第46話 美少女ともふもふウサギ

「というわけで、ホビィさんは無事に銅級冒険者に認定されました」

「やったのです!」

 カンナから銅級冒険者を示すカードを受け取って、ホビィは嬉しそうにはしゃいでいる。周りの冒険者たちは呆然としながらも、惜しみない拍手を送っていた。

「魔物が冒険者登録する例は記録には無いと思います。ただ、獣人が冒険者をしている例は多いですから、ホビィさんの状態はどう見たらいいのか分かりませんね」

「一応、今の種族名は獣人に分類されるからな」

 カンナもヴァルラも、ちょっと扱いに困っているようだった。

「ご主人様、ホビィもご主人様と同じ銅級ですよ。これからもご主人様のために、ホビィは張り切っちゃうのです!」

「う、うん、おめでとうホビィ」

 ホビィの勢いに、キリーは完全に押されてしまっていた。

「それで、オークの素材の査定ですが、金額はこちらになります」

 カンナがすっと差し出してきたトレイには、金貨がずっしりと置かれていた。

「状態がとても良いですし、一体を除いてすべて解体済みなので、解体手数料もその分だけでしたからね。お持ち帰りになるオーク肉の分を除いて、全部で金貨210枚となります」

 カンナが査定結果を告げた後、しばらくの間があってから、周りの冒険者たちが一気に騒ぎ出した。

「うおお、すげぇ!」

「あんだけありゃどれだけ遊んで暮らせるんだ?」

「ホビィちゃん、すごい!」

 それはもうお祭り騒ぎである。

 無理もない話だ。よっぽどの依頼でないと報酬が金貨で支払われる事はないし、あっても数枚程度。買取が金貨になる魔物はそれなりに危険度が高いし、素材を傷めないようにしなければならないからだ。

 しかし、今日の朝に獣人化したばかりのホビィが、その繊細な仕事をやってのけたのだから大したものである。風魔法と魔力の短剣が使えるとはいえ、さすがに獣人には細かすぎる仕事のはずである。となれば、そのホビィに影響を与えたキリーが、同等以上の技術を持っている事は間違いないだろう。

 だが、今はホビィが完全に目立ってしまっている。なので、キリーは一歩引いて少し寂しそうな表情をしていた。

「キリー、気にするな。オーク11体ともなれば、ホビィ一人だと危なかったと思うぞ。キリーが気を引いたり動きを阻害したからこそ、ホビィも無傷だったんだ」

 そっと手を頭に添えながら、ヴァルラはキリーを褒める。すると、ヴァルラに褒められた事で、キリーの表情はすっかり緩んでしまっていた。

「ご主人様、ずるーい。ホビィも撫で撫でしてもらうのです!」

 ホビィはぴょんと飛ぶと、キリーにダイブする。キリーは驚きはしたものの、無事にホビィを受け止める。

「ははっ、ホビィは私よりも、キリーに撫でてもらった方がいいのではないかな?」

「そうなのです。ホビィはご主人様のために頑張るのですから、頑張ったらご主人様に撫でてもらいたいのです」

 ホビィが潤むような瞳でキリーを見てくるので、キリーは戸惑いながらもホビィの頭を撫でている。すると、ホビィは満足して嬉しそうにおとなしく頭を撫でられていた。

「てえてぇ……」

「ここは楽園か」

 美少女とウサギの戯れる姿に、すっかり冒険者たちはメロメロになっていた。

「さて、忘れないうちにこれは引き取っておくよ」

 冒険者たちの視線がキリーとホビィに集中している間に、ヴァルラはオークの買い取り金を回収しておいた。

「一応、他の冒険者たちの分を取り過ぎないように注意しておくよ。あの調子なら、二人でここら辺りの魔物を殲滅してしまいかねない」

 ヴァルラはカンナに話し掛ける。

「そうですね……。そうして頂けると助かります。魔物は被害をもたらしますが、居なくなってしまうと仕事がなくなってしまいますからね。難しいところです」

 カンナはため息をつきながらではあるが、ヴァルラの申し入れに感謝していた。

 こうして、スランの街にまた一人強力な冒険者が誕生した。そして、美少女ともふもふウサギのコンビの噂は、瞬く間に街中へと広がっていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る