第75話 双子

―――「天国への扉」のライブが終わり、次は俺達の番になった。俺達がステージに上がると、いつものようにフロアーが騒ぎだす。


「来たー♪ やっとハイスペだよ」

「今日もニッピとノンノノの衣装可愛いな」

「チラチラ見える顔もかなり可愛いんだよな」

「トゥエルブ最近、イケメン度上がってるよね」


 最近大人しいハイスペックスだが、大人しいって評価は俺ら内輪で出してる評価だ。外野は相変わらす俺達の演奏に興奮する。有り難い事だ。

 俺達はいつもどおりに演奏を始めるのだが、曲の入りは毎回工夫を凝らしキーボードからの入りだ!


 相変わらずのJAZZの風味が強い演奏……ノンノノの「味」だな。「この旋律はこの作曲家」って分かるように、ノンノノの旋律は、ノンノノと分かる味が入っている。多分、俺のソロも癖があると思う。

 今日はノンノノの旋律に合わせたドラムもシャッフルが跳ねまくり、粋なビートになっている。


 俺達の楽曲はライブになると殆どがアドリブだ。前奏は譜面の基本を残しつつもアドリブで入る。間奏……ソロパートはコードだけは譜面どおりで、他はほぼアドリブだ。なので毎回曲が違ってくる。

 酷いときはソロの取り合いになるが、それでも曲としてしっかり成り立つから不思議である。全員の根本に「音を楽しむ」があるのでなんだかんだやってても「音楽」になってるんだろう。


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 ライブが終わり、私達は袖に下がった。すると、私達……ノンノノに声を掛ける子がいた。


「ハイスペックスのキーボードって希乃さんだったんだ……驚いたよ」


「―――!」


 皆その声に振り向いた。そこに立っていたのはライブが終わってまだ着替えをしていない「浅原波奈々あさはらばなな」だった。


「それにボーカルの子はあの時ロビーにいた子だね。声で分かっちゃった。男の子達もお久しぶりです。ベースの子は初めましてだね」


 丹菜は帽子で顔を隠しているが声でバレてしまったようだ。耳いいなこの子……。


「浅原さん……だったよね。ごめん、私の名前ここで出さないで」


「あ、ごめんなさい。もしかして……秘密なんだね?」


「うん。学校でも内緒。ここに居るメンバー皆内緒にしてるから学校じゃ絶対言わないでね」


「うん、分かったよ」


「でも、よく私だって分かったね」


「演奏聴けばね。コンクールと同じだったし」


「なるほどね」


 すると浅原と名乗る女の後ろから男が声を掛けてきた。


「波奈々、何してんだ? シャワー使っていいぞ」


 浅原の後ろに、今年学校一イケメンになった高瀬を脅かすようなイケメンが立っていた。


「あ、良いところに来た、えーっと、このバンドの子達、この前のコンクールのロビーで挨拶した……あ、名前言っちゃダメだよ。内緒だって」


「え? ハイスペックスだよね? あ、そうなの? え? あの時の可愛い子達? へー……また会ったね。ハイスペックスって同じ学校なんだ。改めて宜しく」


 丹菜はその挨拶に応じた。


「あ、宜しくお願いします」


 浅原波奈々が俺達がハイスペックスだって事に感激している。


「それにしても生のハイスペックス凄いね。まさかあのロビーに居た人達がメンバーだったなんて思わなかったよ」


「私達の事知ってるんですね」


「当然だよ。この業界で知らない人いないんじゃない? ギターもめちゃくちゃ上手かったね? 大河」


「ああ、やっぱ本物は全然違うね。前、動画で聴いた時と旋律違ってたけど……今日のはリミックスバージョンとか?」


「いえ、私達ってその場のノリで演奏してるんで……何とも説明できないですね」


「はぁ? ノリであれなんだ? へぇー、尚更凄いや」


 俺は評価を本人に言う奴が好きじゃない。けなされれば頭にくるし褒めて来たら何様かと思う。というか胡散臭さを感じる。


 多分、ここにいると俺はキレる。キレる前にこの場を立ち去った方がいい。なので皆に催促した。


「―――すまない、そろそろ行かないと……控え室、次の組待ってるから……」


「そうですね」


「あ、引き留めてごめんね。夏休み明けたら宜しくね」


「はい。失礼します」


「じゃーねー」


 丹菜は丁寧に頭を下げた。俺は軽く会釈した。皆も会釈程度に頭を下げていた。


 双子の兄妹か……面倒な予感しかしない。

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