第47話 純真ウサギ
ギルドの職員たちや冒険者たちに見送られて、ヴァルラたちは家へと戻る。そして、家に到着して最初にする事は、とにかくお風呂だった。
というのも、ホビィがオークとの戦闘と解体で泥だらけ血まみれなのである。さっさと落とさないと臭いが酷い事になるのだ。これは急務である。
というわけで、ヴァルラは真っ先にお風呂の支度をする。魔法を使えばすぐなので、その間にキリーに着替えを準備させておく。その着替えはキリーのために買ったおしゃれ着だ。てきぱきとホビィをお風呂に入れる準備が進んでいく。
お風呂の支度ができると、ホビィはキリーに任せてヴァルラは夕食の支度を始める。いつもの八百屋さんで買った野菜やら、自分ちの庭で採れた野菜とともに、オークの肉を炒めていく。煮物にもオークの肉を使う。ホビィはお肉を食べたがっていたので、こうなるのも仕方がない。獣人化すると味覚や好みが変わるのだろう。獣人と元となる動物とで食性が変わるという研究は、ヴァルラ自身も確認している事なのだから。
ヴァルラが料理をしている間、風呂場からはキリーとホビィが楽しくじゃれ合う声が響いていた。背丈で言えばほぼ同じだし、主従関係というよりは姉妹みたいなものだろう。それはとても楽しそうで、ヴァルラはついつい料理に力が入ってしまったようである。
「師匠、お風呂上がりました」
体から湯気を立ちのぼらせているキリーとホビィが食堂に現れた。まだ時間が早いので、キリーもメイド服を着ている。
「そうか。それじゃ冷めないうちに食べるとしようか」
「師匠の料理、しっかりと味わうのです」
ヴァルラが食事に誘うと、ホビィが目を輝かせて涎まで垂らしている。可愛らしいウサギの顔が台無しである。
食膳の挨拶を済ませると、ホビィが目の色を変えて食事にかぶりついている。ウサギなのに肉にもかぶりつく。口をもぐもぐさせてしっかりと味わい、飲み込んだと思ったらとても恍惚とした表情を浮かべている。
「はうぅ……、これがオーク肉。思っていた以上に美味なのです」
「今日のところは細かく切ってみたが、明日の夜はステーキにするぞ」
「ホントなのですか?!」
満足するホビィだったが、ヴァルラの言葉にすごく食いついた。
「ああ。それにしても生まれて間もないホップラビットなのに、オーク肉の事は知っていたんだな」
「はい。というか、この姿に進化した時にいろんな知識が流れてきたのです。オーク肉の事もその中に含まれていたのです」
ホビィの証言では、獣人化した時に知識が頭の中に流れてきたらしい。とはいえ、寝ている間だったのだから証言としては少し怪しい感じである。しかし、獣人化初日から何の問題もなく喋ったり動いたりできている以上、そう考えた方がつじつまが合う。
「そうか。それで確認するが、ホビィはその姿になれてよかったと思うかい?」
ヴァルラはちょっと意地悪になってみた。ところが、
「はい、ご主人様とこうやってお話しできるようになって、ホビィはとても嬉しいのです」
満面の笑みで回答が返ってきた。屈託のない笑顔、きらきらと輝く瞳。そこには嘘偽りはまったく存在していなかった。ホビィのストレートな発言に、横ではキリーが顔を赤くしながら、ちびちびと料理を食べていた。
「そうかそうか。ホビィは本当にキリーの事が好きなんだな」
「はい、大好きなのです!」
ヴァルラが冗談交じりに言うと、間髪入れずにホビィが全肯定した。これにはヴァルラが思いっきり吹き出しそうになった。
「ごほっごほっ……」
「し、師匠、大丈夫ですか?」
「なに、ちょっと驚いただけだ。心配ない」
むせるヴァルラを、キリーが心配していた。その様子をホビィは首を傾げて見ていた。
こうして、ホップラビットのホビィが獣人化した初日は、慌ただしく過ぎていったのだった。
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