キリーとホビィの大冒険

第42話 ホビィが立った!

 それはある日の事だった。

「し、師匠ーっ!」

「どうしたキリー?!」

 部屋でキリーが叫ぶ声がしたので、ヴァルラが勢いよくドアを開けて部屋に入る。するとそこに居たのは……。

「すぴーすぴー、キュイキュイ……」

 寝息を立てている大きなウサギだった。

「これは、ホビィか?」

 ヴァルラが鑑定魔法で調べてみる。

「……やっぱりホビィだな。獣人化してるようだ」

「ええっ?!」

 ヴァルラの言葉に、キリーは大声で驚いている。

「むにゃむにゃ、ご主人様の魔力、おいしいのです……」

 ホビィと思われる大ウサギは寝言を言っていて、まだ夢心地のようだった。


 朝ご飯の食卓。

 いつもならヴァルラとキリーの二人に、テーブルの端でホビィが座っているはずだったのだが、急遽用意した椅子に獣人化したホビィが座っている。

「いやぁ、ご主人様が好きすぎてこんな事になるなんて、思ってもみなかったのです」

 あっけらかんと笑っているホビィだったが、ヴァルラとキリーの表情は、まさに信じられないものを見ている顔だった。

「多分、おそらく、キリーから流れる魔力が多すぎて、ホビィの進化を促したんじゃないかと思う。ホビィはキリーを好いていたようだし、役に立ちたいとも思ってたみたいだからな。その気持ちがゆえにこんな事になったんだと思うぞ」

 キリーと体格が近い事もあってか、ホビィにはキリーの服をとりあえず着せておいた。二足歩行になったホビィはキリーとほぼ同じ体躯で、見た目は本当にウサギである。

「魔物が獣人化する事は、私の知る限り、文献でしか見た事が無い。実に稀有な現象だぞ」

 鑑定魔法で色々と分かった事だが、ホビィは女の子だった。ホップラビットの敏捷性のせいか、風魔法に適性があるようだ。それ以外にもキリーの役に立ちたいとあってか、前衛職への適性があり、植物に関しては博識、それと毒無効のスキルを所持していた。あと、全身が毛むくじゃらで触り心地がよさそうだった。

 ちなみにホビィの手足はウサギの足そのものではあったが、スプーンなどはちゃんと扱えている。そのおかげか朝食もまったく苦にする事なく平らげていた。

「うーむ、一応今日の依頼を受けに冒険者ギルドに行くが、ホビィも冒険者登録をしてしまおう。キリーはまだ討伐を苦手にしているが、ホビィの戦闘能力を確認してみたい」

「あっ、僕は別に構いませんよ。いつまでも苦手でいるわけにはいきませんから」

「わあい、ご主人様とお出かけなのです!」

 ヴァルラの呼びかけに、意外にもキリーも強く頷いた。ヴァルラの助手を務めるのなら、いつまでも避けてはいられないと決意したようだった。

 というわけで、ヴァルラたちは早速冒険者ギルドへと出向いた。

 道中では道行く人がじろじろと見てくる。

「ふむ、やはりかなり視線を向けられるな」

 さすがに人間サイズのすらりとしたウサギは目立つようだ。この世界には獣人自体は存在しているのだが、ほぼ骨格が人間に近いタイプだ。ホビィのような動物そのものが二足歩行化したタイプは、まず見かける事はない。奇異の目を向けられるのは仕方のない事だった。キリーは以前の事もあって目を気にしているところはあるが、ホビィはまったく気にしてなくてキリーと並んで歩いているのが楽しそうだった。特に突っかかってくる人間も居ないようなので、ヴァルラも特に気にせず冒険者ギルドへ急いだ。

「すまない、コターンは居るか?」

 冒険者ギルドに着くなり、ヴァルラは受付にそう言い放つ。周りを見てもカンナが居ないようなのでこの対応となった。

「コターン……、ギルドマスターでございますか?! しょ、少々お待ち下さい」

 ヴァルラに声を掛けられた受付は、慌てて裏へと駆け込んでいく。忙しいものである。

 しばらくして受付が戻ってくると、

「お待たせしました。奥でお話を伺われるとの事ですので、どうぞ奥へお進み下さい」

 こう言って、ヴァルラたちはまた奥へと通される事になった。

 この時、ギルドの中ではいろいろ声が飛び交っており、その多くはキリーの頭の上にいつも居るウサギが居ない事や、見慣れない二足歩行のウサギが居る事に関するものだった。

 そうやってギルドの中が騒めく中、ヴァルラたちは奥へと進んでいった。

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