第11話 広瀬家の災難

 夕方。盛大に鐘がなり、町の防災放送が騒ぎ出す。


 家から出て山の方を見ると、火事なのかオレンジ色に空が染まっていた。

 爺さんが、

「ありゃ。小渕か?」

 とぼやく。


「ちょっと電話してみる」

 そう言って、広瀬家に電話するがつながらない。


「電話がつながらないから行ってくる」

 爺さんに伝えて、自転車を引っ張り出す。

「気をつけろよ」

 爺さんもそう言ってくれて、慌てていたのか、足に力を入れると自転車のチェーンが切れた。

「なんだよもう」

 俺はそう言って走り出す。


「この前、力は見せてもらったが、自転車のチェーンが完全にちぎれているな。どれ修理しておくか」

 そう言って爺さんは、驚異のスピードで道ではなく真っ直ぐ田畑を飛び越えていく孫の姿を見送る。


 物置から 1/2×1/8 電動専用と書かれたチェーンとチェーンカッターそれに自転車メンテナンス用のK〇Cの自転車用チェストタイプマルチツールを持ってくる。

「チェーンは強化品なんじゃが、耐えられんとはなあ」

 チェーンのアウタープレートが、ゆがんでいる。

「どれ、ハンドルステムはこの前折れたからステンレスの強化品だし大丈夫だろう。スプロケットとクランクアームは歪んでないか? しかし自転車としてはおかしなことに、どんどん重くなっていくなあ」

 そう言ってライトを引っ張り出してきて、本格的にばらし始めた。

 ベアリンググリースまで持ち出して、もう止まらない。




 その頃、俺はすでに小渕の集落へと来ていた。

 はぐれオーガが残っていたのかと思ったが、どこかで湧いたらしい。

「ちょうど夕方で、この時間は風呂を焚いていたのか」

 田舎では、薪と灯油バーナーの併用が多い。

 風呂釜を壊されると、近くに積んである薪に燃え移ることが考えられる。


 うろうろしている、モンスター達をせん滅しながら、まだ来ていない消防の代わりに水を燃えている家へとぶち込んでいく。


 広瀬家の人たちも、ほかの家の人と塊になって昇鎌や鉈で応戦しながら、モンスターから逃げていた。

「大丈夫ですか?」

 声を掛けながら、周りのゴブリンたちを雷撃で一掃する。


「山瀬君、来てくれたのか」

 そう言って、紗莉のお父さん。淳(あつし)さんが迎えてくれる。


 この辺りでも俺の悪名は轟いているが、元々家のじいさんと、ここのじいさん釣り仲間。思うことはあっても無下にはされない。


「この周り。とりあえず殲滅と、家の火を消します」

 そう言って、俺は燃えている家に水を掛けながら、周辺にいる奴らを退治していく。


 湧いていた穴も特定して、雷撃を食らわしておく。



 5分いや、10分くらいはかかったかもしれない。

 落ち着きを取り戻したところで、

「火を消すのに水をかけてしまいましたが、確認をお願いします。この辺りにもうモンスターの反応はありません」

 俺がそう言うと、集落の人が散らばっていく。


「いや初めて見たがすごいね。さっきの魔法かい?」

 あーつい使ってしまった。

「ええまあ。内緒と言うことでお願いします」

 そう言って苦笑いする。

 淳さんが見たと言うことは、周りの人も見たと言うことだ。



 被害状況を見ると、湧いた穴に近い広瀬家が被害が大きく、ほかの家は、風呂だけとか、離れの小屋だけという感じだった。


 そうなんだよ。

 田舎の場合、火を使う風呂場は、母屋から離れているから、冬場や大雨の時に風呂へ行くのは嫌だが、火事の時には被害が少ない。


 遠慮して水を撃ち込んだため、消えていないところがあり、呼ばれて消火した。

 落ち着いた頃。消防がやって来たが、現場検証? 火災調査(かさいちょうさ)をするということで火を消した俺も話をする羽目となった。


 その中で、当然のようにどうやって消したの? と言われて水魔法の再現をすることとなり、もうね、秘密なんて言っていられない事となった。

 まあ、噂として快楽殺人鬼からひどくはならないだろう。

 あまりひどければ、かっこいい名前を考えて、自分で名乗ろうかとも、ふと考えた。


 まあいいや、その時はその時だ。


 家が半焼した広瀬の母屋にビニールシートをかぶせて、少々雨が降っても大丈夫なように保護をするのを手伝う。


 そんなことをしていたら、父さんが様子を見に来た。

「ありゃあ、広瀬さん災難ですね」

「ああこりゃどうも。だけど息子さんが助けてくれて、これだけで済みました。ありがとうございます」

 そんな声が聞こえる。


「しかしこれ、結構燃えているから使える部屋があっても危ないですよ」

「そうだなあ、通しが2本燃えたから梁がやばい。筋交いと壁だけで支えている感じだよな。明るくなったらプレートを打つか、下手に手を出さず、支えだけして頼むか」

「まあ明るくなってからの話ですね。必要なものを持って、家に来ますか?」

「あんたの所? ああそういえば、上と下。2軒あったな」

「ええ狭いですが、この家を直すと言ってもしばらく掛かるでしょうし、我慢していただけるならお貸ししますよ。ちょっと待ってください」

 そう言って、父親は家に電話しているようだ。


「うちは大丈夫ですって。どうされます?」

「じゃあ、世話になろうか」

 そう聞くと、広瀬家のみんな、問題が無いようだ。


「そうと決まれば、荷造りと作りかけのおかずをまとめるわ」

 そう言って広瀬のお母さんも家の中へと飛び込む。

 俺と父さん、広瀬のおじいさんは、悩んだ末、梁や柱を見ながら支えを入れていく。

 丸太は、焚きもの用があるため、長さを決めて切り取ると軽く叩き込んでいく。


「まあ、こんなものやろう」

 そう言って作業が終わり、車に分乗してわが家へのホームステイ? 同居が始まった。

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