第45話 万能ウサギ

「いやぁ、これほどまでとはな……」

 魔法を使っていたキリーよりもさらに後ろに居たヴァルラが驚いてホビィを見ている。なにせ、10体ほど居たオークの群れを、キリーの補助があったとはいえ一人(1匹?)で撃退してみせたのだから。しかも、オークの頑丈な首をへし折るほど強烈な蹴り。よくマスールは気絶だけで済んだものだ……。

「今夜はお・に・く、今夜はお・に・く♪」

 ホビィが鼻歌を歌いながらオークの解体を始めていた。というか、このホップラビット、解体技術まで身に付けていたのか。ホビィは元々草食のホップラビットなのに、なぜこんなに肉にうきうきしているのかも謎である。

「師匠のおかげで、解体スキルを身に付けたのです」

 近付いてきたヴァルラに気が付いたホビィは、振り返って笑顔でそんな事を言っていた。

 魔物が獣人化しただけでも驚きだが、その際に周りからもスキルを吸収しているとはさらに驚きだった。ホビィが見た解体自体は、ヴァルラがゴブリンを倒した時くらいだが、あれはとても解体と呼べるものではなかった。なにせ耳を切り取って焼き払っただけだからだ。

(うーむ、ホビィは深く観察する必要がありそうだな。こんな魔物は実に見た事が無い)

 ノリノリで解体していくホビィを見ながら、ヴァルラはそう考えていた。

 こうしてオークの解体を終えたホビィは、キリーとも合流してスランの街へと戻っていった。


 スランの街へ戻ると、一目散に冒険者ギルドへ駆け込んだ。

「戻ったぞ」

 ギルドへ入るなり、ヴァルラは発言する。この声に、カンナが真っ先に反応した。

「ああ、ヴァルラさんたち。ご無事だったのですね」

「ああ、見ての通りピンピンしておるよ。とは言っても、私は何もしてないんだがね」

 泣きそうな顔をしているカンナに、ヴァルラはキリーとホビィの方を見ながら話している。

「ほえ?」

 素っ頓狂な声を出すカンナ。

「ほら、キリー、ホビィ、受付に行くぞ」

「はい、師匠」

「はいなのです」

 というわけで、三人はカンナの座る受付へとやって来た。

「街道付近のオークは全部で11体だった。三人で魔物感知を使ってみたが、近くには確認できなかったので、これで全部だろう」

「な、なんて数なの。これは早速討伐隊を……」

 数を聞いたカンナは慌てて紙とペンを引っ張り出す。だが、それをヴァルラは止める。

「いや、全部討伐が終わったから。なぁ二人とも」

 ヴァルラが振り向くと、キリーは首を縦に振り、ホビィは踏ん反り返っていた。

「ここで言っても仕方ないから、裏の解体所へ移動しようか」

「あ、はい。すぐに案内します」

 カンナが席を立つと、ギルド内が騒然となった。そして、解体所へ案内されるヴァルラたちに付いて、野次馬たちが移動を始めた。

 解体所の一つは何もない状態だった。討伐数は知れているので、使われない場所というのは存在しているらしい。

「ここでしたら、多少の量があっても大丈夫ですので、出して頂けますか?」

 カンナの言葉に、ヴァルラがキリーに合図を送る。キリーは頷くと、収納魔法にしまい込んだオークを全部取り出していく。

 どさどさときれいに解体されたオークが並んでいく。その様子に、カンナはもちろん、野次馬たちも口を開けて固まってしまった。

「全部ホビィが解体したのです」

 ホビィが言うと一斉に視線が向く。嘘かと思った野次馬だったが、ホビィの服が血で汚れているのに気が付いて黙り込んでしまった。

「ホビィの服の汚れは、全部解体の時に付いたものなのですよ」

 目を細めてドヤ顔を決めるホビィ。その表情に野次馬たちは背筋が凍り付いた。可愛い外見からは想像もつかない凶悪さに、思わず後ずさってしまう。

「ご主人様が行動を阻害してくれましたから、とっても楽に仕留められたのです」

 うきうきに語るホビィ。だが、カンナは神妙な面持ちをして考え込んでいた。

「失礼ですが、オーク本体はございますか? 解体された物ばかりだと何とも言い難いので」

「はいなのです。ご主人様」

 カンナが疑わしく思っていたらしく、証拠を出すように迫ってきた。そこで、ホビィは小躍りしながらもキリーの方へ振り向くと、キリーは無言で頷いてオークを取り出した。

 ズゥンと音を立てて地面に置かれたオークは、最後にホビィが蹴り倒したオークだった。首があらぬ方向に曲がっているので、その蹴りの威力を証明するには十分だった。

「どうやったら、こんな風になるんですか……」

「どうやってって、普通に蹴り飛ばしただけなのですよ」

 目の前のオークを見ながらカンナがホビィに言うと、ホビィはあっけらかんと答えを返す。

「ええ……」

 これにはさすがにカンナも野次馬もドン引きしていた。

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