第34話 出撃と少年と後始末

「そんなもん敵陣強襲に決まっておろうがっ!!」


 俺の足をガシガシと蹴りながらリーネは提案する。

俺としては状況を知りたかったのだが敵の方が一手打つのが早いようだ。

このままでは先ほどの少年やシスターに危害が加わるかもしれない。


「その手が一番かなぁ」


 俺は黒曜の頭を撫でる。黒曜が嬉しそうにブルルッと鳴き、俺の手に頭を摺り寄せてきた。


「敵の本拠地まで積んでいってくれるか?」


 そう聞くと


ヒヒィィィィィン


 と今度は大きく鳴きさっさと乗れと言わんばかりに背を俺の方に向けてきた。


「馬具がないが……まぁ仕方ないか。後日お前にあった鞍を……特注するしかないんだろうな」


「さぁゆくぞっ!!さっさと終わらせて美味い物が食いたいのぅ」


 いつの間にかリーネが先に黒曜の背に跨っていた。

やれやれと思いながら俺も黒曜に跨る。

轡も手綱もないのでどうしようかと思っていたら


「こう……かの?」


 リーネが魔力を使って黒曜の君に簡易の轡と手綱を作っていた。


「おお、やるなぁ」

「これくらいは当然じゃて」


と褒めると嬉しそうに目を細めてニコリと笑う少女。

俺はリーネの作った手綱を手に取りそれを引く。


ヒヒヒィィィィン


と黒曜は大きく地を蹴って走り出す。

鐙がないため安定性に欠けるがなんとか身体を丸めてしがみつく。


「お~~~はやいはやい」


俺と黒曜の君に挟まれる形になったリーネはその速度が今まで乗っていた馬と比べ物にならぬ速さで喜んでいた。


「これならあっという間だな」


 俺たちは闇夜を風の如く駆けていった。




 激しい爆発音と建物の揺れが何度か地下の隠し部屋まで鳴り響き、そのたびに小さい子が泣いて悲鳴を上げる。


「大丈夫よ、ここは崩れないわっ」


 シスターがそう言って子供たちをしっかり抱きしめる。

 少年は歯ぎしりをしそうなほど歯を噛み締めて、この状況でなにもすることができない自分を歯がゆく思っていた。


 あの2人は死んでしまったのだろうか?


 地下に入ってほどなく上は静かになる。

一度だけ見たことのあるお化け馬車は去って行ったのだろうか?

だが、去るときも大きな荷馬車の音がするはずだが、ゴゴゴゴゴゴという大きな地面を擦るような音が地下にまで鳴り響いた後はまったく音がしなくなった。


「お、俺、ちょっと様子を見に……」


 少年が勇気を振り絞ってそう決断したとき


「ダメッ!!やめて!!朝が来るまでは、朝が来るまでは我慢しましょう?」


 シスターがそう言って少年を強く抱きしめる。

抱きしめられて気づく、シスターが震えていることに。

小さな女の子シスターの言葉を思い出す。


皆を守ってやるがよい。


 そう言っていた。


「……大丈夫だよ。シスター。俺ちゃんとここにいるから」


 少年はシスターを強く抱き返した。


 その後はずっと静かだった。

いつの間にか寝てしまっていた少年はシスターに起こされる。

何度も心配するシスターを宥めて少年は外に出る梯子を上り、ゆっくりと地下への床下扉を開けて様子を伺う。

いつもの狭い部屋、そして隠し扉が見える。いつもと違うのは明るい日の光が扉の隙間から漏れていることだった。

床下から這い出てゆっくりと隠し扉を少しだけ動かし向こうを覗く。


「うわぁ……」


 少年が見たのはいつもの礼拝堂の中ではなく、何もなくなった外の景色であった。

外に出てみると隠し扉がある側の建物は残っていたが祭壇側はすべてなくなっていた。

外は太陽が頂上近くまで登り、熱い日差しで地を焼いている。

何もかもが吹っ飛んで辺り一面にその残骸が飛び散っていた。

少年が礼拝堂を出ると大きな道が地面をえぐられてボロボロになっていた。

お化け馬車の仕業だ。少年はすぐ察しがついた。


じゃああの人たちは死んだのか?


 少年が辺りを見回したが少女の死体もおっさんの死体もない。

ただ大きな馬車の残骸が転がっていた。

馬車は右側の車体が何かに吹っ飛ばされたようになくなっており、そのまま地面を滑ったのだろう。

地面をえぐって進み、そのまま止ったようだった。

 馬車の残骸にはなにも乗っていなかったが、なにか紫色のべたべたした物がシュウシュウと奇妙な煙を上げて辺り一帯に零れ出ていた。


「うわっくさっ」


 あまりの臭さに少年は鼻をつまむ。

なにがあったのかは分からない。だが少年はあのおっさんと女の子がこいつをやったんだ、と直感的にそう理解した。

 だが、2人は?

辺りを見回してみたが母屋が礼拝堂の残骸が飛んできて至る所が壊れていたこと、その近くの木に縛られていた馬が死んでいたことしか分からなかった。

馬には旅道具が乗っていたところをみるとおっさんたちの馬だったのだろう。


 ある程度現状を確認して、危険がないことをシスターに告げに行く。

シスターは半信半疑であったが地上に恐る恐る出て来て壮絶な現場を見てあたふたしていた。

 だが、危機が去ったわけでもない。

夜は変わらず地下室で過ごし、昼間は後処理をする。

そんな生活が2日も続いたころ、リードストンさんの鉱山の方角から一人の男が歩いてきた。

 憔悴しきっていて少年たちを見るなり倒れてしまった。

男は鉱山で働くキンナフおじさんだった。少年の住んでいた場所の近所に住んでいてたまに挨拶を交わしたことがあったのだ。

 キンナフは2日間なにも食べずにリードストンの所から逃げてきたそうだ。

鉱山にはまだたくさんの人が動けず残っているそうだ。皆、憔悴しきっていて町までは戻れないとのこと、唯一体力の残っていたキンナフおじさんが命を懸けてここまで歩いてきたとのことだった。


とにかくおじさんは憔悴しきっていてうわごとのように


「リードストンさんたちは死んだ。すぐ鉱山に…‥鉱山に助けを……」


 そう言っていた。

シスターはすぐに町の酒場に走り、救援を呼んできた。

 皆詳細を知りたがったがキンナフおじさんも詳しいことは分からない、とのことだった。

 ただ若い牧師が来てリードストンの一味が壊滅した、とだけ言ったそうだった。

少年はすぐにここであったおっさんと少女のことだと察して


「小さい、小さい女の子のシスターはいなかった?」


 キンナフおじさんに問うと


「ああ……いた。なんだかわからないが角の生えたシスター服をきた悪魔みたいな少女が確かに……」


角?

角が生えた?


 少年にはおじさんが何を言ってるのかわからなかった。


「おっさんたちはどこに?町には帰ってきてないよ?」


 少年はさらに問いただす。

キンナフおじさんは目を瞑り気の毒そうに言った。


「男の方は死んでた。死体が転がっていた。眉間を撃ち抜かれて……あれは即死だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強ステータスな俺、死んでは異世界転生を繰り返し、次々とチート能力を手に入れて無双する。~テンプレ欲張りセットな俺の異世界放浪記~ 新居部留源 @yatunasi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ