第76話 合流《クロス》至徒排除戦(リジェクション)その4

「雄一君やるー☆こっちも戦いたいところだけど…」

「全く何もしませんね彼女…」


鎮座ましますゴシック服のぬいぐるみを持っている異世界側にしては現代風な格好をしている彼女もう一人の至徒の力は未知数だ。人類側は彼女の特性が身代わりと反射ということをまだ知らない。工藤が戦った相手ではあるが(?)攻撃の手を見せるまでにリミットが着て撤退を余儀なくされたので実力のほどは分からないのが実情だ。そして


(警戒して…攻撃…まだ…反射できない)


強力な反射能力を持つために彼女自身は攻撃力が皆無だ

相手が攻撃を仕掛けるまで何もできないのが実情で

工藤との戦い(?)で攻撃を跳ね返す機会がなかったのは采配ミスということになる。結果論であるが敵側に能力を知られることなく警戒され戦力を割くことに成功し配置の至徒に感謝しなければならないのは業腹であるが


(私、攻撃…できない…し)


************


互いの攻撃予測、都合10手を潰し20手先を往く────!

叩き出した予測演算を基に攻撃を図り切り結ぶのは都度130

刃音散らし大剣と影の攻防は白熱し伯仲している

相手の攻撃を予測しその一手を互いにつぶし合いそれが攻撃として成立している

例えば刺突攻撃が来るのなら刺突前に攻撃を放つ。だがその刺突を阻害する攻撃を相手は予知し阻害した攻撃に対して往なす攻撃を仕掛けている

前進しているが遡行している奇妙な戦い。

沿革を成し戦いが内側を向いて現れているようで

さながら弧を描いて中心へ向かっていく回転だ。

相手の攻撃の前へ前へ更に前へ…!!潰す為の一手をさらに潰し戦いの向きが逆行している。故にそれに収束はすれど終息点はない。両者拮抗していなければ成立しない事象。無為であり決着がつかぬ為互いに一歩引いて雄一は肩で呼吸をする


「…ッ。心眼が効かねえ…!!」


まるで呼吸のあったダンスのようで合わせているのではなく互いに合わせることを強要し成した業である。それは雄一とカージテッドが互角であることを意味し

何よりそれは…


「遊んでんのかテメエッッ!!!」


手心を加えられている証左である。

雄一の魔素洞調律シンクロニシティをフルに使ったところでカージテッドの足元を往くはずがない。それを証明しているのが笠井に敗北である

雄一にはどういった戦いなのかはわからない。

たとえ相性によって負けたとしても今の雄一がカージテッドに肉薄している理由にはならない。

それを三味線を弾いている以外なんと形容するべきか


『そりゃそうだよ。僕たちは遊びに来たんだから』


「ッ!!」


そのごんに偽りはないだろう。絶対強者として君臨し弱者である人間をいたぶるために向こうの世界からやってきた。というのは理にかなっていてなお質が悪い

わかってはいた事実ではあるが言葉にされればその意味は盤石になる

もし仮に人間掃討が目的ならば

すでに達成していなければおかしい彼我の差


『いやーしかし強くなったね雄一君?

ワークホリットに全力出させたってのは嘘じゃないみたいだね』


「俺だけの力じゃねえよ」


『だろうね。聞いたところによると苦汁を舐めさせられたのか

そこの彼らしい。

でもまあ僕には関係ないし興味がない』


号生に一瞥するも歯牙にかかってないようにすぐに視線を戻した

彼にとって屈辱的で腹立たしいがそれを表に出すことはない

笠井を屠った影の至徒。侮れず確実に討滅しなければならない相手

仇討あだうちなど考えていない。笠井は生きている為その表現は適切ではない。あるのは単純に


(マジに強ェなコイツ…!!)


武者震いと寒気で震えているだけ。どちらともつかない感覚が総身を奮い興奮に代わっているだけだ

先ほどから雄一が吶喊し号生も弓野も助勢に入っていない。その隙が無いのもあるが攻撃を観察しパターンを読むことに転じていたからだ


(ヤな相手だ。オレと同じ手数が多いタイプ

相性が不利だぜ…!)


逆に弓野は冷静であり同時に好戦的にはなれず手をこまねいている様子だ

魔法の類が効かないのは直感的に真実だと見抜き

故に練気アギトの使用もまごついてしまう


魔法破壊の練気は相手が魔法を用いなければ前提として成り立たない練華ヴァリアブルである

雄一との戦闘の中、炎と氷の魔法を用いていたが弓野の見たところ魔法の勝手が違うと理解。


あれは魔法ではなくスキルにようなものを用いたモドキと目測し

魔法を駆使せずそのような芸当が行えるなら練華を用いたとき空振りになる

その結果がわかってしまったからこその逡巡である。

下手に動けば邪魔になり勝機を見失う。それだけは避けたい

だからこそ弓野が起こせる行動はひとつ。もう一人の至徒との戦い


加勢は不要と断じ弓野が行動を移したと同時に

号生が動き互いに交差する。互いに一瞥も視線は交わさない


(下手打つなよ砂利っこ…!)

(はっ!つまんねえ戦いすんなよ女ぁ!!)


互いに想う心はひとつ、おもんぱかりではない

それぞれの矜持を持って戦いに挑み勝利を勝ち取ること

おのが最適解を信じ、それぞれの立ち位置につくことだけだ…



*******


「よう、苦戦してるようだなぁ…!」


決定打がない今にらみ合いしかできない時に号生が現れた

いいタイミングだ。助け船が欲しいところだった


「まあね。俺じゃ倒せないと思ってたところだよ」


「なっさけねえな。男なら不利でも強がってみせろよ」


「そうしたいけど今回ばっかはね…」


苦戦を強いられる戦いは今日が初めてじゃない

ピンチを笑っていられるほどの余裕が今回はなさそうだ

平静を装ってはいるがカージテッドともども双方意識を緩めていない

結局奴とは切り結び合ったところで打開策はなく俺は手詰まりで

あいつは余裕しゃくしゃくだ。腹正しい事この上ない


『あー来たんだキミ。まあ別にいいか

雄一君の潜在能力を引き出す起爆剤になりそうだし』


「あ?なんつった今?テメエコラ…

俺を利用材料かよぶっ殺すぞ…!!」


『だってそうだろう…君底が知れてんだもん

興味持つのが難しいよ』


ぶちりと。青筋が切れる音が聞こえた気がした

聞こえなくともこの怒気がはちきれんほど膨張しているさまを見れば

カージテッドが号生のトラの尾を踏んだことは明白だ

指の関節をゴキゴキ鳴らしながら眦開いている号生は殺意を奴にたたきつけ


「いいぜェ、いいねぇ…言ってくれるじゃねえかテメエ…!!

今すぐ殺してくださいって説明を懇切丁寧に言ってくれるとはわかってるじゃねえか

いい度胸だ買ってやるぞオイ…ッッッ!!」


『はー、そう。よかったね

まあ掛かってきなよ。相手してやるから』


興味なさげに上に手を招いて挑発するその一挙一動が号生の癇に障り憤激をもたらす

練気が練られる。号生の周囲に波動がほとばしり電撃の様に火花を散らして

その輝きはまるで雷霆のようでと言われたら怒られると思うが

だが確かに笠井の面影を写すような力の顕現を目の当たりにしている


「使うのはためらってたけどよ…喜べよ影野郎…

てめえが最初の実験台断だ…!!

赤手百腕の能断ヘカトンケイル』の最初の犠牲になってもらうぜ…!!」


両てのひらが残像を纏い無数に展開される

腕のない部分にすら腕の残像が現れてさながら千手観音めいている

両手の動きはまるで後光の様に蓮の花がつぼみから花開くように左右に展開

両手が親指と人差し指で輪を作る姿勢は『説法印』と呼ばれていて仏様の構えであり

所作が終わったと同時に


9の斬撃がどこからともなく放たれその軌道は見えず

一撃一撃が必殺の威力を持ちカージテッドの影がいつの間にかズタズタに引き裂かれていた


『あ?』


突如起こったことに俺もあいつも思考が追い付かない

何が起こった?


号生が黄金の一撃を放つ所作めいたものを終わらせたと思えば

攻撃が予兆もなく放たれていた


影は一瞬で散り散りになり霧散していく。その攻撃は必殺級の威力を持っていることが示される


故に起こった事象は明確だ。无撃必殺の零斬ゼロスタイルと黄金の一撃を混成し放ったのだ


そのことに驚きはない。有していた業なのだから組み合わせることもできる

そして先ほどの事象がその二つの組み合わせであることもわかっている

驚くべきはそこではなく。思考が一瞬止まったのもそれが要因ではない


カージテッドも雄一も同じことが脳裏によぎった

滝のような汗を流し喘鳴ぜんめいし前のめりに倒れそうになる号生は呼吸困難に陥っている。それほどの威力。それほどの技。


(一朝一夕で繰り出せるものじゃない…何を代償にした…??)


(号生…あんな技を使って大丈夫なのか…!!)


吃驚している二人に不敵に笑い、一矢報いてやったと号生の口角が上がる

そう、問題は何を代償にこの技を引き起こせたかという事実だ

疲労困憊はもちろんのこと自身にとって大切な何かを失う覚悟とリスクがなければ

一長一短である練気は引き出せるはずがない


斬撃過程を消し切ったという結果を残す无撃必殺の零斬ゼロスタイル

黄金の一撃を複数回起こすのは至難の業どころではない。


前に戦った時に黄金の一撃を繰り出すための予備動作プリショットルーティン

複数の技の型を放棄することで放つ无撃必殺の零斬ゼロスタイルは例えるなら陰と陽だ。


決して混じり合うことのない対局の技故に合わせれば無敵の攻撃と化する。

だからこそありえない組み合わせなのだ。


いかなるモノにも限度はある。その限度を超えるには何かを引いて伸ばすしかない

身の丈に合わない故に身を滅ぼす絶技だ。両手が不随になったところでおつりがくる。

何を代償にその技を…?そう二人が問いかける前に、号生は言い放つ

何を犠牲にしたか、だと…?そんなもの言うまでもない


「まさか、何かリスクを背負っただとか思ってんじゃねえのか?

違うね。俺の武技に弱点はない。培ったものが裏切ることはない…!!」


『!??』


「マジかよ…」


と断じた。虚勢でも嘘でも何でもない。当然の事実と結果である。

これは基礎の基礎を究極まで振り絞り練り上げた技であり号生の修練の賜物。努力を怠らず研鑽を積み重ねてきた号生の総決算にして集大成。力にかける願いを総てなげうった男の証左。究極にして完全。一切の傷のない勝鬨号生の全霊の極致に他ならない


「さて、呼吸も整った。エネルギーも上々

なめ腐った分叩き込んでやるから覚悟しなクソ影」


さしものカージテッドもたじろぎ冷や汗を一筋たらす

前言は撤回しよう。有象無象ではなく

ワークホリットの言う通り倒すべき相手の一人と見定めた

奮える。おこりではない

奮える。恐怖ではない

奮える。今までにないほどに─────殺し甲斐がある!!!!


期待させてくれる相手に感謝をしカージテッドは喜悦に笑う

雄一だけではない。この勝鬨号生もまた好敵手なりうる素養を持っている

だからこそ敬意を払い。保険で連れてきたミアリガルドの存在を度外視し

勝算も打算も一切抜きでただ楽しむためにカージテッドは


『ならこっちも、…本気で行こう』


おちゃらけた声が一転して真剣になる。遊びは終わりだ。そう告げている

散り散りになった影は即回復し戻りカージテッドの周囲の影が悪魔の虚像に収束し身に纏う。これが。カージテッドの本気の戦闘態勢

影の鎧を身にまとうそれは漆黒の騎士を思わせる

魔素洞調律シンクロニシティ超絶過負荷加重加速オーバードライヴ

最初からフルスロットルで挑みそれでも焼け石に水程度の差がある

赤手百腕の能断ヘカトンケイルも絶大な力を有している

だが、それでも奴の重圧が俺たちでは勝てないと圧倒的な差を見せつけられている

だから…俄然やる気が出るのは阿呆なのだろう


「さあ、ぶっちぎって…」


『来いよ雄一、号生。これを見せる栄誉に浴しながら果てろ』


「死に腐れごみ屑野郎!!!!!!!!!!!」


互いに気炎を上げながら特攻。勝負の行方は分からない

だがこの先にあるのは男の戦いであることは間違いない

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