顔を決めてみせるララ。その姿にヴァルラすらも引いていた。キリーとホビィは怯えるほどであったが、ララの勢いは止まらなかった。
ホビィはウサギの体のままだったので、思ったより股下が短かった。なので、見立てられた服装はチュニックかワンピースだった。パンツスタイルは一つもない。あとは耳に合わせて穴が開けられた帽子をオーダーメイドする事になったくらいである。
「戦闘も行うって言われてたので、普段使いの可愛いもの以外にも動きやすて飾り気のないものも用意してみたんですよ。気に入ってもらえるといいんですけれど」
ララは両手を合わせながら上目遣いに言ってくる。キリーより少し年上くらいなせいで、あざとさ全開である。ヴァルラは額を押さえてため息を吐いている。
「ホビィ、試着しておいで。お金は昨日の分があるから気にしなくていいぞ」
「分かりましたなのです」
ホビィは服を抱えて試着室へと入っていく。
「キリー、手伝っておいで」
「はい、師匠」
ヴァルラに言われて、キリーも試着室へと入る。ホビィは初めて着る服ばかりだし、勝手が分からないだろう。ホビィはキリーをご主人様として慕うのだから、ホビィの面倒を見るのはキリーの役目である。だからこそ、キリーをホビィの手伝いへと向かわせたのだ。
二人が試着している間、ヴァルラはララといろいろと話をしていた。服の生地の話がメインである。時々数が増えて討伐依頼が出るホップラビットも、服の素材として使われるらしい。ただ、ほとんどがズタズタで困っていたのだが、少しばかり前にきれいな状態の物が入ってきて喜んだそうな。ちなみにこのきれいな状態の物はホビィを保護した時の物である。それを話したら、ララはヴァルラに頭を下げていた。というわけで、時々ギルド経由で指名依頼を入れる事になったのだった。
「師匠、お待たせしました」
「いい服なのです。ホビィ、気に入りました」
話がついたと同時に、キリーとホビィが試着から戻ってきた。その顔はまったくの笑顔であり、どうやら問題は無かったようだ。というわけで、見立てられた服は全部購入する事になった
「ご購入ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
ララは笑顔で頭を下げる。
「ああ、ここの服は本当に質も出来もいい。私も機会があったら買わせてもらおう」
ヴァルラがこう返すと、ララは顔を上げて「本当ですか?!」と目を輝かせていた。ヴァルラは美人でスタイルがいいので、これはこれで仕立て屋根性に火が付くというものである。ただ、ララの勢いが凄かったので、ヴァルラは顔を引きつらせた。これも長らく森に引っ込んでいたせいだろうか。
最後にララがホビィのもふもふを堪能すると、ヴァルラたちはスランクロース服飾店を後にするのだった。
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