第44話 大地駆けるホビィ

 早速、オークの目撃証言があった地点へとやって来たヴァルラたち。

「そう言えば、ホビィ」

「なんですの、師匠」

「いや、お前さんも師匠呼びかい。じゃなくて、お前さん、武器は?」

 思い出したようにヴァルラが尋ねたのは、キリーならともかくホビィも手ぶらだったからだ。魔物討伐だというのに武器が無いのは問題である。ホビィの能力が分からなかったので、とりあえず確認である。

「ホビィの武器はこの脚と……、これなのです」

 ホビィが両手をクロスさせると、両手には魔力でできた短剣が握られていた。どうやらキリーと同じ能力のようである。真似をしたのか、魔力の流れからコピーしたのかは分からないが、キリーを慕っているのはいい事だ。

 あと、蹴りが得意というのは、ホップラビットならではといったところだろう。ホップラビットの子どもという小さな体躯だった時ですら、大の大人を一撃で沈める蹴りだ。人間サイズなら相当に威力が出ると思われる。

「さて、私は見物させてもらうから、二人でやってみるといい」

「はい、師匠」

「はいなのです」

 ヴァルラは二人に呼び掛けつつ、魔物感知を使う。辺りにはオークが10体ほど居るようだ。警戒が緩んでいるのか、敵意を示す赤色の表示が少しだけ薄い。

「少し数が多いのです。ただ、魔法とか弓を使うような個体は居ないのです」

 そう話すのはホビィだ。ホビィも魔物感知を使えるようだ。やはり、魔力共有の影響だろうか。

「そうですね。魔物とはいえ殺しちゃうのは気が引けるけど、やるしかないんですよね、師匠」

「うむ。奴らは動くものを襲う習性があるから、いずれ衝突は避けられん。ホビィのようなタイプの魔物は珍しいと思っておくといい」

 キリーから確認を求められたヴァルラは、現実問題としてそう答えた。その答えに、キリーはちょっと暗い顔をした。しかし、

「分かりました。僕も覚悟を決めます」

 そう言って顔を上げた。その表情は、確かに決意をした顔だった。

「行くよ、ホビィ!」

「はいなの、ご主人様!」

 魔物感知で位置を把握しながら、キリーは魔法を撃ち込む。相手の居る場所が森の中なので、火の魔法を使えない。使ったのは氷魔法のイーチェだ。

 キリーが放った氷の矢が、オークの群れに襲い掛かる。

「グオォォッ?!」

 驚いたオークたちが森の中から駆け出てくる。

「ふっふー、行くなのですよ!」

 ホビィが駆け出す。二足歩行になったばかりなのに、その駆ける姿はとても軽やかだ。

「それっ、なのです!」

 軽快に飛び上がり、先頭のオークを蹴り飛ばす。ワンピースだがそんな事はお構いなしだ。蹴り飛ばされたオークは痙攣けいれんしながら気絶している。その姿を見た残りのオークたちは、どこからともなく棍棒を取り出して身構えた。

「やるのです? ホビィを捉えられるならやってみるのです!」

 ぴょんぴょんと駆け回るホビィ。いや、昨日まで四足歩行だったとは思えない動きだ。完全にオークを手玉に取っている。

 しかし、ホビィに振り回されるオークたちに、更なる不幸が舞い降りる。

「グオッ?!」

 ホビィに振り回されて無防備になったところに、キリーの魔法が飛んできているのだ。肩を狙うように大きな石礫いしつぶてが落ちてくる。だが、さすがに無駄に肉の厚いオークにはあまりダメージが通っていないようだ。

 キリーに気が付いたオークが振り返ってキリーを狙う。が、そのオークはその場から動けずに倒れこんだ。なぜなら、石礫はただの目くらまし。その足には蔦が絡まっていたのだから。

 こうなると完全にワンサイドゲームだ。

「今夜はオーク肉なのです!」

 ホビィがなんか怖い事を言いながら、オークたちに襲い掛かる。

「ご主人様は優しいから、代わりにホビィが汚れ役を買うのですよ!」

 ホビィは魔力の刃を生み出し、オークの首を貫いていく。まだ自由に動けるオークは居たが、ホビィの動きの方が早い。ホビィの蹴りがオークの顔面を捉えていた。

「グ……ガ……」

 ボキッと首の骨が折れる音が響く。こうして、あっという間にオークの群れは撃退されてしまった。

「討伐完了なのですよっ!」

 ズゥンとオークの倒れる音が響き渡り、ホビィは満面の笑みを浮かべていた。

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